黑野羊
2024-03-24 00:45:13
5375文字
Public 意味不明小説
 

意味不明小説《3》

意味不明で、ちょっと怖い、不条理だったり、シュールだったりする、短いお話集
掲載作品)
黒/いつもの事ですから/灰/飼/忘/赤イ花/ある晴れた日/冷たい夜空の下で/僕は自分で自分を殺しました。/私が手放したもの


私が手放したもの


その日は薄曇りの空だった。
けだるい朝、外に出るのも億劫。
しかし、行かなければ、社会的な信頼を失うだろう。
その日必要な書類を持っているのは私だけなのだから。

原付きで片道30分。
いつもの道だ。
通いなれた、なだらかな下り坂。
緩やかなカーブに合わせてハンドルをきっていた。

つもりだった。

タイヤは道に沿って大きなカーブを描くガードレールを目指していた。

近付いてくるガードレールの凹みまで、数えられるくらい、緩やかに時間が流れた。
気付いた瞬間にハンドルをきっていれば、避けられる距離だった。

しかし、私はハンドルから手を放した。

真っ白な世界に置き去られた、そんな感覚。
その瞬間、私の上にのしかかる物全てから、開放されそうだったから。


自殺する人は、こんな安らぎを求めているのかもしれない。
苦痛の音が響く世界は常に進む。
そんな世界に置き去られるのが、不安で、不安で。
実際に取り残されると、あまりにも平穏で、それは逃れるのも歯痒い、甘美。


ベッドの上で目覚めると、世界が始まっていて、あの安らかな世界が恋しくて、さめざめと泣いた。

死にたかったわけではない。
生きてることが嬉しかったわけではない。

ただただ、恋しかったのだ。
刹那に垣間見た、安らぎの世界が。


手放したのは、どっちだ。
手放されたのは、どっちだ。