鹿
2023-12-31 16:22:03
13248文字
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CPシチュスロットまとめ

スロットメーカーさんの #CPシチュエーションスロット で出てきたシチュのSSをその日のうちに書いてみるチャレンジのまとめ。全部土斎。現パロだったり謎時空のパロだったりデア軸だったり。


檻の中で/しとやかに/名前を呼ぶ


「斎藤」
 低く艶やかな声で呼びかけられる。だが返事はしない。
「なあ、話くらいしてくれても良いんじゃねえか? 退屈でしょうがねえんだ」
 当然無視する。それは僕の仕事ではない。
「交代時間まであとどのくらいだ? どうにも時間の感覚が無くてな」
 男の声は落ち着いていて、こんな状況にはまるで似つかわしくない。気を抜くと、うっかり返事をしそうになる。
「つれねえな、でもお前らしい。ヘラヘラしてるなんて言われても、一度決めると頑固だ」
 僕のことなど何も知らないだろうに、しばしば見透かしたようなことを言うのが不愉快だった。無視されたところでうっすら笑みを浮かべ続けているのも。
……交代まであと一時間です。お喋りがしたいなら、次のやつに期待してください」
 頑なに無視をし続けるのも、この男の思う壺であるような気分にさせられて、結局答えてしまった。
「看守でも、囚人と話するタイプのやつもいますよ。話しかける相手は選んだ方がいい」
 檻の向こうの男はくつくつと笑う。強面ではあるが彫刻のように整った顔立ちで、視線は真っ直ぐで力強い。長い収監生活を経ても肌にも髪にも艶があり、覇気に満ちていた。
 こんなタイプの囚人はあまり見かけない。だから本当に、看守の中にもこの男に興味を持ち、話そうとする者はそれなりにいるのだ。
「俺は、お前と話したいんだよ。斎藤」
 にも関わらず、この男が会話をするのは唯一自分だけであるらしい。一体なぜ?
「僕、そんな名前じゃありませんよ」
 この刑務所以外で会ったこともない、名前すらわからない相手に、そんなにこだわる理由があるとでも?
「お前が『今回は』なんて名前なのか教えてくれねえんじゃねえか」
 返事をするのはやめた。今回も何も、自分の名前は生まれてこの方親にもらったひとつきり……のはずだ。
「藤田でも、山口でも、一瀬でも、俺にとって重要なのはそこじゃねえ」
 真面目に聞くべきではない。この男の言うことに正当性などない。ここに入れられた理由だって、まるで支離滅裂な理由での殺人であったという。その割に、精神鑑定の結果は異常なしらしいが。
「お前が、いつどこで出会っても、お前であってくれたら、それだけでいい」
 いっそ慈しむようなしとやかな声が、険しい目つきに似合わない優しい表情が、恐ろしい。
 男の確信に満ちた態度を見ていると、そんなはずはないのに、まるで自分が何かひどく大切なことを忘れているのではと、不安で仕方がなくなるのだ。