いまち
2022-05-30 01:21:50
69593文字
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過去への展望

マイアナスト2展示だった⚡🐣。調合失敗して16年の前の茨の谷にタイムスリップした🐣の話。
ちょっと長め(いまち比)

6話

 それからリリアさんも帰ってきて、三人の生活に戻った。
 シルバーさんは相変わらずセベクくんと一緒にリリアさんに訓練をつけてもらっている。そうでない時は前以上に家のことを一生懸命やってくれるようになった。
 助かるけど、これだと私の立場がないんだよねぇ。セベクくんや動物たちと遊びに行くなり、本を読むなり好きにしていいんだと言っても、シルバーさんからは「俺がしたいからするんです」ときっぱり言い切られてしまった。……私、これくらいの歳の時っておうちのお手伝いどころか一日中遊んでた気がするんだけどな。私が不真面目すぎるだけなのかな。
 ちょっと気は引けるけど、シルバーさんは嫌々しているようじゃないし、浮いた時間のぶん、研究に専念できるからいいのかな? そう思って、元いた時代に戻る方法を探した。来た時の再現をしようとわざと調合を失敗したり、その逆の手順を踏んでみたり、時の妖精さんを探してみたり、次元転換器を作ろうとしてみたり……色々な手段を試して、探してみるも、まるでうまくいかないでいた。
 けれど、意外なほど焦燥感はなかった。茨の谷がのんびりしている風土のせいなのかもしれない。焦ったところで余計マズい失敗をするかもしれないし、それならゆっくり研究を進めて「そのうち帰れたらいいな」くらいに思うのがちょうどいいのかもしれない。幸い、リリアさんもシルバーさんも私がこの家に住むことを受け入れてくれてるし、お腹の子たちのことも、まぁ、なんとかなる気がした。今までだってなんとかなってきたんだから、これからもなんとかなるでしょう、なんて考えるようになってきた。
 もちろん、私がこの時代に残って歴史が変わったり、残して来た未来にどんな影響があるのかと思うと、そうも言ってられないのは分かる。それでもやっぱりなんだか焦る気にならないのだ。

「ダメだなぁ……
「なにがいけないんですか?」
「うぇっ!?」

 いきなり声をかけられて振り向くと、驚いたような顔のシルバーさんと目が合った。シルバーさんははっとした顔をするとすぐ「すみません」としょんぼり俯いた。

「ごめんごめん、ぼーっとしてた。えと、どうかした?」
「はい。その、セベクが『お茶を淹れる訓練だ!』と言ってずいぶん淹れてしまったんです。その、よければ一緒に飲みませんか?」
「セベクくんが?」

 聞くとシルバーさんは小さく頷いた。そういえば、セベクくんは学園にいた時からお茶を淹れるのが上手だったっけ。あの時は意外だと思ってたけど、こんな小さい時から練習してたのなら納得かも。でもでもと掴めない答えを探して頭を空回りさせるより、かわいい子たちと美味しいお茶でも飲めば気分もすっきりするかも。そう思ってお誘いを受けることにした。

「それじゃあ、ご馳走になっちゃおうかな」
「はい! その……
「ん?」
……いえ。たくさん淹れてるので、無理に飲まなくていいというだけです」
「うん、わかった。ありがとね」

 なんとなく奥歯にものが挟まったようなシルバーさんの態度が気になった。この前に風邪をひいてからというものの、明らかにシルバーさんの態度は変わっていた。なんとなく、ここに来た時のようにどこか余所余所しくて、私と顔を合わせる度に何かを言いかけてはやめるということが増えた。
 どうしたのか聞いても「なんでもない」とかぶりを振るばかりで答えてくれず、私もなんだかもやもやしていた。シルバーさんがイヤがることでもしちゃったかな、とか考えてみると思い当たらなくて、実にすっきりしない気分だ。けれど、シルバーさんだって複雑な事情を抱える(らしい)子だから、なにかと思う事はあるんだろう。気になるとはいえ無理に聞き出さず、話してくれるのを待った方がいいのかもしれない……そう思って、あまり深入りしないよう心に決めた。もちろん、頼られたらいくらでも力は貸すけれど。
 それから、ちらちら私を振り返りながら歩くシルバーさんの後をついて、セベクくんが淹れてくれたというたくさんのお茶をごちそうになった。私の知ってるセベクくんのお茶とはかけ離れた味だったけど、これからどんどん美味しいお茶を淹れられるようになるんだなぁと思うと感慨深かった。

 そうやってゆるゆる過ごしているうちに、一週間が経った。研究は続けるも、相変わらず手ごたえはない。そんな日の夜はシルバーさんを寝かせてから、リリアさんとぐちぐちお話するに限る。何を言ってものほほんと聞いてくれるからこっちとしてはとても気楽だった。
 愚痴とか、二人がかわいいこととか、のんびりお茶を飲みながらなんてことない話をする時間は、シルバーさんたちと過ごすのとはまた違う楽しみがあった。長く生きていることもあってか、リリアさんはとても話し上手でつい聞き入ってしまうのだ。今夜もそうしてまったりお喋りしていると、リリアさんは「そういえば」と思い出したように口を開いた。

「シルバーの奴、お主を母親だと思っとるらしいぞ?」
「へ! なんでそうなるんですか!?」

 不意打ちの言葉に思わず大きな声をあげてしまう、ついでにお茶を少しこぼしてしまった。
 リリアさんはそんな私に動じる様子もなく「そりゃわしが聞きたいわ」なんて唇を尖らせて「覚えはないのか?」と聞いてきた。もちろんそんな事実はなければそういった話をした覚えもない。まるで身に覚えがないからちょっと困る。零したお茶を拭きながら、この前の子供の話で誤解させちゃったのかなぁ、なんてぼんやり思った。

「ないですよぅ……
「ふぅん。ま、わしとしてはこのままあれの母親になっても構わんのじゃがな」
「私が構います」

 とんでもないことをしれっと提案してきた。今に始まったことじゃないけど、リリアさんの言葉はいつも冗談なのか本気なのか分からない。
 でも、とちょっと考えてしまった。リリアさんの言うとおり、ここでシルバーさんのお母さん代わりをするのは正直、悪いことではない気はする。ここでの生活も元の時代の生活もあまり変わらないから、ただ生きていくだけならさほど困らない。お金も、リリアさんが研究用にと用意してくれた器材とここの森の材料があれば、もとの時代でやっていたような商売はできる。お店はないけど、街で露店のようなお店を開けば食事代は十分に賄える。住む家があるなら生きようと思えば、実は何の問題もなかった。……なんてちょっとだけ気持ちが傾いたけどすぐに思い直した。

 ここには私の旦那さんはいない。

 二年間ものすごーく分かりにくいアプローチをしてくれて、結婚指輪を作るために一緒に鉱山へ潜ってくれて、結婚してもすぐ家を空けて、たまに帰ってきてはどこまでも食費を嵩ませてくれる、そんな私の愛しの愛しの旦那さまはここにはいない。
 ここにもセベクくんはいるけど、そのセベクくんが私の旦那さんになることはないだろう。子持ちの、親友の母親と思っている女をそういう目で見られる子じゃないもの。そうしたらきっと未来は変わる。セベクくんは私とは別の女の人をお嫁さんにするんだろう。そう思ったら胸がかぁっと熱くなるのを感じた。
 ……やっぱり私は帰らなきゃいけない、そして、あまりのんびりもしていられない。そう思った。

……でも、生まれてくる子がシルバーさんみたいなイイ子だと嬉しいです」
「嬉しいことを言ってくれるのう」

 リリアさんはくふくふ笑いながら汚れた布巾に洗浄魔法をかけた。そっか、魔法で洗ってもよかったんだった。いきなりのことで動転しちゃったからね、仕方ないね。
 リリアさんを見てそういえば、と気付く。リリアさんは私が未来から来たことを知っている。けど、それに関する話はまるでしたことがない。好奇心旺盛なリリアさんにしては珍しいなと思って、つい気になって聞いてみた。

「そういえば、リリアさんって未来のことを聞こうとしないですよね」
「気にならないこともないが、楽しみが減るだけじゃからのう」

 リリアさんらしいなぁ、なんて思っていると「それに」と続けた。

「運命なるものは決まっておる。仮に聞いたとて、意味はないんじゃよ」
「運命……

 そういうものなのかな。なんとなく、納得できない。そうだとしたら私は生まれた時からこの世界に来ることが決まっていることになる。正直、受け入れがたい。この世界に留まることに不満はあまりない。けれど、だったら元の世界ではどうなる? これは何度も考えたことだ。
 私がここにいることは茨の谷の妖精族のためになる、というのは肌で感じている。でも、そのために私の両親は子供を失うことになる。若いうちから身内を亡くし続けた二人が子供まで失わなきゃいけない道理は、あってはいけないものだと強く思った。
 そんなことを考えてしまって、暗い気持ちになっていると、リリアさんが「およ」と首を傾げた。

「お主、なんか透けとらんか?」
「なに言って……

 こんな時になんの冗談かと窓を見ると、暗い窓に映るリリアさんと比べて私の映りが薄い。驚いて目線を下げるとリリアさんの言う通り、私の身体がうっすら透けていた。カップを握る感触はある、なのに私の手は小さな妖精さんたちのように少し透けている。

「り、リリアさん、これっ!?」
「帰るんじゃろ。知らんけど」
「そんな適当な」

 慌てふためく私をよそに、リリアさんは「達者でなぁ」なんてにこやかに手を振っている。どことなく暢気な様子にぎょっとした。帰るにしたっていきなりすぎるし、こんなよく分からない帰り方でいいのか。変な送られ方とかして、もっと訳の分からないところに放り込まれたらどうしよう。でも、なにがどうなっているのか分からなければどうしようもない。
 気は焦るのにどうしようもなくて、気持ちだけが空回りするのを感じる。そうしている間にも私の身体はつま先から徐々に消えていくのが見える、感覚はあるけれど。とりあえず「お世話になりました」くらいは言った方がいいのかな?
 わたわたしながら部屋を見回すと、いつの間にか開いていたのか、半開きのドアからシルバーさんが覗いていることに気付いた。驚いたような、怯えたような目をしている。目が合って、あっと声を上げそうになると、部屋一面に白い光が激しく瞬いた。それと同時に元の時代にいた時に感じた強く引っ張られる感覚、そして頭を激しくゆさぶられをような目眩を覚える。

――!!」

 胸が苦しくなるような悲鳴と、慌ただしく駆け寄ってくる足音をどこか遠くに聞きながら、真っ白く染まった視界を最後に再び私は意識を失った。