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mishiadd
2024-07-31 22:03:01
21710文字
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カルデア剣陣営は恋愛ができない
カルデアの宮本伊織は普通に恋愛できるらしいことが発覚して「生前私とは恋愛してくれなかったくせに今更なに自分だけ普通の恋愛しようとしてんの?」ヤマトタケルvs「いちいち生前の宮本伊織と比べるのやめてもらっていいですか?」宮本伊織の雰囲気最悪ギスギス恋愛白書。左右決まってないシュレディンガー剣陣営。200000%ハッピーエンド…の筈!(ダメだったら教えてください…)
概要:
https://www.pixiv.net/artworks/121033117
概念的裏面「アンダー・ザ・ローズ」:
https://privatter.me/page/66be9dee6457e
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乙の章・その一
うっすらと脳裏に残る、おぼろげな記憶。
それが誰だったのかはわからない。ただ、場所はどこかの水茶屋だったように思う。
赤い布の掛かった床几に並んで腰を下ろして、街路に咲いた満開の桜を見上げながら、蜜のかかった団子でも食べていたように思う。
どうしてそういう話になったのかはわからない。その声すら思い出せない。ただ、その言葉だけは覚えている。
「誰かに恋をする心持ちとは、とても素敵なものなのだ」、と。それはそれはひどく多幸感に満ち満ちた、今にも泣き出してしまいそうな顔で教えてくれたものだから。
――
だから、ああ
彼がそう言うのなら
、
それはきっとそうなのだろう
と。
俺はとても素直に納得して
――
――
そして、ひどく羨ましくなったのを覚えている。
◆
――
と、思ったのだが。
はあ、と今日何度目かの溜息が出る。
『恋愛』とはひどく幸せで素敵なものだと聞き及んでいた筈なのだが。実際にやってみれば、何のことはない、今までの比ではない程に俺は苛立ちを募らせている。
この胸のむかつきが「幸せ」で「素敵」なものなのだとしたら、そうと受け取れない俺自身がまだまだ未熟者だということなのだろうか。
「
……
セイバー」
ずきずきと痛んできたような気さえするこめかみを押さえ、名を呼ぶ。
腰に手を当てて仁王立ちになったセイバーが、意地の悪い表情を浮かべて先程から俺を小一時間なじり続けている。
曰く、「我らは
付き合っている
のにきみは周回明けの私を迎えにも来ないんだな」。
「おまえが帰ってきていたことに気付かなかったんだ」
「ほう。きみは私がいつどこで何をしていようとまったく気にならないということだな。私にまったく関心がないということだ」
「そうではない。そうは言っていない。ただ、少し胤舜殿と立ち話をしていて」
「そうかそうか。インシュンとのおしゃべりが楽しくて私のことなどすっかりきみの頭の中から消え去ってしまっていたか。きみにとっては
恋人
の優先順位などその程度だろうな」
ぐぬぬ、と言葉に詰まり、苦虫を噛み潰したような顔をしながらぼそぼそと告げる。
「そんなことはないと言っている。俺の恋人はおまえだよ、セイバー」
「きみにその言の葉の意味が本当に理解できているのか? ただ言えばいいというものではないぞ」
「
……
では一体どうすればいい」
「本当に私に恋をしているならどうすればいいかなんてそのくらい自分でわかる筈だろ。
――
それに」
はあ、とセイバーが急に眉尻を下げる。俺から目を逸らし、どこか遠くを見るような目をした。
「イオリだったら
――
宮本伊織だったら、別に私が恋人じゃなくたって迎えに来てくれてた」
「
……
は?」
ぴき、と痛みを覚えていたこめかみに血管が浮き上がるのを感じる。
俺の声が聞こえているのかいないのか、溜息をついたセイバーが肩をすくめて言い放つ。
「宮本伊織だったら真っ先に私を迎えに来てくれていたし、腹が減ったと言えば米を炊いて夕餉の準備をすると言ってくれてた。
ふたりで長屋まで歩いて帰りながら、私がひとりで江戸の町で何を見聞きしてきたか穏やかな顔で聞いてくれてた」
「ハッ、なんだ」
とても自分の声とは思えない、皮肉に満ち満ちた声が出た。
「結局貴殿はていのいい飯炊き役に懐いていただけのようにお見受けする。
そんなに腹が減っているならごちゃごちゃ言わずともさっさと食堂に連れて行くが」
「
……
きみ」
セイバーの長い三つ編みが揺れ、ぶわりと風にあおられたかと思うと解ける。次の瞬間、再臨して姿の変わったセイバーが、神の怒りを迸らせながら俺を見ていた。
「
――
言っていいことと悪いことがあるだろう。訂正しろ」
「なんだ、違うのか?」
「そうじゃない。そんなんじゃない。
――
私の想いなんてきみにはわからない! 訂正しろ!」
喚き散らした拍子にセイバーの神気の一部が水飛沫の弾丸のようにこちらに飛んでくる。
それを刀の先でいなして逸らしながら、「だったらおまえもいちいち
その名前
を出すのをやめてくれないか」と冷めきった声で告げた。
「
宮本伊織
がどうだったかなんて、俺に聞かせて一体何がどうなると期待しているんだ? 俺がわざわざ
そいつ
を真似ておまえの機嫌を取るとでも?」
「妙なことを言う。きみが宮本伊織だろう」
「おまえがそう思っていないんじゃないか」
「おまえ、」とセイバーの首元に刀の切っ先を向ける。当然のことながら少しも怯む様子を見せないセイバーに肩を竦め、納刀しながら言った。
「やたらと『恋愛』の作法で俺に説教を垂れるが。
――
だったら、おまえだって
恋人の俺
以外の誰かの名前を出すなよ。礼儀に反するだろう」
「
……
言うじゃないか」
ふわりとセイバーの長い髪が揺れる。目の前でしゅるしゅると長い三つ編みが編まれていき、出で立ちもいつもの白妙に戻る。
「そうだな。私の恋人はきみだ、
宮本伊織
。せいぜい、ここから挽回してくれ。きみが本当に『恋愛』ができるところを、せいぜい私に見せてくれよ」
「ああ、無論だ。
――
さあお手を、セイバー」
右手を差し出す。一瞬まごついたような顔をしたセイバーが、目を逸らしながら「ん」とこちらに左手を差し出してくる。その手をそっとすくい上げ、手の甲に軽く音を立てて口づける。そのまま手を繋いで歩き出すと、呆けて一歩も二歩も出遅れたセイバーが背後で「ききき、きみ、そういうことばかり一体どこで!」と盛大に喚き散らす。握りこんだセイバーの指先までもが真っ赤に燃えて熱を孕む。
ハッ。
――
ちょろいくせに偉そうに!
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