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camellia57
2024-09-02 06:47:23
38497文字
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君の横顔に恋してる
アリスに一目惚れした青火村くんの話。
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火村君は本当に我慢しているのかあれから1週間姿を見なかった。逆にこちらの方がまた待っているのではないかと彼の姿を自然と探してしまっていたくらいで。彼がいないことにホッとしたような、少し残念なような、そんな気持ちになる。1週間も経つとあれは冗談だったのでは? なんて思い始めて、約束を覚えているのは自分だけかもしれないと不安な気持ちで喫茶店のドアを開けると、同じ席に彼が座っていた。店内から外の様子が見えていたのかこちらにすぐに気がついて目が合う。片手を上げた彼の元に早歩きで向かう。
「ごめん、待たせた?」
「有栖川君は授業だったんだろ。俺は水曜は3限までだから。本当は同じ講義を受けに行こうかと思ったんだけど自重したんだ。それに君のことを考えながら待つの、悪くないよ」
……
情報量が多い。
「4限は何してたん?」
「図書館で調べものをしてたよ」
「そうか。あ、ブレンドをお願いします」
火村君が読みかけの本を鞄にしまう。メモを取りながら読んでいたみたいだけれど彼のことだから難しい専門書だろうか。
お互いにとりあえずお疲れ様と言い合って一息つく。
「ほんまに、約束守ってくれたんやな」
「我慢する方? ここで会う方?」
「両方」
「俺から言い出したことなんだから当たり前じゃないか?」
「そやけど、君が嘘をつかない奴なんやなって」
「もしかして、俺のこと疑ってた?」
「疑ってるというよりは、まだ信じられない気持ちやな。確認したいんやけど、君は俺とどうなりたいんや?」
前回、突然のことに驚いてしまって聞けなかったことを今回はきちんと確認したい。
「この間言った通りだよ。結婚を前提として付き合って欲しい」
「その付き合うって、恋人になって欲しいってこと? 君は俺のことが恋愛対象として好きなの?」
「正直なことを言えば、人を好きになったことがないからこれが恋心というものなのかはよくわからない」
意外な告白だった。つまり、これが彼にとっての初恋になるかもしれないということ?
「そうなん?」
「うん。こんなこと初めてだ、って言っただろ。有栖川君のことを思い出すと自分で自分の気持ちをコントロールするのが難しくなるんだ。今何しているんだろうって会いたくなるし、会ったらずっと一緒にいたくなるし、一緒にいると君にもっと近づきたくなる。怖がらせたくないからこれでも相当抑えてる。当たり前って言ったけど君に会いに行くの、相当我慢してた」
彼が直球で投げてくる感情のボールは重くて、受け止めるのがやっとだ。
「なんで、俺なん?」
「なんでって言われても。こう言うのって理屈じゃないんじゃないか?」
「け、結婚、は、なんで?」
ふ、と火村君が笑う。
「今日の有栖川君は質問が多いな。いいよ、疑問に思うことなんでも聞いてよ。俺のこと知って欲しいし。で、俺の考えとしてはお付き合いの先に通過点として結婚があると思ってるんだけど有栖川君は違う?」
「
……
考えたことないからわからん」
ひどい話かもしれないがいつかこの人と結婚するのだと思って付き合ったことはない。そもそも彼のように「付き合って欲しい」と告白して関係が始まったこともない。何となく恋人のような状態になって自然消滅していた。
「交際0日婚という言葉もあるようだし、必ずしも恋人になる必要はないのかもしれないけど、本気で君との未来の約束が欲しいと思ったから結婚を前提したお付き合いを申し込みました。これで納得した?」
「まあ、なんとなく、は」
「なんとなく?」
火村君が苦笑する。彼の真摯さは伝わっているけれど疑問は尽きないのだから仕方ない。
「同じこと繰り返してしまうけど、君が俺と付き合いたいって言うんが信じられん。なんで俺と? って思ってしまう。やってこないだの話しぶりからすると君ってモテるんやろ? それに君と一緒にいるとやたらと視線感じるんや、俺が隣にいるのは不釣り合いって言われてるみたいに思えてまう。こんな、面倒なやつじゃなくて君にはもっと相応しい人がおるんやないの」
火村君はきっと真っ直ぐな人なんだろう。彼からの好意を素直に受け取れないのは自信がないからで。今の自分も未来の火村君も信じることができない。今の彼の気持ちが本物だったとして10年後どころか1年後、半年後に同じ気持ちかなんて誰にもわからない。同じだけ時間が経たないと正解はわからない。もし10年後に嘘になったら? そんな未来の約束をすることが怖くないのだろうか?
こちらの言ったことに納得がいかないのか火村君は不服そうな表情を浮かべている。
「不釣り合いとか、もっと相応しい人とか、そんな形があるんだかないんだかわからない存在じゃなくて俺は君がいいんだけど。君に選ばれないのなら不特定多数にモテたってそんなことは意味がないよ」
「
……
不特定多数にモテるんや」
「君が言うからだろ。別にモテないよ」
「ほんまに?」
「モテて欲しいのか欲しくないのかどっちなの」
眉を下げて困ったように笑う。
どっちなんだろう? 彼の癖のように唇に指を当てて考えていると何かを思い出すように火村君が話しかけてくる。
「有栖川くん、掌見せてくれない?」
「手相でも見たいんか? はい」
掌を上にして彼の方に差し出すと「顔の前に広げる感じで」と指示される。言われたと通りにすると、そこに彼が掌を手首の高さを合わせて重ねてきた。
は?
「有栖川君の手は
…………
、あんまり大きさ変わらないね。俺の方がちょっと指が長い?」
いやいやいや、なんやねんこれ。
触れた掌と指から彼の体温が伝わってくる。少し硬くて節くれだった指の感触。
こんなところを知り合いにでも見られては困るのだけど火村君が離そうとしないからこちらもそのままの状態で彼を睨む。
「
……
なにがしたいんや」
「軽いスキンシップが効果的だって書いてあったから実践をしてみた。褒めるとより効果があるらしい」
「褒められとらんけど」
「手の褒め言葉が浮かばなかった、すまない」
何かはあるやろがい! こいつほんまに好きなんか? まあ、結局のところ好きだとはっきりとは言われてないんやけども。
……
ほんまに好きなんか?
何かやり返してやりたくなって、合わせた掌を少しずらして軽く指を曲げると彼の手を握るような形になる。彼がびくりと手を引こうとするので力をこめる。
「え?」
「軽いスキンシップが効果的なんやろ」
「そ、そう、みたいだ
……
」
火村君が反対の手で顔を抑えている。
……
照れている、のか? よく見たら頬がほんのりと赤くなっている。意外な反応に驚くと同時に彼の照れが繋いだ手を通して伝わってきてこっちまで何だか恥ずかしくなってくる。手を解こうとすると今度は彼が指を絡めてきた。こちらが「え」と驚く番で。
向かい合って2人で何をしているんだと冷静な自分が警告してくるのに、入口の鐘が来客を告げるまで視線も合わせず、お互い無言で手を握ったままだった。
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