エス
2024-07-20 22:07:06
44944文字
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性癖パネルトラップまとめ

性癖パネルトラップのまとめになります。
四番だけR18なので気を付けて下さい。




5 ドラ武・喧嘩に介入する第三者・さいこさん


 生クリームの上に乗ったさくらんぼを見て、これってどのタイミングで食べるのが正解なんだろうな、と、そのような事を思っていた。思いながら、長いスプーンでクリームを掬って食べた。天辺のさくらんぼが少し傾いた。
「マイキー君」
「はいはい」
 何とも適当な返事であるが、佐野万次郎が、と、言う注釈一つ入るだけで全然違う。誰彼構わず返事をするような男ではないのだ。尤も話を聞く態度ではなかったが。何せ意識の八割は、パフェに向いている。奢りだと言うから付き合っているだけである。勿論気に食わない相手ならば、このような場所にいるわけもない。例えパフェが付いてきたとしても絶対に付き合ったりしない。その点では、特別だった。但し、話の内容を聞く前から面倒な空気が漂っていたので、向き合いたくないだけだ。
「オレの話、聞いてます?」
「さくらんぼの茎口ン中で結べる?」
「聞いてねえじゃん!」
 ウルセェ。内心で零しながら、それでも手も足も出ないあたり、かなり譲歩していると言えた。何せ佐野万次郎なので。理不尽の権化なので。尤もこの界隈、そういう男ばかりである。如何にも悄気ていますと言わんばかりに、下を向いている男へと、仕方なく万次郎は声をかけた。そもそも気落ちの原因を作ったのも佐野万次郎である。真面に話を聞かないから。
「で、何? 結婚すんだって?」
「言ってねえし出来ないんですけど」
「オレ、友人代表として手紙読むわ」
「人の話そろそろ真面目に聞いてくれません?」
「は? オレ以外にオマエ等の一番がいるわけねえだろ」
「もー!!」
 ガシャン、と、食器が音を立てた。とうとうテーブルに拳を叩きつけたのである。万次郎が片眉を上げた。自分だったら罅入ってるかな、等と思っている顔である。ただ実際には、派手な音は鳴ったが、テーブルは無傷だった。普通はこうである。
「だって、オマエが言ってる事、意味分かんねえんだもん」
「は?」
「なあ、タケミっち。オマエ、マジで、ケンチンが浮気すると思ってんの?」
「だってしてんですもん」
 万次郎は溜息をついた。完全に馬鹿にした目で、花垣武道を見ながら。
 佐野万次郎には沢山の友人がいる。その中でも一等親しい部類の人間が、龍宮寺堅と花垣武道である。しかもその二人はお付き合いをしていて、同棲までしているのだ。だからこそ、結婚するとなれば、友人代表のスピーチをする気満々なわけであるが。出来る出来ないは別として。万次郎は、龍宮寺の事を良く知っていた。勿論武道の事だって知っている。だからこそ自信を持って言えた。
 龍宮寺堅が、浮気。
 まず、ない。
 そういう男ではない。
「あのさあ、ケンチンだぞ」
「分かってますよ」
「そういうの、するタイプじゃねえだろ」
「オレだってそう思ってましたよ」 
 過去形である。つまり、考えを変える何かがあったわけである。そうでなければ、態々佐野万次郎を呼び出して、愚痴ったりはしないだろうが。
「証拠でもあんの」
「あります」
「えっ」
 万次郎の予想を裏切る返答がきた。証拠が、ある。はっきり言って、花垣武道の勘違いで妄想だと思っていたのだ。なのに、証拠がある等と、自信を持って言い切ったのだ。万次郎は思った。浮気の証拠って何だ? 隠し撮りの写真? 映像? 浮気相手が二人の家に残して行ったもの? 使用済みの避妊具? 見たくねえな。最終的な結論が出てしまった。余りに酷いものは見たくない。これである。精々隠し撮り写真くらいに納めておいて欲しいところである。そもそも、大方が店に来る客と懇意になったところを邪推しているとか、その程度の話ではないだろうか。
 もう一度万次郎は溜息をついた。頗る面倒くさい。でも、花垣武道を見捨てられない。長いパフェ用のスプーンで生クリームを掬うと、武道の前にある湯気も上がらなくなった珈琲に入れた。
「一応、ケンチンの話も聞くから、オマエん家いくわ」
「マイキー君!」
 武道が目を輝かせた。やはり頼りになるのは佐野万次郎とでも言いたげである。残そうかどうしようか迷っていたさくらんぼを口に入れ、パフェくらいじゃ割に合わないな、と、思った。
「タケミっちが余所余所しい?」
 一方所変わり、全く同じ時間帯に、似たようなシチュエーションで同じような会話が為されていた。訝し気に口にしたのは、三ツ谷隆である。勿論目の前には、沈痛な表情を浮かべる龍宮寺堅がいた。
「なんか、こう、元気がねえって言うか」
「妊娠でもしたんじゃね」
「避妊してんだよ」
「避妊以前の問題だろ」
 だったら言うなよ。龍宮寺は思った。同性同士なので、確かに避妊以前の問題である。はあ、と、息を吐き出せば、辛気臭いなと言わんばかりに三ツ谷が顔を顰めた。大した問題だと思っていないのが丸わかりである。何故なら龍宮寺堅と花垣武道である。何があっても大した諍いにはならないイメージ。真っ直ぐと真っ直ぐの組み合わせである。ただ思い込みもその分激しかった。
「具合が悪いとか?」
「具合悪いタケミっちなんて見た事あんのかよ」
「いや、あるだろ」
「なんでテメェが見た事あんだよおかしいだろ」
 龍宮寺堅てこんなに面倒な男だっけ。カップに入ったブラックコーヒーを眺めながら、カフェオレにすればよかった、なんて思っていた。糖分が恋しい。
「で? ドラケンは何を心配してんだ?」
 兎に角引き延ばしても時間の無駄である。手っ取り早く話を終わらせるため、三ツ谷は切り込んだのだ。問われ、龍宮寺が視線を逸らした。何を探しているのか、誰もいない方向を見て溜息をついた。無駄に芝居がかった仕草に三ツ谷は苛立ちを覚えたのだ。もうそういうの良いからとっとと吐け。これである。
「他に、誰かいるんじゃねえかな」
「何が?」
「えっ」
「だから、何が?」
 この重い空気に乗る気がさらさらない三ツ谷が、あっさりと問う。龍宮寺は困惑している。もう少し何かあるだろ、と、思っているのが透けて見える。三ツ谷は思った。何も、ない。
「いやだから、オレの他に、その、誰か……
「いいやつがいるって?」
「まあ、そういう、ことに、なんじゃねえ、かな」
 喫煙席に座ればよかった。今更ながらそのような事を思い、三ツ谷は珈琲を飲んだのだ。苦い。昨今、何処も彼処も禁煙である。煙草は害悪なのだ。だがそれが必要な時もある。今だ。ふー、と、煙を吐き出すように息を零した。
「オレだよ」
 沈黙が二人の間に落ちた。龍宮寺は目を見開き三ツ谷を真っ直ぐに見た。その視線を真っ向から三ツ谷は受け止めたのだ。言葉が消えて、三秒。
「テメェかあ!」
「ンなわけあるか!」
「は?」
 此処が喫茶店でなければ既に拳が飛んでいたし、所かまわず暴力を振るわないくらいには、大人になった。ただし、声はでかい。龍宮寺の見てくれが恐ろしい部類に入るので、誰もが見て見ない振りをする為問題にならないだけだ。
「オイ、三ツ谷、オレは本気で悩んでるんだぞ」
「それが意味分かんねえんだよ。タケミっちだぞ? 二股? 無理無理」
 しっしっ、と、動物でも追い払うように手を振った。龍宮寺が眉間に皺を寄せる。納得していないと顔に書いてあった。
「テメェは、タケミっちの事知らねえだろ」
「いや割とドラケンくらいには知ってるけど」
「そこはオレに配慮して知らねえって言えよ!」
 そろそろキングオブ面倒の称号を与えたい。今度嫌がらせに面倒って書いた王冠かメダルでも作ってやろうかな。そのようなことが三ツ谷の頭に浮かんだ。真面目に聞く気は本当に何処かへと消え失せた模様である。大体、花垣武道である。龍宮寺堅と誰かを股にかけるなど、先ず以て無理。誰が聞いても無理だと言うだろう。器用な質ではないのだ。
「あの態度は、疚しい事があるに違いねえんだ」
 何処か座った目で三ツ谷を見ながら言った。視野が大分狭くなっているな、と、冷静に見返した。
「大方、ポテチ食い過ぎたとか、なんか無駄遣いしすぎたとかその程度だろ」
「そんなんじゃねえんだよ」
「わあったよ。オレがタケミっちに聞けばいいんだろ」
 投げやりに言えば、龍宮寺が短く息を吐いた。明らかに安堵を示していた。素直じゃねえなあ、と、三ツ谷は内心で呆れていた。最初からそう言えばいいのに、と。だが単純に、借りを作りたくないのだ。返すのに苦労するからである。
 こうして三ツ谷隆は、龍宮寺堅と共に二人の家に訪れる事になったのだ。二人とは勿論、龍宮寺堅と花垣武道である。まさか其処に、もう一人部外者がいるとも知らず。
「まさか、テメェだったとはな、マイキー!」
「えっ」
 帰宅するなり、恋人と友人の姿を見た龍宮寺の第一声である。恋人の余りの迫力に武道は呆けていたし、友人である三ツ谷は呆れていた。名指しされた万次郎は顔を顰めている。不快感が滲み出ていた。
「もっかい言ってみろよケンチン」
「あっ、ちょっと、マイキー君煽んないで」
「だから、タケミっちの浮気相手だよ。テメェなんだろ」
 次の瞬間、轟音が響く、と、思われた。龍宮寺の発言に佐野万次郎が足を出す。その筈だった。
「よく言うぜ、そっちこそ浮気してるテメェに言う権利あると思ってんのかよ」
 だが、佐野万次郎は大人になったのである。暴力の前に口が出るくらいには、成長したのだった。そうして見事、龍宮寺堅の動きを止める事に成功したのである。
「は? 浮気?」
「待て待て、オレは、タケミっちが二股掛けてるって聞いてきたんだけど?」
「えっ」
 ここで更に三ツ谷隆が参戦である。全員が混乱していた。話が噛み合っていない。噛み合う筈がなかった。龍宮寺が浮気していると思い万次郎に相談した武道、武道が己の他にも付き合っている相手がいると思い込み、三ツ谷に相談した龍宮寺。そして友人の言い分を信じてやってきた、万次郎と三ツ谷。全員が黙り込んで、それぞれの顔を見たのだ。
「なあ、タケミっち。ケンチン、浮気してんだよな?」
「はい」
「はいじゃねえんだわ。してるわけねえだろ」
「えっ」
「タケミっち、ドラケンの他に相手いるんだって?」
「いるわけありませんけど!? だ、大体三ツ谷君は何でいるんですか!?」
「そりゃあ、オレが浮気相手だからだろ」
「えっ」
「タケミっちの」
「えっ!?」
 ここで、ゴン、と、痛みを連想させる音が響いた。とうとう龍宮寺が手を上げたのである。三ツ谷隆に向かって。一番先に暴れると思われた佐野万次郎ではなく、龍宮寺堅が。そうして大きく息を吸ったのだった。
「これ以上話をややこしくすんじゃねえよ!」
「だって、ドラケンの浮気相手って思われるの死ぬほど嫌じゃん」
「だからって何でタケミっちなんだよ!」
「この中で付き合うならもう一択しかなかった」
「えっ、オレは?」
「論外だよ」
 佐野万次郎に向かって、顔を顰めて言い放った。まあ確かに。内心で龍宮寺と武道も同意していた。一番面倒な男が誰か、問うまでもなく満場一致であった。
「話を戻そうぜ」
 場を引っ掻き回した張本人、三ツ谷が言った。戻すって何処へ? 入ったかどうか定かではない本題へである。
「ドラケンは、タケミっちがマイキーと二股掛けてると思ってる」
「そんなことしてません」
「で、タケミっちは、ドラケンが浮気してると思ってる」
「してるわけねえだろ」
 平行線である。何方も否定したものだから、万次郎と三ツ谷が面倒と言わんばかりに眉間に皺を寄せた。何せ本音を言えば二人とも、ある筈がないと思っているのだ。龍宮寺堅も花垣武道も他に相手を作る質ではないと見ていたのだ。これ多分、犬も食わねえヤツだな。三ツ谷が内心で呟いた。
「でもケンチンはどうか知らねえけど、タケミっちは証拠持ってんだろ」
 えっ。
 佐野万次郎の一言に、龍宮寺と三ツ谷が揃って目を丸くした。予想だにしない一言だった。思わず三ツ谷は龍宮寺を睨んだ。やってねえんじゃなかったのかよ。そう、告げていた。勿論、龍宮寺の身に覚えはない。浮気などしていないので。
「はい! 持ってきます!」
 なのに意気揚々と恋人が姿を消したものだから、焦っていた。ある筈のない証拠。それを花垣武道は出そうとしている。龍宮寺からすればそうである。つまり、何か大きな勘違いをされているのだ。そして、証拠になりえない物を証拠だと思っている。
 一体それが何なのか、龍宮寺には見当がつかなかった。よって、見るしかなかったのだ。
「待った待った! タケミっちストップ!!」
「えっ」
「えっ」
 龍宮寺の慌てふためく声が、響き渡った。これに驚いたのは、万次郎と三ツ谷である。明らかに、疚しい事があると言わんばかりの態度だった。そんな馬鹿な。自然と目が、花垣武道へと向いた。何か、箱を手にしている。恐らく、証拠はあの中にあるのだろう。龍宮寺の慌てっぷりから言って、間違いない。
「分かったタケミっち。オレが悪かった。話せばわかる」
「ホラやっぱり!」
 この勝負、どうやら花垣武道の勝ちである。既に龍宮寺堅から濃厚な敗北の色が見える。よし、ぶん殴ろう。佐野万次郎が決意した。浮気など論外以ての外見損なった。詰る言葉が頭に浮かぶ。同じく隣で三ツ谷も、この硬派気取りの男どうしてくれようかと頭を悩ませていた。私は最低野郎ですってプリントしたTシャツでも着せるしかない。
「タケミっち、中、見せてくれ」
「はい!」
「オイ、待て、煽んなマイキー!」
「いや、これはもう、全員で確認してどっちが正しいか決めるしかねえだろ」
「ふざけんなよ三ツ谷!」
 武道を止めるべく龍宮寺が立ち上がったが、両脇から動きを封じられそれ以上動くことが出来なかった。二対一では分が悪い。歯を食いしばる龍宮寺堅の目の前で、意を決した顔つきで武道が箱を開けた。
「これです!」
「アッ、馬鹿!」
「えっ」
「えっ」
 シン、と、沈黙が下りた。全員の動きが止まり、視線が箱の中へと向いた。最早、目が離せなかった。その、浮気の証拠とやらに。
「こ、こんなの、どう見たって、女の人のモンじゃないですか……!」
 声を絞り出して武道が詰った。苦悩が見て取れる態度に、万次郎と三ツ谷の気持ちは一気に冷めたのだ。そうして、龍宮寺堅を解放したのである。途端に馬鹿らしくなったのだった。
 箱の中にあったのは、下着だったのである。
 それも真っ赤で、布面積がやたらと小さく、しかも透けている、実用性に欠ける下着だった。
 万次郎と三ツ谷は思った。友人の性癖、こんな所で知りたくなかった。武道は女性用だと思っているが、恐らく違う。龍宮寺堅は、端から恋人に穿かせる為に用意したに違いないのだ。だが、言いだせなかったに違いない。気持ちはわかる。変態が過ぎる。もしかしたら一時の気の迷いかも知れないが、保管してある時点で言い訳出来ない事態だった。
「や、あの、これ、はだな」
「これを穿かせる女の人がいるんでしょ!」
「い、いるわけねえだろ!」
「じゃあ、これは何なんですか!?」
 オマエ用だよ。万次郎と三ツ谷が内心で代わりに答えてやった。これ以上巻き込まれるのは御免なので口には出さなかった。正しい判断である。真っ直ぐに問われ、龍宮寺は答えに窮した。そうして、顔の上半分を手で覆って、絞り出したのだ。
「お、オレが履くんだよ!」
「えっ」
 その瞬間、佐野万次郎と三ツ谷隆はその場に崩れ落ちたのである。他に相手はいないと言う事、更に何とか誤魔化したいと思った結果、選りにも選って勢いよく掴んだ舵を、龍宮寺堅はとんでもない方向に切ったのだった。