乙麻呂
2024-09-15 18:27:38
37637文字
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かいこさんの現代AUネタまとめ

かいこさんの現代AU風情の芸能ネタに夢を見過ぎで、色々と書き散らかしてしまった物をまとめました。《三次創作》です。
仙京坂35の活動やその他色んな部分は捏造と妄想です。


《仙京坂35のライブを成り行きで見てしまう風信の話》



何でこうなったのか。
訳が分からないまま、風信はドームの二階席の一つに座っていた。
私生活は勿論、仕事でも今まで一切縁が無かった広大なイベントホールは、二万人を収容出来るのだとライブスタッフが聞いてもないのに教えてくれた。
薄暗いホールは一階も二階も人がひしめき合い、ペンライトやら団扇やらを持って囁きを交わしている。
チケットは完売したのだと、これもライブスタッフが聞いても無いのに教えてくれた。つまりここには二万人がいる訳だ。
その“完売した”ライブに何故自分が居るのか。
そんなの、風信自身が問いたい。


その場所で仕事があったのは偶々だった。
予定よりも早くに終わったのは良いが、帰ろうにも交通渋滞が酷すぎてタクシーが動かない。
近場で時間でも潰そうとファミレスなり喫茶店なりを探したが、どこも超満員だった。
こんな平日に何事だと頭を捻りながら歩いていると、巨大なポスターが目に付いた。
今日この近くでとあるアイドルのコンサートがある事に、その時初めて気付いた。しかも、開演時間が一時間後だ。道理で人でごった返しているわけだ。
しかもよく見ると、大半が青やら緑やら黒の服や小物を身につけている。
ここまで異様な状況なのに気付かなかった自身に嘆息する。
引き返そうにもこの人の波に逆らって歩く事は難しく、人の波に沿って歩けば行く先はライブ会場となる。
どうした物かと考えながら、デカデカと掲げられたアイドルの澄ました顔をじっと見上げていると、ふと肩を叩かれた。
「もしかして、風信さんですか?」
振り返ると、正にこのライブのライブTシャツを着たスタッフが立っていた。
…………ああ」
風信である事に間違いは無かったので、頷いた。
スタッフは愛想の良い笑みを浮かべた。
「ああ、成る程、そう言う事でしたか。お困りでしょう?すごい人ですもんね。関係者用通路にご案内しますので、こちらにどうぞ」
「すまない」
何を納得したのかは知らないが、この人混みを抜けられるなら何でも良い。
ありがたくそのスタッフに付いて行った。
「いやぁ、ドームツアーの千秋楽でして、今日もチケットは完売なんですよ」
そんな、聞いてもいない事をペラペラと喋るスタッフに適当に相槌を打っていたら、気付いたらライブの関係者席にいた。


自分はこのライブを観に来たと、一言でも言っただろうか?
………………否。

自分はこのライブの関係者だっただろうか?
………………違う。

関係者席チケットをくれるような知り合いがいただろうか?
………………これには一瞬悩む。

確かに、このライブの主役であるアイドルグループとは顔見知りだ。
仕事でも何度か共演した事があり、風信にとって“個人的な知り合い”と称しても良いレベルだ。
しかし、ライブのチケットをくれる仲かと言うと、それは違う。
実際、チケットなど持ってもいない。
観に来いとも言われていないし、何なら『ライブをする』とすら聞いていない。
ただ、「暫く忙しいから来るな」と言われただけだ。



…………………??おかしいよな???


しかし、誤解を解くタイミングも無ければ、ここから出るタイミングも逸してしまった。
スタッフは忙しそうに立ち去ってしまい、周囲にはライブ関係者だろう観客が座っているだけだ。
隣には、風信よりも長身の黒髪の青年が座っていた。
コイツこそ芸能人だろうと言う美麗な顔立ちは、誰かに似ているような気がするが、誰に似ているのだろうか。
傍らの紙袋には団扇やらペンライトやら、大量のグッズ。首には、ライブグッズだろうタオル。手首にはリストバンド。全て緑で統一されている。
ライブの邪魔をする奴は沈めてやると言わんばかりの気迫に、風信は思わず黙り込んだ。
が、この男の存在感が強過ぎて、風信の存在が紛れるのはある意味ありがたい。
仕方なく、風信は深く椅子に座り、眉間に指を当てながら周囲を見遣った。
二階席なので、一階の何千何万の観客が一望出来る。
女の比率が多いが、男もいる。
首からかかったオペラグラスに何だか胸だか腹だかがモヤッとなった。
ここの鑑賞の必須アイテムなのかと首を傾げる程に皆が手にしているペンライトは揃って同じ色合いの青と緑とグレーに光り、デカいうちわにはアイドルの写真が貼られていたり、、蛍光の文字ででっかく《ウィンクして》とか《舌打ちして》とかそんな注文が書かれている。

舌打ち………………

そして、何箇所かにある巨大モニターには、同じロゴが映し出されていた。

【仙京坂35 Amour Winds Tour 2022】

…………………まぁ、そういう事だ。
言っておくが、来たかった訳ではない。いやむしろ来たくなかった。
だって、完全にアレだろ。女装だろう。
最近姿を見かけ無いなと思っていたら、そんな事をしていたのか。



…………………と、不意に照明が一気に落ちた。
暗闇と共に、嘘みたいな静寂が訪れる。しかしそれも一瞬の事だった。
心臓ごと震わせるような重低音がドームに響く。
イントロが流れ、暗闇を何十ものレーザーライトが縦横無尽に飛び交う。
メインステージにスモークが溢れ出し、そして……………


いつの間にか、ステージには三つの人影があった。
強烈な白い光に、三人のシルエットが浮かび上がる。
ライトがステージ全体を照らす物に切り替わると、そこには三人の“女性アイドル”が立っていた。
ライブ用の、普段よりも煌びやかな衣装。トレードマークの、それぞれを象徴する色のでかいリボンで結い上げられた長い髪。
二万人の歓声が響き渡る中、緑のリボンの“女性アイドル”がパンッと扇子を開く。観客席をぐるりと見渡すと、挑発するようににまりと笑った。
『さぁ、○○でのラストステージ!!吹き荒れる準備は出来てる?行っくよー!』
そして、師青玄が曲のタイトルを叫ぶと同時に、三人がマイクに向かって歌い始めた。
風信の隣で、強面の青年が片手で緑のペンライトを五本扇状に持ち、片手で団扇を掲げた。
団扇には《風師❤︎三界一可愛い》と書かれていた。しかし、その目はどこまでも鋭い。
「少し肩と脚を出し過ぎじゃ無いか?」
強面がボソリと呟いた。
奇遇にも、風信も慕情に対してそう思っていた所だった。
割れるような歓声にも埋もれる事のない歌声が、ライブ会場に響き渡る。
アップテンポな曲に、あっという間に会場の熱は最高潮に達した。



それからの事はあまりよく憶えていない。
“女装アイドル”が流行るなど、世の中は物好きな奴ばかりだと思っていた。
しかし、目の当たりにしてみれば、それはどうしようもなく完成された一つの“アイドル”だった。
女に空目しにくい高身長は、ステージの上では圧倒的な存在感を伴って映えていた。
顔が綺麗なのは知っていたが、ライトに照らされ巨大モニターに映し出された顔は、TVやポスターで見るのとは別種の美しさがあった。
高いとは言い難いテノールは、時にしっとりと、時に力強く安定して響き渡る。
そして、男にしては艶かしく、女にしてはあまりに力強く迫力のあるパフォーマンス。
次々に曲が変わり、ステージの演出が切り替わり、観客が悲鳴を上げ、途中三人のMCが入り。
正に“吹き荒れるような”時間に身を委ね、気付けばライブも終わりに差し掛かっていた。
風信は結局、途中退場し損ねた所か、目を離す事すら出来なかった。
笑顔を振り撒き、うちわのメッセージにいちいち答えて片目を瞑ったり投げキッスをして扇子で扇ぎ、広いドーム全方位に手を振ってと忙しなく動き回る師青玄とは違い、慕情や明儀はあまり観客に視線を向けない。うちわの内容にも応えない。
慕情は勿論歌いながら指でハートなど作らず、歌いながらじゃれついて来る青玄にさえ眉を上げる。
なのに、スッと背を伸ばし、前を見据え、時に目を伏せ、決められたステップを踏みながら歌い上げるその姿はあまりに“アイドル”だった。


と、不意に、自分のパートを歌い終えた慕情が目を上げた。
バチッと目が合う。
それまで微動だにしなかった慕情の涼やかな表情に一瞬驚愕が浮かんだ。
風信は我に返って青褪めながら、その一瞬の“素”の表情がやけに脳裏に灼け付いた。
慕情はあからさまに迷惑そうに表情を歪め、舌打ちした。
それはほんの刹那の、誰の目にも触れない反応……………となる筈だった。


口元の高性能なピンマイクにより、ドームに舌打ちが響かなければ。


観客がどよめき、こちらに背を向けて歌っていた師青玄が驚いた顔で振り返る。
しかし、その目がチラッと上に向いた瞬間、師青玄は何とも悪戯じみた笑みを浮かべた。
ついでにこちらに向けて投げキスを寄越し、手を振る。
「全く、はしたない真似をして」
強面は唸るが、何となく嬉しそうだった。
少し緩んだ目元は、どことなく師青玄に似ていた。
師青玄は慕情の耳元で何かを囁き、慕情が渋い顔でマイクに入らないよう何かを言い返す。
『あらあら、いつの間に呼んだんだの?』『呼んで無い』
そんなやり取りをしているのが、何となく分かった。
明儀もこちらを見た気がしたが、こちらはほぼ反応無しだった。
むしろ、ありがたい。この場において風信の存在などスルーして欲しい。
観客達も次々とこちらを見上げる。オペラグラスで見てくる奴もいた。
観客席に動揺が走る。
一気に居心地が悪くなった風信を見上げ、慕情は実に険しい顔でフンッと息を吐くと、舌を出した。
いわゆるアイドルのファンサービスの一つ“舌ペロ”などでは勿論無く、分類するなら“あっかんべー”である。
もしくは、“見るな”か、“出て行け”か。
アイドルがライブ中にして良い反応では無いだろう。
込められた意味を思って眉を顰めたその瞬間、今度こそ何千何万の悲鳴が上がった。
慕情はライブを邪魔されたとでも言わんばかりに、それまでよりも更に険しい顔をしたが、結局その後は風信を一瞥もせず、その先を歌い上げた。
師青玄がこっそりと片目を瞑って指先でハートを作る“ファンサ”を向けてくるのを薄目で見ながら…………………生憎、風信には『青玄がまた悪ふざけをしているな』以上の感想が無い……………風信は、慕情の姿に何故か体が熱くなるのを感じて目元を苦く染めた。



後から聞いた話によると、慕情のライブ中の舌出しは、後々《幻のファンサ》としてファンの間で語り継がれたらしい。自分には心底関係無いし、興味も無いが。




結局、風信が席を立ったのはライブが終了して一時間近く後の事だった。
このまま無数の観客の波に紛れるには、風信も知名度があり過ぎる。
幸い、関係者席は客席から離れているが、風信がいる事に観客の何割かが気付いてしまった。
ふらふら出て行っては取り囲まれるだろう。
いっそ素知らぬ顔でスタッフ用通路を通って帰ってやろうかと考え、誰も居ない質素な廊下を歩いていたら、明るい声がかけられた。
「風信!!」
目敏く自分を見付けて駆け寄って来たのは、まだライブの衣装のままの師青玄
だった。
思わず一歩後ずさる風信に構わず、師青玄は風信の腕を掴んで引き止めた。
「はぁ、良かった。もう帰ったかと思った。もう、水くさいじゃん。何で来たの?誰からチケットを貰った?私達は送ってない筈だけど………まぁ、とりあえず楽屋に来て……
「行かない。これは………その………単なる手違いで」
「手違いで人のライブを荒らされては良い迷惑だな」
ハァ、とこれ見よがしな溜息がして、風信は身を強ばらせた。
師青玄の後ろから現れたのは慕情だ。
ライブTシャツは汗でぐっしょりと濡れており、額にも汗が滲んでいた。
首にかけたフェイスタオルでそれを拭きながら、慕情は皮肉げに唇を歪めた。
「お前がアイドルに興味があるとは、知らなかったな」
「興味などない!」
その顔を見返せず、風信は吐き捨てた。
剣呑な二人の空気など気にもせず、師青玄はコロコロと笑う。
「とか言って、慕情が珍しくファンサなんかするから何事かと思ったけど?」
「ファンサなんかしていない」
「ファンサ?挑発の間違いじゃなくてか?」
「挑発も立派なファンサだよ!」
即否定する慕情と怪訝な風信の言葉そのどちらも切り捨て、師青玄はやたらと力強く胸を張った。
成る程、師青玄はライブ中もやたらと客席を煽っていた。
しかし、それはライブを盛り上げる為だと風信でも理解出来る。
それに比べて慕情のは到底、ライブを成功させる気があったとは思えない。
もの言いたげな風信を胡乱な目で見返し、慕情はじとりと風信を睨んだ。
「関係者席に居座っておいて図々しい奴め。来るなら、差し入れくらい持って来たらどうだ?」
「だから、来るつもりでは無かったんだ」
風信は自身の髪をぐしゃっと掻き乱した。慕情の、化粧のせいで普段より大きく見える目を見返す事は出来なかった。


慕情から視線を逸らし、体も背ける風信をじぃっと師青玄が見つめる。
少し首を傾げ、やおら何かを納得すると、パンッと音を立てて扇子を開き、扇子の陰で耳打ちをしてきた。
…………………男性にはよくある事だから。うん、ライブで熱狂すると、偶にそうなるらしいから」
笑いを含んだ、しかしやけに真面目くさった声に寒気がしたのは、師青玄が美しい女の姿で身を寄せてきたせいだけでは無い。
………………
「恥ずかしがる事ないよ。どうぞ、お気になさらず。楽屋の隣にトイレが………
「何の話だ!?」
思わず声を上げると、師青玄は小さく肩を竦めた。
会話が聞こえなかっただろう慕情がこっちをじっと見て怪訝な顔をする。
師青玄は慕情を横目で見ると、わざとらしく風信の耳元に口を寄せた。
寄せたのに、慕情にも十分聞こえる声で言う。
「慕情の真剣な顔とファンサでドキドキしたくせに」
「してない!」
風信の何とも苦い顔を見遣り、慕情は顔を顰めたまま言った。
……………で、お前、私のファンだったのか?」
実際のファンに問いかけたらファンがたちまちアンチに変わりそうな迷惑そうな顔を見返し、風信は唸った。
「違う」
それだけは間違い無い。むしろ共演NGを出している。
慕情はムッと眉を寄せたが、すぐに腕を組んで面白くもなさそうにフンと鼻を鳴らした。
「楽屋に来る気が無いならさっさと帰れ。暇人が」
しっしと追い払う仕草までしてくれる。マニキュアが塗られた無駄に綺麗な指先を見遣り、風信は素気なく言った。
「言われなくても帰る。………邪魔をしたな」
「いえいえー。今度から、先に言ってね?チケット送るから」
笑顔でひらひらと手を振る師青玄とは対照的に、慕情はにこりともしない。
しかし、その目は風信を捉えていた。

………………あー」
ふと、風信は足を止めた。
頭を掻き、少し口籠ると言った。
…………ライブはよく分からないが、凄かった」
「それは良かった!ありがとー!」
青玄がケラケラと笑う。
慕情は眉を上げ、フンッと吐き捨てた。
「こっちは本気でやってるんだ。当たり前だ」


しかし、その耳元が微かに赤らんだのを見て、師青玄はそっと口元を扇子で隠し、目を細めた。