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いまち
2022-05-30 01:21:50
69593文字
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過去への展望
マイアナスト2展示だった⚡🐣。調合失敗して16年の前の茨の谷にタイムスリップした🐣の話。
ちょっと長め(いまち比)
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5話
そんなこんなでゆっくり過ごしていると、陽が沈み始めた頃にシルバーさんは目を覚ました。たっぷり寝たおかげか、顔色はずいぶんと良くなっている。寝起きでぼぅっとしているシルバーさんがかわいくて、頭を撫でるとくすぐったそうに目を細めた。
「おはよう、具合はどうかな?」
「
……
おかげさまで」
ずっと寝ていて喉が渇いているのか、声は少し掠れている。少しぬるくなったお水を飲ませて、おでこに触れてみると今朝と比べて熱っぽさはあまりない。この調子なら明日には元気になりそうだ。軽めの風邪で本当によかったと、すごく安心した。
「ご飯は食べられそう?」
「少しなら」
「それじゃあ、お夕飯の支度もするね」
受け答えもしっかりしてるようで何よりだ。とはいえ、風邪は治りかけが肝心だとよく聞くし、今日はまだゆっくり休ませた方がいいよね。でも、たくさん汗をかいたみたいだから、これをどうするかだ。
熱は下がったみたいだからお風呂でゆっくり温まるのもいいんだろうけど、身体への負担はちょっと心配かも。今日のところは汗を拭くくらいにして、明日の朝にでも入ってもらえばいいかな?
「汗、結構かいちゃったみたいだからお着替えと、身体も拭いちゃおうね」
「はい」
魔法でお湯を作って、タオルを洗って、ぎゅぎゅっと絞る。セベクくんにお水を飲ませた時もだけど、こういう時ちゃんと魔法を習ってて良かったと思う。普通にお湯を沸かしてたらちょっと時間がかかっちゃうもんね。ベッドも汗でこもっちゃってるから、後で暇を見て魔法で乾かしておこう。じとじとしてると気持ち悪いし、ベッドも傷めちゃうもんね。そんなことを考えながらシルバーさんにタオルを渡す。
「それじゃあ、これで拭いてお着替えしててね。私はお夕飯の支度をするから」
「はい」
「背中もちゃんと拭くんだよ? タオルと着替えたパジャマとかは洗うから適当に除けておいて」
「わかりました」
「あ、背中まで手は届くかな? 私が拭こっか?」
「大丈夫です」
「そう? あ、でも
……
」
「俺は本当に大丈夫です。心配しないでください」
逆に気を使われてしまった。ちょっと恥ずかしい。でも、しょうがないよね、シルバーさんかわいいんだもん、しつこく思われても構いたくなるってものだよね。未来への影響を考えないこともないけど、まぁ、たぶん、大丈夫でしょう。根拠はないけど。なんて、自分に言い訳をしながらお部屋を出る。
たしかに、よく知らない人に裸を見られるなんて、子供でも恥ずかしく思うものだよね。ちょっぴり反省しながら、お夕飯の支度をする。自分用には残り物のおかゆにちょっと香草を散らして温め直したもの、シルバーさんにはまた別におかゆを炊くことにした。お昼に炊いたおかゆは、匂いこそ問題なさそうだけど、実は傷んでて食べたらお腹を壊しちゃった
……
なんてことになったら大変だもんね。今日も昼間は結構な暑さだったし、傷んでいてもおかしくない。かといって捨てるのももったいないから食べちゃおう。
ずい分と元気になったようだから、シルバーさんのおかゆは軽く焼き目をつけたトラウトを入れて炊いた。ついでに、動物さんたちが持ってきてくれた果物をヨーグルトで和えて、セベクくんが持ってきてくれた木苺を添えて、フルーツサラダも作っておく。美味しそうにできたから、シルバーさんが食べられなかったら私が食べちゃおうかな。
オレンジっぽい果物の皮を剥きながら、ぐつぐつと煮える音を聞いていると、着替えたシルバーさんがやってきた。
「あれ、寝てていいんだよ?」
「もう良くなりましたので」
シルバーさんはそう言うけど、顔はちょっぴり赤い。無理しなくていいんだけどなぁ。そう思っていると、シルバーさんは気まずそうに俯いて「その」と続けた。
「寝てばかりだったので、少しは動きたいんです」
たしかに、ずっと寝てると体も凝るし飽きちゃうよね。その気持ちは分からないこともない。今朝と比べたら元気になってるみたいだし、少しくらい起きててもいいのかもしれない。
「そっかぁ。じゃあ、お夕飯はここで食べる?」
「
……
いいのですか?」
「いいよ。でも、もうちょっとあったかくしとこうね。羽織るものとか、あるかなぁ?」
「! はい」
シルバーさんは大きく頷いて、お部屋に戻る。ほどなくして戻ってきたシルバーさんは、薄手の淡い緑色のカーディガンを羽織っていた。
「これでいいですか?」
「うん。あとこれをお膝に掛けて待っててね。すぐ出来るから」
「わかりました」
居間のソファで雑に丸まっていたひざ掛けを渡す。リリアさんの趣味で選んだ物なのか、目がチカチカする変な色の奇怪な柄のひざ掛けだけど、ないよりはずっといいはずだ。
……
見るだけで具合が悪くなりそうな見た目だけど、大丈夫だよね?
お鍋を見ながら、シルバーさんの様子も見るとお腹を空かせてるのか、そわそわ落ち着かない感じがしていた。それでも、こうやって大人しく待てるんだからいいよね。食欲があるのは元気なしるしだ。朝に顔を真っ赤にしていた時は気が気じゃなかったけど、ずい分と元気になったようで安心した。
炊きあがったおかゆをボウルに、フルーツサラダをお皿に盛りつけて食卓に並べる。フルーツサラダを見たシルバーさんは、不安そうな顔を見せたけど、フルーツ入りのヨーグルトみたいなものだと説明したら、安心したような顔を見せた。見慣れない食べ物を出されたら不安になるものだもんね。
「はい、お待ちどうさま。熱いから気を付けて食べてね」
「いただきます」
お昼に作ったおかゆは傷んでなかったようで、ほっとしながら二人でお夕飯を摂る。茨の谷は夜行性の妖精族が多いから、夜でもわりと賑やかなんだけど、ここ、リリアさんのお家は人里から離れているから、とても静かだ。こんな静かな夜は久しぶりだなぁ、なんて思う。
「どーぉ? お口に合うかな?」
「
……
はい」
「よかったぁ、おかわりもあるからいっぱい食べてね」
黙々とスプーンを進めるシルバーさんをかわいいなぁなんて思って眺めた。
お昼にも思ったけど、やっぱり誰かと一緒にご飯を食べるのはいい。美味しそうに食べてくれるならなおさらだ。
「元気になったら、明日はシルバーさんの好物を作っちゃおうか。何がいい?」
「俺の好物、ですか?」
「うん。きのこのリゾットでもいいし。食べたいもの、あるかなぁ?」
そう聞いてみるとシルバーさんは不思議そうな顔を向けてきた。シルバーさんってきのこのリゾットが好物だったと思うけど、この頃はそうでもなかったのかな? それなら別の物にした方がいいかも。ちっちゃい子って何が喜ぶかなぁ、なんて考えていたら、シルバーさんは怪しむような目で私を見上げていた。
「なぜ俺の好物を知ってるんですか?」
「え?」
「親父殿も知らないはずです」
「えーっと」
ものすごい疑いの目を向けられてしまった。どうしよう、はぐらかしても納得してくれなさそう。だからって本当のことを言うわけにもいかないし。というか、なんで好物なのにリリアさんは知らないんだ。いや、考えるべきはそんなことじゃない。言い訳を考えないと。えーっと。
「私のお友達にシルバーさんとよく似た感じの人がいて、その人もきのこのリゾットが好きなんだ。だから、もしかしたら
……
って思って。えへへ」
我ながら無理がある気がするけど、良くも悪くも、人の言葉を素直に受け止めるシルバーさんなら、きっと納得してくれる。
……
よね? ヒヤヒヤしているのを悟られないように意識して笑いかけると、シルバーさんはちょっとだけ首を傾げて「そうですか」と頷いた。よかった、納得してくれたようだ。
「面白い偶然ですね」
「そうだねぇ。それで、何食べたいかな?」
「
……
きのこのリゾットも作れるんですか?」
「うん。材料もあるからできるよ」
頷くと、シルバーさんの顔がわずかに綻んだ。喜んでいるんだろうというのは分かるけど、やっぱり分かりにくい。つい、もう少し笑って欲しいと思ってしまった。元々の性格なんだろうけど、シルバーさんの表情はとても大人しい。せっかくかわいい顔をしてるんだから、思いっきり笑ってるところとか見てみたいかも。そう思う私をよそに、シルバーさんは小さく頷いた。
「なら、それがいいです」
「じゃあ、明日元気になったら、お夕飯はそうするね」
「楽しみです」
「うん、任せて」
そんなとりとめのないお話をしながらお夕食を済ませた。シルバーさんは本当に元気になったようで、おかゆも、サラダも完食してくれた。ちっちゃい子がたくさん食べるのってなんだかわくわくする、なんて思ったりして。
それから少しばかり抵抗の色を浮かべるシルバーさんに夜の分のおくすりを飲ませて、歯磨きをさせてる間に洗い物を済ませて、汗で湿ったシルバーさんのベッドとお布団を魔法で乾かした。
着替えたパジャマや下着は明日まとめて洗おうと部屋から持ち出すと、歯を磨き終わったらしいシルバーさんが、居間のソファで例のサイケなひざ掛けに包まって横になっていた。
具合が悪くなったのかと心配になって聞いてみると、私が部屋の支度をしているようだからここで待っていたのだという。横になっていたのは起きているよりは身体への負担が少ないと思ったから、だそうだ。容態が悪くなったのではなくて安心した。
「ごめんね、待たせちゃって」
「大丈夫です。むしろ、ご迷惑をおかけして
……
」
「もー、遠慮なんかしなくていーの」
相変わらず遠慮したようなシルバーさんがいじらしくて、かわいくてつい頭を撫でてしまう。シルバーさんはくすぐったそうに首を竦めたものの、安心したように目を細めた。ここに来てからどことなくシルバーさんとは壁を感じていたけれど、大人しく頭を撫でられているところを見ると、なんとなく打ち解けたような気がする。
「それじゃ、後はお部屋でゆっくり休んでね」
「
……
」
「シルバーさん?」
返事がない。一瞬眠ってしまったのかと思ったけれど、シルバーさんは俯いてはいるものの、ちゃんと目を開いている。
「大丈夫、かなぁ?」
まさかまた具合が悪くなったのかと、恐る恐る顔を覗き込んでみる。
……
ちょっと顔が赤い。熱いものを食べたからかもしれないけど、もしかすると悪化したのかもしれない。やっぱり大丈夫だって言葉を鵜呑みにするのはよくなかったのかも。
「もしかして歩けない? ベッドまで運ぼうか?」
尋ねるとシルバーさんは小さくかぶりを振った。リアクションがあったことにひとまず安心したけど、どうしたんだろう。シルバーさんはそれきり、ひざ掛けを頭までかぶってしまった。これは、具合というより機嫌が悪いのかな? もしかして待たせすぎちゃった? どうしよう、なんでこうなってしまったのか全然分からない。懐いてくれたような気がしたけど、しつこすぎて嫌がられちゃったのかな?
シルバーさんはひざ掛けからちょっと顔を出して、難しそうな顔をしては引っ込めてと繰り返すばかりだ。
取り付く島もないようなシルバーさんの様子に困ってしまった。ベッドへ行けと言っても頷いてくれなくて、どうかしたのか聞いても答えてくれない状態に、どうしたものかと悩んだ。5分くらいそうしているとシルバーさんがおもむろにひざ掛けから顔を出した。
「その
……
」
「うん?」
「
……
やっぱりいいです」
「なぁに? 何でも言っていいんだよ?」
「笑いませんか?」
「うん」
「
……
怒りませんか?」
一体何を言う気なんだ。怒る怒らないで言えば、ベッドへ行こうとしない今まさに怒ろうかなって気分ではあるんだけどね。とはいえ、シルバーさんのことだ。怒らなきゃいけないようなことなんて言わないだろうから「怒らないよ」と頷いた。
シルバーさんは躊躇いの色を浮かべながら「では
……
」と弱々しく口を開いた。
「一緒に寝ていただけませんか?」
「うえっ!?」
驚いて思わず大声を上げてしまった。驚いた私にシルバーさんは「すみません」と小さくかぶりを振る。明らかに傷付いた様子のシルバーさんに失敗したと気付く。子供ながらにしっかりしてるから勘違いしそうになったけど、シルバーさんはまだ小さな子供だ。親代わりのリリアさんはいなくて、病気をして、心細くならないわけがない。それこそ、よく知らない大人の私にもすがろうとするくらい。
「ごめんごめん、ちょっとびっくりしちゃって。
……
えと、私と一緒に寝たいの?」
「はい。
……
いけませんか?」
それは、ちょっとどうなのかと一瞬思ってしまった。将来の話とはいえ、旦那さんのお友達と一緒のお布団で寝るのは倫理的にどうなんだろう。もちろん、浮気とかそういうつもりは一切ないんだけど。やっぱり、ちょっとばかり抵抗がある。でも、こんな小さい子だし、一緒に寝るくらいはいいのではないかと思う。
悩んで、答えあぐねていると、シルバーさんは寂しそうに顔を曇らせた。そんな顔にはっとさせられた。そう、相手は小さい子なんだ、そんな目で見るつもりはないとはいえ、変なことを考えるなんて大人としてダメでしょう。弱っている子を一人にするのだってダメだ。それに、一緒に寝ていれば、何かあってもすぐに対応できるもんね。そう考えたら、断る理由はあまりない。
「ううん、いいよ。でもお片付けとか、支度とかしないとだからちょっと待ってもらうけど、それでもいいなら」
「いくらでも待ちます」
即答するシルバーさんの顔はとても嬉しそうだ。本当にかわいくて、私もつい笑ってしまう。
となると、シルバーさんのベッドでは狭いから、私のお部屋で寝てもらうことになるかな。私のベッド、一人で寝るぶんには問題ないけど、二人だとちょっと狭いかもしれない、でもちっちゃい子とだから大丈夫かな?
「待たなくていいよ。眠かったらちゃんと寝ようね」
「
……
はい」
「それじゃあ、枕を持ってきて私のお部屋に来て。いい?」
「はい」
「よしよし。じゃあ、待ってるね」
大きく頷いて枕を取りに行くシルバーさんを見送って、私はベッドを整えるために自分の部屋に戻った。
私のベッドは起きた時のままだ。散らかっていないから、すぐにでも休んでもらえそう。ベッドの上に脱ぎ捨てたパジャマを避けて、軽くシーツとお布団を整えて枕をどかせば準備はできた。
ほどなくして枕を抱えたシルバーさんが部屋にきた。そわそわ落ち着かない様子のシルバーさんをベッドに寝かせて、お布団をかけて、眠れるように部屋の明かりを絞って、おやすみなさいと告げて私は諸々の片付けを済ませるために部屋を出た。
乾かした食器を拭いて仕舞って、シャワーを済ませてパジャマに着替えた。そして家じゅうの施錠を確認して、新しい水を注いだ水差しとコップを持ってまた部屋に戻る。寝るには早すぎる時間だけど、たまにはいいよね。
眠っているだろうから起こさないようにそうっとドアを開けると、言っていた通り、待っていたらしいシルバーさんと目が合った。
「あれ、起きてたんだ?」
「まだ眠りたくなったんです」
「寝ないと良くならないよ?」
「
……
平気です」
やっぱりシルバーさんの寝つきはよくないようだ。慣れないベッドのせいなのかな? あまり寝つきが悪いようならシルバーさんには自分のお部屋で寝てもらって、私はそこの床に毛布でも敷いて寝よう。何かあった時すぐ気付けた方がいいもんね。あ、でもよく知らない人の気配が気になって眠れない、とかそういうことならそれもよくないか。どうしよう? そんなことを考えながらシルバーさんの隣で横になる。
ちょっぴり狭さは覚えるけど、十分眠れそうだった。少しでも寝付けるように、そわそわするシルバーさんの頭を撫でた。結構汗をかいたはずなのに、案外髪はべとついていない。
ちょっとの間そうしていると、シルバーさんは私の顔をじぃっと見つめては、そっと目を逸らす、と繰り返した。シルバーさんがこういう挙動をする時は何かしらお願いがある時で、それはとてもささやかで遠慮するようなものではない。そんなことを今日一日通して理解した私は「なぁに?」と聞いてみた。やっぱりというかシルバーさんは遠慮がちに俯いてしまう。それでもどうしたのかと聞けば、シルバーさんはおずおずと口を開いた。
「
……
また話を聞いてもいいですか?」
「いいよ。旦那さんのお話をすればいいかなぁ?」
「えぇと
……
。
……
やっぱりいいです」
今まではこれで話を繋げられたのに、急にガードが硬くなってしまった。こんな態度をとられてしまえば、逆に何が聞きたいのか気になるというものだ。
「恥ずかしいことじゃなきゃ遠慮なく聞いていーよ?」
「いいんですか?」
「うん。とりあえず、言ってみて?」
シルバーさんは少しの間押し黙ると、意を決したような目を私に向けてきた。なんだろう、ちょっと緊張する。
……
まさか、私のことがバレたとかじゃないよね?
「今度は
……
あなたの子供の話を聞かせてください」
「こども
……
?」
いやに真剣な目でシルバーさんは頷いた。
そう言われてぎょっとしてしまう。もしかして、ここに来た時のリリアさんとのお話を聞かれてたんだろうか。もちろん、シルバーさんに盗み聞きする気なんてなかったんだろうけど。それでもなんとなく気恥ずかしい気がした。子供かぁ、ずっと欲しいとは思っていたし、今お腹にいるみたいだけど、正直まだ実感はないから少し答えに困ってしまった。
「そうだねぇ
……
」
とはいえ、生まれてくるであろう子供たちは絶対かわいいし、幸せにしたいし、なってもらいたい。
うまく伝わるか分からないけど、そんな思いをお話した。なんとなく納得していないような顔をされるあたり、うまくは伝わってないようだけど。
そんな話をしていて、少し考えた。私とセベクくんの間の子供なら妖精族と人間のクオーターである分、普通の人間より長生きしそうだ。
一般的にはどれくらいなのかまでは聞いていないけど、妖精族は何百年も生きるらしい。リリアさんはここ五百年の間に起きたことは実際に見て、記憶していると言っていたから、それくらいは生きるものだと仮定して、そこに人間の寿命を足して割ると単純計算でも私の倍以上は生きることになる。
と、いうことは私は生まれてくる子供たちの人生の半分も生きられないことになる。
「そう、なんだよねぇ」
「なにがですか?」
「んー、私、子供の半分も生きてられないんだなぁ。って思って」
「えっ?」
考えていて、少し落ち込んだ。もちろん、結婚の話が出た時も寿命のことは考えた。家柄も、種族もなにより寿命が釣り合わないのだから、後々お互い辛くなるだけだ、と。けど、その時のセベクくんはそれでもいいと押し切ってきた。あの時はお互い売り言葉に買い言葉みたいになって、結局お式を挙げてしまって今のすれ違い生活が始まっていたのだった。
二人きりで生きていくなら、それでもいい。お互い寂しい思いはするだろうけれど、それは織り込み済みだから。けれど、子供が出来たとなると話は変わる。もちろん、私の両親のように何かしらの事情があって、早いうちにいなくなる、なんてことはままあることだ。でも、不意のことでそうなるのはともかく、私の場合あらかじめ分かっていることだ。これから先、子供たちに寂しい思いをさせるのを分かっていて、それでも産もうとするなんて、私のエゴでしかないんじゃないかと思えて、胸がずっしり重くなった。
そんなことを考えながら、なんとなく、シルバーさんの頭を撫でていると不安そうな顔をするシルバーさんと目が合った。いっそ泣きそうな顔にも見えてちょっと焦る。
「ご、ごめん、ちょっとヘンなこと考えてた」
「
……
」
「シルバーさん?」
シルバーさんは何も言わないまま、甘えるように私の胸に顔を埋めた。
……
ちょっとくすぐったい。途中で話を切っちゃったから不安にさせちゃったかな? 考えはたぶん、口には出てなかったと思うし。小刻みに震える身体を抱きしめて、ゆっくり頭を撫でた。
そもそも、シルバーさんはそんな話を聞きたいんじゃないよね。親代わりのリリアさんと二人暮らしだから、そうじゃない家庭がどういうものなのか興味がある、とかそんなつもりで話を振ってきたんだよね、きっと。うん、ここはシルバーさんの健全な心のためにも、アットホームな話をしないとだよね。そう自分に言い聞かせながら頭を撫でていると、やがてシルバーさんの震えは治まった。
寝ちゃったのかと思ったけど、シルバーさんは泣きそうな顔でまた私を見上げていた。
「長く生きられないとはどういうことですか?」
「へ?」
「おっしゃってました」
「あー
……
」
思っていただけのつもりが口に出ていたらしい。なるほど、だからシルバーさんは心許ないような顔をしていたのか。小さい子には生きるの死ぬのの話は、悪い意味で刺激が強すぎるもんね。自分のうっかりにうんざりしながら、どうやんわり伝えようか考えた。子供だからって、下手なごまかしはよくないよね。本当のことを、柔らかく伝えよう。
「んーと、寿命の関係かな」
「寿命
……
」
「うん、だから、私子供たちほど長く生きられないんだ」
「なんで、ですか?」
「
……
そういうもの、としか言いようがないかなぁ」
あまり具体的な話をしたら後々に響くかもしれないから、それとなくお茶を濁した。誤魔化すのはよくないんだけど、私ではうまく説明できそうにない。
「でもね、それまではいーっぱい愛情を注ぎたいなぁって思ってる、かな」
「愛情
……
」
「うん。一緒にいられる間はせいいっぱい愛したいなぁ」
今シルバーさんにしているように一緒に寝たり、こうやって頭を撫でたり。そういうことを、これからたくさんしていきたい。そう言うとシルバーさんの表情が一瞬和らいで、またすぐに翳ってしまった。やっぱり寿命の話はよくなかったかな? それとも、話が抽象的すぎて理解されなかったかな。難しいなぁ、なんて思っていたらシルバーさんはまた私の胸に顔を埋めて大きくかぶりを振った。だいぶくすぐったい。
「そんなの、嫌です」
「へ?」
「長く生きられないなんて、嫌です。ずっと生きていてほしい、です」
「え? えと
……
」
シルバーさんの身体がまた小刻みに震えた。顔を埋めているあたりがじんわりと熱く湿り気を感じる。
……
もしかして泣かせちゃった? え、なんで? そんなに怖い話だった?
困惑する私をよそに、シルバーさんは堰を切ったようにわんわん泣き出してしまった。なんで? どうして? そんなに生き死にの話が怖かった? いきなりのことに驚いたけど、よく考えたら風邪を引いてる時なんてただでさえ不安な時だ、そんな弱っている時に生死の話をしたら必要以上に怖く思うのは仕方のないことでは?
……
そう気付いて、またも自分にがっかりしてしまった。考えなしにもほどがある。
ひとまずシルバーさんを落ち着かせようと、もう一度抱きしめてゆっくり背中を撫でた。泣きじゃくって、その度に背中がビクビクと震えた。そんな生々しい触感を手のひらに感じる。
「脅かしてごめんね、死んじゃうなんて話、怖かったよね」
シルバーさんはしゃっくりを上げながら小さくかぶりを振った。
「そーぉ? えっと、でも、怖がらなくてもいいからね」
「
……
でも
……
」
「その、たしかに私は子供たちと比べて寿命は短いよ。でも、すぐどうにかなるってわけじゃないの」
「
……
」
背中をぽんぽん叩いているうちに、シルバーさんの呼吸が落ち着いてきた。よく考えたら、ものすごく誤解を与える言い方だったと自省する。妖精族と比べたら短いけど、私自身は病気なんかはしてないし、両親も身体は丈夫だったから、そんなに早死にするとは思えない。でも、そうだ、少しでも長生きできるように、健康とかもっと気を使ってみるのもいいかもしれないと思った。私としても、少しでも長く一緒にいたいもんね。
「シルバーさん、もしかして心配してくれたのかな?」
こくり、と小さな頭が僅かに頷く。シルバーさん、まだ生まれてもない私のお腹の子たちのためにこんなに泣いてくれるのか。私が知ってるシルバーさんは優しい人だ。それが、こんな昔から優しい子だったのだと知って、嬉しくなった。
「嬉しいなぁ。でも、本当に心配はいらないの。ごめんね、不安にさせちゃって」
「
……
」
シルバーさんは何も言わず、私にしがみついたまま、また小さく頷いた。
それから、落ち着きを取り戻したシルバーさんと色々なことをちょっとずつお話した。リリアさんのこと、お稽古のこと、魔法のこと、お料理のこと、そんな他愛のない話をしているうちに、シルバーさんはようやく眠りに就いた。
時計を見ると夜の十時だった。やっぱり、寝つきはあまりよくないようでちょっと心配。けど、すやすやと立てる寝息はとても穏やかで、触っていても熱っぽさはもうない。かなりよくなっているみたいだ。
「おやすみ、シルバーさん」
ゆっくりゆっくり頭を撫でて、その小さな身体をぎゅうっと抱いた。お腹の子が産まれたらこうやって一緒に寝るのかな? でも双子だとどうやって抱っこすればいいんだろ? そんなことをふわふわ考えているうちに私も眠りに就いていた。
次の日、シルバーさんはすっかり元気になっていた。朝早くに起きて、たくさん朝ごはんを食べて、家の掃除をしてくれた。病み上がりだから無理しないよう言っても聞いてくれず「平気です」と一蹴されてしまった。
それから、昨日の宣言通りセベクくんがシルバーさんのお迎えに来た。ぷんぷん怒ったような顔をしていたけど、きっとこれはセベクくんなりの照れ隠しだろう。昨日はとても心配していたもんね、元気になって喜んでいるんだろうというのは、見ていてよく伝わった。
昨日できなかった分もたっぷり鍛錬するからな、とセベクくんは張り切っていた。それならばと二人分のお弁当を作って、水筒と傷薬を入れたバスケットを用意すると、二人とも嬉しそうにしてくれた。お弁当を渡す間際、シルバーさんは恥ずかしそうに「ゆうべのことは誰にも言わないでください」と耳打ちしてきた。
男の子だし、泣いちゃったのを恥ずかしく思うのかも。恥ずかしいことではないんだけど、そういう気持ちを無視するのは悪いから「もちろん」と頷くと、ほっとしたような、嬉しそうな顔で「行ってきます」と告げて二人連れ立って森の奥へ走って行った。
私は何してようかな。昨日できなかった分、元の時代に帰るための研究でもしようかな? お昼は自分の分だけ用意すればいいし、今日のお夕飯は決まってるから、考えなくていい分ゆっくりできるだろう。
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