mishiadd
2024-07-31 22:03:01
21710文字
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カルデア剣陣営は恋愛ができない

カルデアの宮本伊織は普通に恋愛できるらしいことが発覚して「生前私とは恋愛してくれなかったくせに今更なに自分だけ普通の恋愛しようとしてんの?」ヤマトタケルvs「いちいち生前の宮本伊織と比べるのやめてもらっていいですか?」宮本伊織の雰囲気最悪ギスギス恋愛白書。左右決まってないシュレディンガー剣陣営。200000%ハッピーエンド…の筈!(ダメだったら教えてください…)
概要:https://www.pixiv.net/artworks/121033117
概念的裏面「アンダー・ザ・ローズ」:https://privatter.me/page/66be9dee6457e

甲の章・その一



どうやってそこまで持ち込んだのか今となってはわからない。

多分、確か酒宴の場での会話だったように思う。数人のサーヴァントで円になって杯を交わしていて、私はイオリに「鄭の屋敷で馳走になったときみたいだな!」と言って、またぞろイオリは曖昧な顔をして面倒くさそうに聞き流して、そして深酒をしたように思う。
それで、確かその場にカルデアでも有名なおしどり夫婦の片割れがいて、その流れで誰かがイオリに「生前に好いた人はいなかったのか」みたいな話をしたんだと思う。それで、私が口を挟む前に、イオリが言ったのだ。

「それが、よく覚えていない。大切な人は何人かいたように思うが、色恋をしてきたという実感はとんとない。――だが、不思議なことに今ここに居る俺は、なんとなくそういうことができるような気がしている。……してみたい、ような気がしている」

ヒューウ、と北米出身の誰かが囃し立てる。「それってえ、伊織くんは誰かと恋愛がしてみたいってことお?」とべろべろになったサーヴァントが酒杯を向けながらあやしげな呂律でのたまうと、あろうことかイオリが、

うん、と頷いたのだ。



――は?



「えー、もう好きピはいるの好きピは」
すきぴはまだいない。これからゆっくり探していければと思っている。俺が、わからないなりにでも『恋』ができるような誰かが見つかれば――あるいは、誰か俺と色恋をしてくれるような奇特な相手がいればいいのだが」
「うーん、ここにいる皆は大抵マスターのことが大好きだけどね。まあだから、恋愛初心者の伊織くんは、手始めにマスターに恋をしてみるところから始めてみる、というのもいいかもしれない」
「やめなよ、ガチ恋勢がライバルわざわざ増やすなって後でどやしつけてくるよ……
「でも安全じゃん、マスターなら。こんな世間知らずのひよっこが変な相手に沼って破滅するより安全装置付きチュートリアルに任せておいた方がいいじゃん」
「そりゃあ確かにマスターなら順当っちゃ順当だけどお……
「マスターか。なるほど」

ふむふむ、とイオリが興味深げに頷いている。――は? いやいやいやいや。待て待て待て待て待て。は?

「そういうふうに考えたことはなかったが、俺にとってもマスターが大切なのは事実だ。この気持ちが、『恋』になることもあるだろうか」
「あるあるある。すぐ相転移する。なんだったらもうなりかけてる、恋に」
「そうか。……それは、興味深い。――こういってはなんだが、カルデアに来てからというもの、いろんなものが興味深く思えるんだ。食事の味であるとか、こういった他愛のない会話であるとか――人の営み、というものが。だから、『恋』も是非してみたいと思っている。まだ、俺が経験したことがないものだから」
「えー可愛いー! ねえねえ、マスターもいいけど、いっそお姉さんと恋愛する? 勧めといてなんだけどさー、マスターとはいえなんだか人に渡すのがもったいない気がしてきた」
「ちょっとお、あんたこそが『沼って破滅する変な相手』じゃん!」

きゃあきゃあ盛り上がっている会話が全然頭に入ってこない。――は? なに? え?

「ね、ね、お姉さんにしときなよ」
「伊織くん、聞かなくていいよ」
「ねーそんなことないよお。悪いようにはしないからさ、ね? ね?」
――は?」

自分で思ったよりも低い声が出た。
さらにいうと神気が漏れ出てしまっていたようで、あれだけ盛り上がっていた酒宴の場が、しん、と水を打ったように静まり返ってしまった。

身を乗り出してイオリに絡んでいた女性サーヴァントが不自然な体勢のままぴたりと動きを止めている。固唾を呑んで、こちらを窺っているのがわかる。
――だからといって、今更この場を取り繕える余裕が今の私にあるならば、そもそも最初からこんな状況にはなっていないのだ。

隣に座るイオリの胸倉を掴む。自分でも知らぬ間に再臨してしまっていたらしく、常よりも長く黒い袖が視界にちらついた。
は、とわけもわからず戸惑っているイオリの顔を覗き込み、もう一度繰り返した。



――は?」



しん、と周囲が冷え切るのを感じる。誰もが息をひそめ、こちらの様子を窺う中――イオリだけが、私の神気の重圧をものともせず困惑げに尋ねる。

「『は』、とは」
「きみは――さっきから何を言っている?」
「なに、とは?」
「きみが『恋愛してみたい』って。――冗談だろ?」

イオリの襟首を掴んでいる私の手にゆっくりとイオリが手をかけ、丁寧に外す。ふう、と襟元を正し、「冗談を言った覚えはないが」と真顔でのたまう。――その端正な顔に、いよいよ私の脳裏が真っ赤に染まる。

「『恋愛』? きみが? 今更なにを言っているんだ? ――私の想いをこれっぽっちも受け入れてくれなかったきみが! 私の想いをなかったことにしたきみが! 今更! 誰かと恋愛したいって!」
「は、はあ……?」
「ふざけるなよ……今更一体どこの誰と恋愛するんだって? じゃあ私は一体なんだったんだ、きみが恋愛できないからきみを想ってずっと我慢していた私は一体なんだったんだ? きみが今! ここで! 他の誰かと恋愛を謳歌するためにあの頃の私はわざわざ身を引いた、そういうことか? 馬鹿正直な私は馬鹿をみただけか!」

一度口にしてしまったらもう止まらない。半分は酒のせいかもしれなかったがもう知らない。
困惑するイオリがまるで私を見る生前のイオリのようで、いっそ視界に涙が滲む。ぐい、と乱暴に目許を拭い、イオリを下から睨み上げる。

「冗談じゃない、ふざけるな。――きみ、きみが、きみが今更」

イオリが、他の誰かの手を優しく握り込むのを想像する。他の誰かの頬をそっとその大きな両手で挟んで、愛おしげに口づけるのを想像する。――体の内側が、脳が、地獄の業火で焼かれるようだ。もうなにも、わからなくなる。

――きみ。誰でもいいんだよな? きみと恋愛してくれる奇特な者なら、相手は誰でもいい。そう言ったよな」
「い……言った、か?」
「じゃあ私でいいだろう」

「ハッ」と吐き捨てるように嘲笑った声は、きっと口にした言葉にちっとも似つかわしくない苦々しさに満ちていた。

「きみは誰でもいいんだから、私でも構わないんだろう。――そんなに『恋愛』がしてみたければ、せいぜい私相手に試してみるがいい。なんだったらの方だって付き合うぞ。今夜からだっていい」
「え、ええ……?」
「なんだ。結局口だけか? だろうと思った。宮本伊織が恋愛なんてできる筈ないからなあ
……セイバー……

イオリの声が低くなる。出逢った頃にしか聞いたことのなかったような剣呑な声に、「お」と面白半分に片眉をあげる。

「言ったな」
「ああ、言ったとも。宮本伊織がまともに恋愛なんかできる筈ない。無理はするなよ、断ってくれたっていいんだぞ。どうせきみは本気じゃないんだから――
「いいだろう。――俺はおまえと『恋愛』することにしたよ、セイバー。生前の宮本伊織がどうだったか知らないが、俺は『恋愛』ができる」


そう、そうだ、そうだった――そうやって、公衆の面前で、多数のサーヴァント達が野次馬根性まるだしで見守る中――私たちは、『恋愛』することを宣言したのだった。