鹿
2023-12-31 16:22:03
13248文字
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CPシチュスロットまとめ

スロットメーカーさんの #CPシチュエーションスロット で出てきたシチュのSSをその日のうちに書いてみるチャレンジのまとめ。全部土斎。現パロだったり謎時空のパロだったりデア軸だったり。


屋根裏部屋で/苦々しく/異性装をする



 この御屋敷の屋根裏にはお姫さまが住んでいる。
 番頭さんが言うことには、お姫さんなんて高い身分の方じゃあないがね、とのことだったが、今まで見た女の人の中で誰よりいっとう綺麗な人だから、僕はお姫さまだと思っている。
 彼女のことは、番頭さんからも、彼女のお世話係に指名された時に一度だけ話した大旦那さまからも、誰にも言ってはいけないときつく言い含められている。村の人たちは誰も彼女のことを知らない。そもそも屋根裏の存在すら知らないようだった。
「土方さん、お食事をお持ちしました」
 振り向いた顔は日に当たらないせいで驚くほど白く、唇は紅でも引いているかのように鮮やか。高い位置で結い上げた艶やかな黒髪ときりりと上がった眉は、こんな薄暗い部屋にはそぐわないほど堂々とした印象を与える。いつも梅柄の上品な着物を着ているから、この部屋はいつも春が近づいてきた時の香りがするようだった。そして何より美しいのは長いまつ毛に縁取られた切れ長の瞳。時折紅く光るその目に見つめられると、この人のためなら僕はなんだってしてあげたくなってしまう。
「斎藤か、首尾は」
 凛とした、同い年の娘さんたちに比べると少し低い声。話し方はお姫さまとしては少しぶっきらぼうなのかもしれないが、誰にも媚びない雰囲気があって、僕はそれは気高さといわれるものなのだと思っていた。
「増やしてもらえました、二枚だけですが……
「まあ良しとするか。ご苦労だったな」
 いつも厳しく引き締まった表情を、わずかに緩めて僕を見てくれるだけで、浮き足立つような気持ちになる。指がすらりと長い白い手で膳を受け取り、背筋をまっすぐ伸ばして食べはじめる姿も美しい。膳はいつも米とたくあんに汁物という変わり映えしないものだったが、彼女はたくあんを増やしてほしい以外の要求をしたことがなかった。仙人が霞を食べて生きているように、お姫さまというのは肉や魚なんて不浄のものは口に入れないのかもしれない。
「斎藤、先日任せた書物は大丈夫だったか?」
「はい、きちんと番頭さんのお部屋に戻しておきました。今朝もご挨拶をしましたが、怪しんではいないみたいでした」
 旦那さまとは苗字も違うこのお姫さまが、どんな関係の人なのか、どうしてろくに本も読めないところにずっと閉じ込められているのか、斎藤にはとんとわからない。あんまり雪のように肌が白いから、日に当たると溶けて消えてしまうのだろうかと思ったこともある。
「僕、人に気づかれないように部屋に入るの得意みたいです。この御屋敷にあるものだったら、なんでもお申し付けください」
「気づかれたら殴られるだけじゃあ済まんだろうに、度胸のあるこった」
 米粒一つ残さずきっちり食べ終えて、土方さんは箸を置く。そうしてから、身体を僕の方に向けて、顔を上げるよう促してくれた。本当は彼女の世話以外にも仕事はあるし、食事が終わったら膳を下げてさっさと戻るべきなのだ。けど彼女はいつも少し話していけと言ってくれるのが、僕は何より嬉しかった。
「だけどな、斎藤。もうお前に仕事を頼むのは終いだ」
 だから、そう言われたのは頭をガツンと殴られたような気分だった。泣きそうになりながら土方さんに問う。
「ど、どうしてですか、僕、何か土方さんのお気に触ることを」
「そうじゃない、お前には本当に世話をかけた。だからここを出ていく前に、一言礼を言おうと思ってな」
 突然の発言に、頭の中は濁流のようにかき回されて訳がわからなくなる。それでも必死に思いついたことを聞いた。
「お嫁に行かれてしまうんですか?」
 土方さんはきょとんとした後、くく、と笑う。何がおかしいのだろう。僕はそれこそ、この人に初めて出会った時から、いつかそうなるのだろうかと思うと泣いてしまいそうだったというのに。
「く、いやまあ、状況によっちゃ、あるいはそういうこともあったのかもしれん。形式上だけのものだろうがな。けど違うぞ」
「では、一体どこに……?」
「そうだな、ひとまずは都を目指すつもりだ。この着物を売っても大した路銀にはならんだろうし、先々で稼いでいかないとな。ま、追々考えるさ」
 こんな、大旦那さまのお部屋の仏像より滑らかな肌の人が、どうやってこの御屋敷からも、村からも飛び出して生きていくというのだろう。
「絶えたはずの本家の『娘』っていう、跡目争いの隠し札のつもりだったんだろうが……手札を切り損ねて、すっかり持て余してる。今なら追っ手もそう多くはないだろうし、頃合いなんだ」
 土方さんの言っていることの意味はさっぱりわからなかったが、この御屋敷にはもう戻るつもりはないということだけ理解できた。
「僕も一緒に行きます」
 紅玉の瞳が見開かれる。あまり近づいてはならないと番頭さんに言い付けられていたことも忘れて、土方さんの膝にすがりついた。
「土方さんのためだったらなんでもやります。剣だって銭勘定だって覚えます」
……馬鹿だな、お前はよく働くし頭も良い。ここで真面目にやってりゃ真っ当に出世だってできるかもしれんのに」
「僕には偉くなったって孝行する親もいません。働くなら、あなたのためにがいい」
 くるくると収まりの悪い僕の髪を、土方さんはそっと撫でてくれる。こんな風に優しく触れられて、どうしてこの人を諦められるだろう。
「それにお前、俺の正体も知らんだろう」
 この人が天から落ちてきた天女でも、人を食うために美しく化けた鬼だって構わない。とにかくこの人を、ひとりで行かせるなんてできるわけがなかった。