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いまち
2022-05-30 01:21:50
69593文字
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過去への展望
マイアナスト2展示だった⚡🐣。調合失敗して16年の前の茨の谷にタイムスリップした🐣の話。
ちょっと長め(いまち比)
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7話
いやに痛む頭にたたき起こされるように目を覚ますと、私は寝間着に着替えさせられて、自分のベッドの上で寝かされているようだった。気絶した後、お義姉さんがしてくれたのかな? 目眩でくらくらする頭をどうにか奮い立たせて、自分自身に何が起きたのか考えた。
私は調合に失敗して、どういうわけか十六年前の茨の谷に放り出された。そこでリリアさんの家でお世話になりながら、小さいシルバーさんと生活していた。そして、リリアさんとお話していると急に目眩して、シルバーさんがこっちに駆け寄ってきたのが見えて
……
気付いたらこうなっていた。
「帰ってきたんだ
……
」
口にしても実感はないけれど、ここが私の家である以上、元の時代に帰ってきたのだということは、なんとなく理解した。どうして戻れたのかは分からないけれど。
頭はぼうっとするし、身体はだるいし、なんだかずっと眠っていた気さえする。長い夢を見ていたんじゃないかと。そうは思うものの、セベクくんに木剣を突き付けられた苦しさも、シルバーさんを抱きしめた温かさも、二人の頭を撫でた時の髪の柔らかさも、ちゃんと感じていたし、その感覚もしっかり覚えてる。だったら、夢じゃなかったのではないかと思える。確証はないけれど。
すっきりしない気分で身支度を整えて、お店に降りてみると予想通り、お義姉さんが落ち着かない様子でカウンターに立っていた。お義姉さんは私に気が付くと、驚いた顔で私に駆け寄ってきた。
「ティナ! 大丈夫? 起きてていいの!?」
「えぅ、すみません
……
」
「すみませんはいいの! 怪我は? 頭は打ってない? 具合が悪いとか、吐き気は? 一応治癒魔法はかけてたんだけどもっとかける? お母さんとセベクも呼んだから、来たらすぐ先生のところに連れていくわ! あぁ、でも呼んだ方がいいかしら? でもやっぱり、今すぐ連れて行った方がいいわよね? 今すぐ行きましょう!」
セベクくんによく似た目を潤ませながら、お義姉さんはしきりに私の状態を心配してくれる。のはいいんだけど、いきなりまくしたてられて、ちょっと頭が追い付かない。このままでは担がれて先生のところに連れてかれそうなまである。でも、怪我はないかってぺたぺた触られるのはちょっと嬉しい、くすぐったいけど。
「えと、ちょっと待ってください! その、何があったのか教えてもらっていいですか?」
「なにって、大きな音がしたと思って急いで来たらティナが倒れてたの! 怪しい煙は上がってるし、いつもの失敗とは違う感じだし、ティナはぐったりして動かないしで
……
本当に心配したのよ?」
「ごめんなさい
……
えと、それっていつ頃ですか?」
「え? 一時間くらい前かしら?
……
ティナ、本当に大丈夫なの?」
一時間
……
私の中では十日くらい経っている気がしていた。時空間転移? の影響か感覚がおかしくなったのかもれない。それ以前に、一時間しか経っていないのであれば、それこそ夢だったのかもしれない。お義姉さんの様子を見るに私の身体はずっとここにあったみたいだし。
……
そうだとしたら、ちょっと寂しく思ってしまった。小さいセベクくんとシルバーさんと過ごした日々は短かったものの、私にはとても楽しい経験だったから。それをなかったことにはしたくない気持ちはある。
私が答えないでいたせいか、お義姉さんはいよいよ泣きそうになりながら、やれ頭をぶつけてしまったから、とか、煙を吸い過ぎて危ないことになってしまったのではないか、とか、頭やら顔やらをぺたぺたぺたぺた触って穴が開くんじゃないかというくらいじぃっと見つめてきた。
お義姉さんには悪いけど、こんなに過剰なまでに心配されると却って冷静になれた。気持ちが落ち着くと、今度はリリアさんに教えてもらったことを思い出して、お腹が気になった。リリアさんが言うには私のお腹には双子の赤ちゃんがいるらしい。そもそもが夢かもしれない話だけど、もしかしたら、と思ってしまった。
「大丈夫です。でも、ちょっと心配なので診てもらってきます」
「うん、そうして。付き添おうか? あぁ、でもホウキは一本しかないのよね。えぇと
……
」
「大丈夫です、歩いて行けるので。えと、お店お願いします」
「うん、任せて」
心配そうにしているお義姉さんにお店を任せて、お財布を持って先生の診療所へ向かった。
お財布をポケットに入れようとして、ポケットに入れていたおやつ用のショートブレッドが包み紙ごとなくなっていることに気付いた。今朝間違いなく焼いたし、作ってから今までの間に捨てたり食べたりした覚えはない。私が倒れた後に、お義姉さんが取り出したというのも考え辛い。
……
となると、なくなった理由はあの時セベクくんにあげた以外に思い付かない。そうだとしたら、十六年前に行ったことは夢じゃないことになる。でもそうしたら私の身体がここにあったことや、時間の経ち方の違いに説明がつかない。
「
……
わかんないや」
まだ寝起きの頭で考えても答えは出ない。
それなら、ざわつく頭を整理するためにも、十六年前の茨の谷に行ったような気がするのは、そういう夢を見たのだと思うことにした。そう思うと少しずつ頭も冴えてきた。
そもそも、私たちが十六年前に会っていたのであれば、八年前にこの世界に来た時、あんなに揉めることはなかったはずだ。第一、まだ子供だったセベクくんやシルバーさんはともかく、リリアさんが覚えてないなんてことは考え辛い。ということは、やっぱり夢だったんだろう。ショートブレッドも知らないうちに食べたりしたんだ、となんだかソワソワする頭でむりやり結論付けた。
どこか寒々とした空の下、そんな寂しくなるようなことを考えていたら、無性にセベクくんに会いたくなってきた。お義姉さんはセベクくんにも連絡したなんて言ってたけど、とっても真面目なセベクくんのことだ、週の頭からいきなり休んだりするわけがない。
なら、週末帰ってきた時にお説教かな? それはちょっとヤかも。そんなことをぼんやり考えながら、診療所へ向かって歩いた。
落ち着かないまま診療所で受付をして、調合に失敗して変な煙を吸って倒れたこと、もしかしたら赤ちゃんが出来たかもしれないから調べてほしいと告げて診察と検査を受けた。
調合失敗でのケガや影響は、お義姉さんが早くに治癒魔法をかけてくれた甲斐もあって、何の問題もなかった。幸いにも頭は打っていなかったし、打ち付けたところも、骨にも何の異常もないそうで安心した。吸ってしまった煙も身体に大きな悪影響があるものではなく、治癒魔法で簡単に取り除ける程度のものだから何の心配もいらない、らしい。ただ、作っていた薬が薬だけに、長時間吸っていたら重体だったかもしれないから、気を付けるように釘を刺されてしまった。痛み止めって、ようは神経毒だもんね。本当に、お義姉さんがいなかったら危なかったのかもしれないなぁ
……
手当てしてくれたこともだけど、帰ったら改めてお礼しよう。
「それと
……
」
と、先生はにっこり笑ってお腹に赤ちゃんがいることを教えてくれた。まだまだ指先ほどもない種のような存在だけど、確かに私のお腹にいて、すでに微量な魔力を宿しているということだった。
夢の事があったからやっぱりと思う気持ちはちょっとあった。けど、やっぱり驚くし嬉しい。それと同時に不安もあった。いつかはなれたら、とは思っていたけど、私に母親なんて務まるのかな、とか、セベクくんは喜んでくれるかな? 人間の血が混ざった子供をイヤがったりしないかな、とか。考えていると、先生は誰だって不安になるものだから気負わなくていい、それに自覚するより先に気付けたのは十分すごいことだと慰めてくれた。それから、早めに検診を受けるようにと産院を紹介してもらった。
なんとなくふわふわした気持ちでお店に近付くと、激しく言い合うお義姉さんとセベクくんの声が聞こえてきた。セベクくん、お仕事中なんじゃないかと一瞬思ったけど、お義姉さんがセベクくんに連絡したとか言っていたから、わざわざ帰ってきたのかな? だとしたら、気を使わせちゃって悪いなぁ。
……
それはそれとして、二人とも声が大きいものだから建物の外からでも、言い争う声がしっかり聞こえる。それこそ大きすぎて何言ってるか分からないくらい。
言い合うにしても、せめてお店を閉めてほしかった。ご近所さんは二人の声の大きさはよーく知ってるから、騒いでも気にしないらしいけど、こう悪目立ちしちゃうのは恥ずかしいもんね。
店の周りで面白そうに中を伺うご近所さんに謝りながら中に入ると、二人とも私のことには気付いてないようで、やれ「気を付けろ」だの「放っておくな」だのお互い怒鳴り合っている。このままじゃ私の耳がおかしくなりそうだし、お腹の子たちもびっくりしてしまう。
やれやれと思いながらセベクくんの背後に寄って、ぽん、と肩を叩いた。
「第一姉さんは
――
」
「セベクくん、どうしたの?」
「ティナ!」
よくやく私に気付いたのか、セベクくんより先にお姉さんが声を上げた。セベクくんは慌てたように私とお義姉さんを交互に見ると、大きく息を吐いた。
「君が倒れたと聞いて戻ってきたに決まっているだろう!!」
「あー、やっぱそうなんだ。大丈夫だよ、心配してくれてありがとね」
「なっ!?」
「ティナ、そんなことより、身体はどうだった? おかしいところとか
……
」
「そんなことだと!?」
セベクくん、心配してくれたっていうのに、そんな怒った顔されるとちょっと寂しいよ。とはいえ、私のためにわざわざ大事なお仕事を抜けてきてくれているんだよね。私のこと、ちゃんと心配してくれてたんだなって、喜んでいいことではないけれど、とても嬉しかった。お仕事の邪魔をしちゃったのは悪いとは思うけど、でも、思っちゃったのは仕方ない。
「身体は大丈夫です。怪我とか煙とかの心配はないって。お義姉さんの治癒魔法のおかげです。ありがとうございます」
「そう、よかった
……
」
お姉さんはほっとしたように笑ってくれているけど、セベクくんは相変わらず苦虫を噛み殺したような渋い顔だ。これはもうひと怒鳴りくらいはきそうだ。そうなったら面倒だから先に伝えることを伝えとこう。やっぱり、一番に伝えたいもんね。ちょうどいてくれてよかったなぁ。
「それとね、赤ちゃんができたんだって」
「えっ」
「!?!?」
声を上げながらお義姉さんはカウンターを飛び越え、目をまん丸くして固まるセベクくんを突き放して、私の前に来た。私と、私のお腹を何度も見比べて、両手で私の手を包み込んだ。冷たい手にちょっとだけひやっとしたけれど、お義姉さんの目はとても暖かかった。
「ほんとう? ティナ」
「です。まだうーんと小さいみたいだから私も分からなかったんですけど」
「そうなの
……
よかったわねぇ!」
お義姉さんはぽうっと頬を染めて嬉しそうに笑ってくれた。万が一「人間との子供なんて」みたいなことを言われたらどうしようと思ってたけど、心配がはずれてほっとした。
お義姉さんは喜んでくれてるみたいだけど、当のセベクくんは固まったままだ。
……
そんなにショックだったのかな? まさか、イヤすぎてこうなってるわけじゃないよね? そう思って、ちょっと心配になる。心配する私をよそに、お義姉さんは目を輝かせながらドアへ向かった。
「こうしちゃいられないわ、私、お父さんとお母さんに伝えてくる!」
「へ!?」
「セベクは置いとくから、ティナはちゃんと休んでるのよ!」
「ちょ、おねえ
――
」
止める間もなく、私たちを置いてお義姉さんはすごい勢いで走って行ってしまった。
お義姉さん、普段はおっとりしてるんだけど、セベクくんとの言い争いといい、たまにこうやってジグボルト家の人らしい勢いみたいなものが出ちゃうんだよね。あんなこと言ってたし、これからお義母さんを連れて戻ってくるのかな?
しょうがないなぁとくすぐったく思いながら、お店の前で野次馬をしていたご近所さんに改めて騒がせたことを謝った。幸い、みんなして怒ることもなく、楽しそうににこにこ笑いだった。ついでに話も聞こえていたのか、お大事に、とか、おめでとう、とか労わってくれた。
本当に、ご近所さんにも恵まれてるなあなんて実感して胸が温かくなる。
思ったより近所迷惑になってなかったことにほっとしながら店に戻ると、セベクくんはまだ固まったままだった。もうちょっとしたら我に返って、お義姉さんみたいに騒ぎ出すんだろうな。その前にお店を閉めることにした。お店は開けたばかりだけど、セベクくんが我に返って、お義姉さんとお義母さんまで来るんじゃ、お仕事にならなそうだもんね。
なにを言うでもなく小刻みに震えるセベクくんをよそに、お店のドアに「臨時休業」のお札を下げて、釜の火を落とした。そして、診療所で聞いた話を思い出す。
先生の見立てでは順調に育てば夏頃に産まれるらしい。どんな子が産まれてくるのか今からとても楽しみだ。双子らしいけど、男の子の双子なのかな? それとも女の子かな? もしかして、男の子と女の子の双子かも。早く会いたいなぁ。
セベクくんが落ち着いたら、ゆうべに聞いたシルバーさんのお母さんの話で思ったことを話そう。もしかすると私もいきなりいなくなることがあるかもしれない、と。考えすぎだって言われるかもしれないけど、絶対にないことではないから。話しておくにこしたことはない。
それ以外にも話し合いたいことはたくさんある。そんなことを考えながら、ガチガチに固まったセベクくんの背中をそっと撫でた。
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