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エス
2024-07-20 22:07:06
44944文字
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性癖パネルトラップまとめ
性癖パネルトラップのまとめになります。
四番だけR18なので気を付けて下さい。
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7 サン武(おさなな)・告白・おこめさん
「馬鹿って風邪ひくんだ」
寝込んでいる人間に向かっての第一声として、問い詰めたくなるような台詞であった。しかし、実際にはその元気すらなかった。何だか全てが億劫だったのだ。部屋に入っていいと許可をした覚えもないが、武道がOKを出さずとも、家族が勝手に出した。大方そんな所だろう。何せ相手は幼馴染である。家族も含めて、幼い頃からよく知っていた。お互いにである。
「馬鹿じゃねえもん」
顔を顰めて、布団から顔を覗かせて言った。この部屋の温度が快適なのかどうかも、武道には良く分からない。暑いような寒いような、ただ、訪問者が涼しい顔をしているので、暑くはないのだろう。この男は、暑さに弱いのだ。
「何か用?」
「病人訪ねるのに見舞い以外の理由が?」
言いながら明司春千夜は武道が横になっているベッドに腰かけた。どう見ても、見舞いにきた人間の態度ではなかった。でも本人が見舞いだと言うなら、そうなのだろう。武道が知る過去と違い、マスク一つせず素顔を晒している。寧ろこういう時こそマスクをすべきでは? 何せ武道は病人なのである。うつっても知らないんだから、と、内心で零す。浅く腰かけたベッドが、僅かに軋んだ。
「昔さ」
「なに?」
「オレが熱出した時あっただろ」
「割と明司君あるよ」
「そん時、オマエ見舞いに来てくれたじゃん」
「覚えてない」
「だから馬鹿なんだよ」
結局貶すじゃん。言い返す気力もなく呆れて天井を見れば、何やら鞄を漁る気配がした。学校帰りらしく、制服姿で勉強道具が入っているであろう鞄を手にしていたのだ。実際の中身がどうかは知らないが。その鞄を覗き込み、何やら手にすると、武道の眼前に掲げたのだった。至近距離で何やら得体の知れぬものを見る羽目になった武道は、目を凝らしたのである。近すぎて良く見えなかったのだ。
「何ですかこれは」
「学校で女子に貰った」
「はあ」
「見た時、武道に似てるなって思って」
「嘘でしょ」
他の同世代の人間より圧倒的に人生経験が豊富であると自負してきたが、生まれてこの方、蛙に似ていると言われた事はなかった。春千夜が取り出したのは、蛙のソフトビニール製の人形だったのである。デフォルメされているので、可愛いと言えば可愛いと言えなくもない。だが、絶対に自分には似ていないと武道は思った。そもそも、蛙に似ていると言われ、嬉しいと思う感性がなかった。
そうして、文句を言おうとして、思い止まったのだ。
武道と春千夜の付き合いは、長くなろうとしていた。小学校低学年の頃からである。その前の記憶もある。だから、明司春千夜の為人は、知っている方だったのだ。その上で、意味もなくこのような事をするだろうかと考えたのである。女子に貰ったものを態々、武道に似ていると言う理由だけで持ってくるだろうか。
「あのさあ、明司君」
「なに?」
「オレさ、もしかして明司君に蛙放ったかな」
「覚えてんじゃん」
予想が当たってしまった。熱を出した明司春千夜を見舞った。武道の記憶にはないが、春千夜が言うならそうだろう。意味のない嘘を吐くタイプではない。過去の己が脳裏に浮かぶ。見舞いに来たと称して、明司君、でっかい蛙がいた! って、大はしゃぎで見せに行ったとしても何ら可笑しくはなかった。精神年齢二十六歳でもやる。何故なら花垣武道だからである。これは別に嫌がらせでも何でもなく、大きな蛙に感動した小学生男子の健全な行動なのだ。その後明司春千夜がどう思うかまでは全く考えていなかったのだ。まさか、あれから十年近く経った今、やり返される等思いもしない。根に持つタイプにも程がある。
まあ、生きていないだけマシだろうか。蛙が。
「明司君オレさ、蛙、好きなんだよね」
「へえ、そうなんだ。知らなかった」
「今度一緒に捕まえに行く?」
「死んでも嫌」
「死ぬ程か
……
」
「熱で頭おかしくなってんじゃない?」
「マイキー君誘っても行かない?」
「蛙捕獲する佐野万次郎解釈違いだから」
「いやでも意外とやってくれるって」
「誘うなって言ってんだよ馬鹿」
常であればここで拳の一つも飛んできそうではあるが、今日に限ってはなかった。見舞いに来たと言った手前、配慮しているのかもしれない。そういう解り難い優しさを見せる男だった。
「寝込んでる武道レアだよな」
言いながら今度は、携帯電話を取り出した。人が寝ている事を良いことに、やりたい放題である。抗う気も起きず、向けられた電話に向かって武道は顔を顰めたのだった。
「そんなん撮ってどうすんの」
「売る?」
「売れないでしょ」
「これさ、オレが今拡散したら、どんだけ此処に押しかけて来るかな」
「嫌な事言うの止めてもらえません?」
「ふーん、そんなに来ると思ってんだ」
「そうだった、来るわけなかった。だって明司君友達いないもんね」
「武道の癖に生意気なんだけど」
「そもそも明司君がもうちょっと優しくしてくれたらいいんじゃない?」
「優しいだろ」
「はい、優しいです」
「心が籠ってない」
「難しいな
……
」
今更ながら、何故病人の自分が気を遣う立場になっているのか疑問を抱く。答えは明白で、明司春千夜が面倒な質だからである。友達が少ないのも事実で、上手く見せかけることは出来るが、その実人付き合いが下手で、人とは壁を作り易い。武道はその逆だ。誰とでも仲良くでき、交友関係は信じられない程広かった。でもその中でも序列がある事を、春千夜は知っていた。全員一律ではない。自分がこの男の上の方にいる事も分かっていて、でも、一番上になれない事も知っていた。
「オレ暑いの嫌いなんだけど」
「知ってます」
「だから今の武道には触りたくない」
一瞬の静寂の後、微かな笑い声が響いた。今、笑うほど可笑しな事があっただろうか。訝しみながら春千夜は笑った男を見たのだ。熱で頭がおかしくなっているのでは。口に出したことを再度思った。
「明司君オレに触った事なんて殆どないじゃん」
自然と目が丸くなった。武道の指摘は、春千夜を驚かせるには十分だったのだ。何故なら、触っている方だと思っていたのである。明司春千夜は友人が少なく、そもそも身体的接触を避ける質であった。でも武道は違うのだ。誰とだって肩を組み、何ならハグをして、銭湯にだって行くのである。基準が違い過ぎたのだ。
動きを止めてじっと己を見る男を不審に思いながら、どうしたものかと悩み始める。まさかそこまで衝撃を与えるとは思っていなかったのだ。人が手を握ったら、除菌する人間だと思っていた。完全にそういうイメージだったし、強ち嘘とも言い切れなかった。
「武道は、オレに触られるの嫌じゃないの」
「嫌だって言った事ありましたっけ」
「思ってるかもしれない」
「滅茶苦茶疑うじゃん」
「だってオレは」
「明司君?」
言葉を切ったかと思えば、視線を彷徨わせた。その視線は武道を通り過ぎて、自分が手にしている蛙に止まり、ふと何を思ったか、その蛙を武道の頭の横に置いたのだ。蛙を見ているのか、武道を見ているのか、判断が付かないようにするかのように。その一連の流れを、武道は仰向けになりながら見ていたのだ。そうしてやっぱり、自分の隣に置かれた蛙を見るべきか、明司春千夜を見るべきか迷った。部屋の中は静かで、ソフトビニール製の蛙が鳴くわけもなく、だったらやはり人が声を発するべきで、口を開いたのは、訪問者だった。
「好きじゃないと触りたくないし、触られたく、ない」
武道程とまではいかずとも、少し顔を赤くして、言った。
熱で頭がおかしくなったかな。そんな事を思いながら、武道は呆けていた。まさかこのタイミングで、そのような事を言われるなど全く予想だにしておらず、幼馴染の顔が見辛くなって、助けを求めた先は蛙だった。でもこの蛙は鳴かないのだ。何をするでもなく、いるだけなのだ。だから命綱を掴むかの如く、手にするしかなかった。蛙は生温かった。そう言えば、間接蛙かもしれない。そのような事を思った時点で、正常ではなかった。
「オレ、この蛙に、春千夜ってつけて大事にする」
「えっ」
明司春千夜は動揺した。花垣武道の言葉の意味が全く分からなかったからである。先程の言葉はどう考えたって告白であって、その答えは、イエスかはい以外ないと思っていた。ノーが存在しない当り、明司春千夜だった。負ける戦はしない主義である。でも出て来た言葉は、全く違っていたものだから、今更ながら春千夜は花垣武道の扱い辛さに苦悩していたのだ。それってどっち? と、そう聞いても良いものか、でも聞いた瞬間敗北感に襲われる気もしていて、こんな蛙持ってこなきゃよかった、なんて、思ったのだった。しかも別に似てないのである。花垣武道にも然程に似ていなければ、明司春千夜など論外だった。なのにこの蛙は、今日から春千夜なのである。人間の方ですら、明司君なのに、それを意図も容易くぴょんと飛び越えてしまったのだ。蛙だけに。
「あのオレ、持ち物に人の名前つけるの初めてだから」
「オレも蛙に自分の名前つけられたのは初めてだよ」
眉根を寄せて春千夜が言った。初めて、と、聞くと、何だか喜んでいいような気がしてくるから不思議である。但し対象が、ソフトビニール製の蛙。しかもその蛙は、春千夜が易々と触れられぬ男の手の中にいるのだ。その内処分してやろう。強く決意した。渡しておいてこれである。愛情深く嫉妬深く独占欲も強い男は、花垣武道の一番にはなれないと知っていて、でも、いつでも好きな時に触って触られるくらいの存在になりたかった。なれる気がしていた。なのに己が用意した蛙に勝手に阻まれたものだから、人生の儘ならなさを痛感していたのである。蛙なんて嫌いだ、と、そう、内心で呟いた。でも花垣武道の事は、好きなのだ。真っ直ぐに伝えるだけの勇気はなかった。少なくとも、名字で呼ばれている内は、出そうになかった。
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