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井見
2022-08-03 00:49:20
86785文字
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ロックマンX・ゼロ二次
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【再録】イフ・オンリー・イフ
ロックマンX6~X8あたりのゲイト元気幻覚短編集フル版です ゲイトが起きたけど起きたは起きたで皆で色々うだうだしています。アクセルやなぜかダイナモも出てきます。
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それでも、と、どうか、が、ずっと渦巻いている。
先に戻っていてくれ、とゼロには言った。ゼロは「ああ」とだけ答えていたけれど、おれがこうして引き返していることも、その理由も多分わかっているだろうなと思う。
だって仕方がない。ゼロならばこんなことしないだろうが、おれはゼロじゃないから。
きっとゼロはおれを見て、甘いな、なんて言うんだろう。
ああ、でも
——
言ってくれるんだ。ゼロは今、おれの世界にいるのだから。
遠くで、何かが爆ぜる音がした。そして段々とそれが迫ってきている。
悩み直す時間は無い。おれは決断をする。
はやく行かなければ。
目的のはずの場所は、記憶よりも殺風景に見えた。さっき戦ったばかりのはずなのに、昔のことのように感じる。あの時突然現れた奈落はナイトメア現象の一つだったのか、他の場所と特に変わらない一部屋に戻ったままだ。
そして目的のレプリロイドもまた、最後に見た時と同じく地に力なく横たわっていた。
おれにとっては幸運だったし、おまえにとっては不運なのだろう。
「ゲイト
……
聞こえるか?」
確認のために呼びかけてみるが、返答はやはり無かった。うっすらと開かれているまぶたに触れ、閉じてやる。
わかっていたことだから、落胆はしない。だが、どうして、とは思わずにはいられない。
「馬鹿だな
……
」
どうしてこんなことを。
背後から轟音が響いて、意識が跳ねた。天井が崩れ始めている。崩落が近い。
見た目だけは割と綺麗なままの体の背と足を、自分の両腕でくるんで抱え込むように持ち上げた。救助の経験が役に立つのが皮肉だった。男の頭部と胸部を特に庇いながら、奈落や瓦礫を避けていく。
腕の中の男は一見眠っているようだが、おそらくここに残しておいても目覚めることはない。休眠状態を示す信号は確認できないし、胸に耳を近づけても何も聞こえない。何より壁や床と同じように、ひんやりと冷たい。このままただのモノとして、崩れ落ちてくる天井や床と一緒に瓦礫の一つになるだけだろう。
ならば、と思う。おれは諦めが悪かった。
だって、残っているんだ。体がここに残っている。炎の中でも、海の中でも、宇宙の彼方でもない。彼の体は目の前に、今はおれの腕の中にある。それはおれにとって、とても大きな違いに思えた。
彼は結局助からないかもしれないが、助けられるかもしれない。たとえ本当に助からなかったとしても、別れを言うことができる。
何かが変わる可能性がわずかでもあるのなら、それを拾ったっていいじゃないか。
今までいつだって、何も残らなかったから。
瓦礫の雨を抜けてある程度進むと、違和感に気がつく。ひと一人抱えているというのに、今まで何かにぶつかった覚えがない。運が良いと言うには不自然だ。
答えは程なくして明らかになった。すでに落ちたのだろう天井の瓦礫が、真っ二つに斬り伏せられていた。
淀みのない、燃えるような太刀筋。それは何度もおれを導いてきた輝きの痕だった。
「きみだって甘いな」
ゼロはいつもそうだ。
おれとゼロの考え方はしばしば異なる。ゼロはおれの今の行動を意味の無いことだと思っているだろう。それでもゼロは、おれのしたいようにさせてくれる。
ゼロはおれのことを、自分の違って優しいなんて言うけれど。ならおれを導くこのセイバーの軌跡は、優しさでなくてなんなのだろう。
*
出口はずいぶん遠く感じられた。行きは落ちていくだけだった反面、帰りは登らねばならない。体一つであればそれもまだ容易だっただろうが、今おれの手の中にはもう一人分の体積と質量がある。
おまけにナイトメア現象の残滓が、距離と時間の間隔を狂わせる。少しずつ回数と音量を増す崩落音だけが確かだった。
その中でも一つ幸運なことがあった。
どうやら地上は夜明けらしい。ほんの小さな光が、頭上高くにうっすらと輝いていた。しかしあれがまやかしの光であれば、おれはこいつと心中かもしれない。
今のおれには信じることしかできなかった。その光を目指して駆け上がる。
そして、あとほんの数メートルにまで迫った。両手が空いていれば伸ばしていただろう。
もう一度踏み込もうとして、おれの体は逆にがくりと傾いた。
足元には大きな亀裂。今の踏み込みで壊れたらしい。
このままでは落ちる。光を見つけたあの瞬間まで巻き戻る。
抱えたままでは壁を蹴り上がるのも難しい。ここは一度体勢を整えつつ落ちてから、もう一度上がるしかないのか。着地に備えて視線を足元に向ける。
瞬間、光が消えた。
もう出口も埋まってしまった? おれは思わず絶望と共に見上げた。
そして理解する。
光は消えたのではない。遮られたのだ。
「しっかり抱えてろよ」
金色の髪を靡かせた誰かが、おれをすり抜け背後に回る。
ゼロ。
おれが名前を呼ぶと同時に、体がぐっと浮き上げられる。ゼロはおれの背に両腕を回し、壊れゆく瓦礫を蹴り、そして空を蹴った。ゼロにしかできない芸当だ。
ゼロがおれ達を軽々と光の元に連れ出すと、示し合わせたように出口ががらがらと崩れていった。
そして辺り一面を覆う砂が何もかも飲み込んで、まるで何も無かったかのように真っさらになってしまった。
この腕に抱えた男だけが、ここに残った。
「助かったよ、ゼロ。ありがとう」
崩落を予見して、わざわざ降りて来てくれたのだろう。
しかしゼロはふむ、と首を傾げて、
「何がだ?」
なんて言った。おれは顔が緩むのを止められなかった。
「いつもの話さ」
「そうか」
ゼロは短く答えると、髪についた砂埃を振り払いたいのか、頭をふるふると左右に揺らした。お礼も兼ねて、帰ったら洗う手伝いをしよう、と予定を立てた。
そう、帰ったらだ。帰ることができるんだ。
それからおれは少し歩いて、瓦礫がわずかに顔を出している場所まで移動し、抱えていた彼を下ろした。瓦礫の枕に砂のベッドでは、寝心地は悪いかもしれない。それでも彼はやはり、目を開かない。
「なあ、もう朝だ。
……
起きろよ」
無防備な頬にそっと触れる。反応は無い。体温は外気温とそっくり同じだ。おれは何度も、こうなったレプリロイドを見てきた。
慣れてしまってはいけない、と思う。でもそうすると、痛みは新鮮に心を突き刺す。
罪の無いレプリロイドをたくさん巻き込んだことも、ゼロを利用したことも、エイリアを悲しませたことも、おれはあんなに腹を立てていたはずなのに。今おれの中にあるのは、悲しいという気持ちだけだった。
おれはゲイトにもう一度、馬鹿だな、と呟いた。
すべて意味の無い行為だったかもしれない。
それでも、どうか、何かが。
おれは確かに、そう祈っていた。
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