いまち
2022-05-30 01:21:50
69593文字
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過去への展望

マイアナスト2展示だった⚡🐣。調合失敗して16年の前の茨の谷にタイムスリップした🐣の話。
ちょっと長め(いまち比)

プロローグ:いつかの過去の話を聞かせて

 ティナ・キースリンク。二十三歳、茨の谷在住魔法屋店主、結婚二年目、子供なし、夫婦仲……たぶん良好。

 私は十五歳の時に事故で別の世界からここ、ツイステッドワンダーランドに送り込まれた。何がなんだかわからないまま魔法学園・ナイトレイブンカレッジの生徒になって、学園で勉強する傍ら、元の世界へ帰る研究をするも結果は振るわず、あっというまに四年が過ぎて卒業してしまった。
 それからは色々な人に助けられて、茨の谷にお店を持つことになった。ここで過ごすうちに縁があって、学園にいた時なにかと一緒になることが多かったセベクくん(なぜか私の姓を名乗ってくれている)と結婚して今年で二年目になる。

 結婚したはいいけれど、お城でお勤めをしているセベクくんは平日はお城に詰めていて、お休みの日だけうちに帰ってくるという生活だった。そんなものだから、寂しいと思うことは多い。
 家から通ってくれれば寂しくなくていいのになぁ、つれないなぁ。……なんてちょっとばかり恨みたくなる気持ちはある。けど、私と出会う前から、マレウスさんの側にいることはセベクくんにとって人生のすべてだ。そしてそれは今も変わらない。
 実際、マレウスさんのお傍に仕えて、精一杯頑張っているセベクくんはものすごくカッコイイ。そして、そうあり続けるためにずっと努力を続けているセベクくんは本当にかっこよくて、その姿勢にはついつい見とれてしまう。
 ……とはいえ、そのカッコよさに気付いたのは、出会ってからずい分と経ってからなんだけど。
 そんなワケで、カッコいいセベクくんの邪魔をしないため、一緒にいたいと思う気持ちはそうっとしまった。そうして、結婚してからもセベクくんはセベクくん、私は私でお勤めに励んでいる。
 ここ茨の谷に住んでる妖精族の人たちからすれば、私たちくらいの歳の人間は子供にしか見られないらしく、ことあるごとに赤ちゃん扱いされている。
 悪意がないのは分かるけど、侮られているのがまる分かりでちょっぴり悔しい。だから、侮られないよう、お互いがお互いにとって恥ずかしくないよう自立するために、こんなすれ違いみたいな生活を送っている。
 その代わり、帰ってくる週末は二人きりで過ごすために、お店はお休みにしている。一緒に出かけたり、お義父さんやバウルさんのおうちにお邪魔したり、朝から晩までのんびりしたり、いちゃいちゃしたり。二人でめいっぱい楽しむようにしていて、今週末もそうして過ごた。

 お休み終わりの晩、明日のお仕事に支障がない程度に肌を重ねて、枕を並べて一緒のお布団に包まる。最近は夜もずいぶんと冷えてきて、お布団に隙間があると冷たい空気が入ってくる。寒いのはイヤだから、隣で横になってるセベクくんにぴったりくっつきながらだ。
 お互いの熱を存分に分かち合って、少し湿ったベッドの中で、ゆったりのんびり過ごすのは大好きだった。
 身も心もふわふわしている夢心地な時にするのは中身のない話がいい。もっと大事に時間を使わないとと思わないこともないけど、お互いの時間を無駄遣いし合うっていう贅沢もいいものだよね。たぶん。
 今日もそんな時にぴったりの、ふんわりしたお話を振った。

「そういえば、セベクくんの初恋っていつ? だぁれ? やっぱり私?」
……はぁ」

 ふいに思い付いて聞いてみると、セベクくんは呆れ顔で大きなため息を吐いてくれた。こういうところは知ってたけど、なんて情緒がないんだとしみじみ思う。もうちょっと会話を楽しむとかできないかなぁ。抗議の意を込めて耳をちょっとつねってやる、けど、「やめてくれ」とあっさりいなされた。むぅ、つまんない。

「なによぅ」
「君には情緒というものがないのか」
「セベクくんよりはあるもん」
「だったら、こんな時に聞くんじゃない」

 と、呆れ顔でおかわりのため息をもうひとつ。なるほど、このまったりいちゃいちゃしてるタイミングで聞くことではないと。おかしいな、私の予想では「お互いが初恋だもんね、嬉しいなぁ、照れちゃうねぇ、うふふふふー」って盛り上がるはずだったんだけどな。でも、せっかくだしもう一押ししてみようかな。
 全然柔らかくないほっぺをつついて口を割らせる。つまんない見栄をはったとこで、セベクくんにそういう色っぽい話がなかったのは知ってるもんね。

「まぁまぁ、でも、私でしょー?」
「違う」
「またまたー、正直に言っていいんだよー?」
「正直に言っている。君ではない」
「えぅ……?」

 茶化してはみたけど、返ってきたのは真面目な顔と正直な答え。
 こんなことでしょうもないウソをつくような人じゃないのはよく分かってるんだけど、そんな答えが返ってくると思わなければ、肯定以外の返事を飲み込む準備なんてできていなかった。ようは、私はショックを受けていた。
 初めて会った時はマレウスさんのことしか見えてなかったみたいだし、恋愛とかそんな話は微塵も聞かなかった。
 なんかの話の流れで、エースくんがセベクくんの恋愛観について、ものすごく呆れたようなことを言っていた。「アレに恋愛とか無理すぎるでしょ」って。
 私もその時は恋愛がどういうものか分かってなかったけど、セベクくんが恋愛とかするのは想像つかなかったのは覚えてる。
 なんせ、あの頃のセベクくといえば、口を開けばマレウスさんと鍛錬の話ばっかりだったもん。後になって周りの人たちから聞いた話では、セベクくんは小さい時からそんな調子だったらしく「マレウス様にお仕えする」と言ってはリリアさんにお稽古をつけてもらっていたらしい。
 そんなセベクくんだったから、他の人に恋をしたことがあったというのが本当に、本当に予想外だった。
 今は私の旦那さんだし、大切にしてもらってる自覚は重々あるからいいといえば、いい。けど、消化しきれなくて胸が重たくなった。私、ヤキモチとか妬くタイプだったんだ、知らなかった。知りたくもなかったけど。

……で、どういう人?」

 できれば聞きたくなかった、けど、知らないままでいるのも気分が悪い。
 それに、マレウスさんのことで頭がいっぱいなセベクくんの気持ちをさらえる人が、どういう人なのかも気になった。
 聞いてみて、おそるおそるセベクくんの横顔を見るも、いつもとあまり変わらない。それが私にとっていいことなのか、悪いことなのか分からない。
 過ぎたことだと気にしてないのか、それとも、その人のことはすっかりセベクくんの内に馴染んでいて、いい意味で空気のような人だからなのか。
 どきどきしながら様子を伺っていると、セベクくんは少しだけ考えるような素振りをみせて、天井を眺めながらぽつりと、けどはっきりと呟いた。

……。シルバーの母親だ」

 聞き間違いかと思った。シルバーさんのお母さん? それを初恋なんて言っていいの? 恋に年齢立場は関係ないとはよく聞く。
 けど、お友達の母親を初恋の相手だと言い切ってしまうのはどうなんだろ? ちょっともやもやするかも。
 それに、リリアさんがシルバーさんの育ての親だって話は聞いたことがあるけど、本当のご両親のことは聞いたことがなかった。だから、どういう人なのかって知られていることに驚いた。
 もやもやする気持ちと、会ったことのないシルバーさんのお母さんへの興味とが頭の中を駆け巡って、ようやく出た言葉が「シルバーさん、お母さんいたんだ」だった。
 もっと気の利いたことは言えないのかと、我ながら間抜けに思っていると、セベクくんは苦笑いしながら「当たり前だろう」と私の頭を撫でた。
 なんかバカにされたみたいで悔しいかも。でも、こうやって撫でられるのは好きだから悪い気はしない。
 想像していたような甘酸っぱい恋のお話じゃないことにほっとした。そうなると今度はシルバーさんのお母さんがどういう人なのか気になった。……セベクくんの初恋だって話も気になるし。

「それにしても、シルバーさんのお母さんかぁ。どういう人?」
「ずい分昔のことだから、あまり覚えていない。まともに接したのは初めて会った時くらいなんだ」
……へー」

 まともに会ったのが最初の一度きり。つまりは一目ぼれということになるんじゃないかな? それで初恋だと言い切っちゃうんだ?
 過ぎたことだとは知りつつも、なんだか悔しく思えてお腹の底が熱くなる気がした。
 けど、シルバーさんのお母さんなら納得できる気もする。シルバーさんってすごくカッコイイもんね、それならお母さんもとんでもない美人なんだろうな、というのは想像に難くない。
 そりゃあ、一目ぼれもするのかも。納得すると、むっとなった気持ちは引いて、代わりに好奇心が湧いてきた。

「やっぱり、すっごい美人さんなの?」
「顔も忘れてしまったが、美人、という雰囲気ではなかったな。あれの顔は父親似なんだろう」

 男の子は母親、女の子は父親に似るとキレイになる、なんて迷信のような話はよく聞くから、シルバーさんもそうなのかと思ってた。
 でも、セベクくんはお義母さんに似てカッコイイから、その説は合ってると思う。私はパパ似なのにそうでもないのは疑問だけど。

「意外だねぇ」
「だが、性格はそっくりだった。変に掴みどころがなくて、話していると調子が狂う」
「へー」

 シルバーさんって普段はキリッとしてるけど、話してみると妙にふわふわしたところがあるもんね。そっか、性格はお母さん似なのか。
 シルバーさんって動物にもよく懐かれるほど優しい人だもんね、お母さんもそういう優しい雰囲気の人なのかも。となると、シルバーさんはご両親のイイとこを受け継いだんだなって思った。
 そう思うと、どんな人なのかどんどん気になってきた。ちょっと眠くなってきたけど。

「でも、一度だけ会ったってどういうこと? 今はいないの?」
「僕も何があったのかは知らないんだ」

 かぶりを振ってから「記憶も曖昧だが」と前置きしてセベクくんは続けた。
 なんでも、セベクくんたちが小さい頃、シルバーさんのお母さんがリリアさんの家を訪ねてきたんだそうだ。それからちょっとの間、リリアさんの家でシルバーさんたちと生活していたようだったけど、ある日突然いなくなってしまったんだという。

「なんで……
「僕もずっと疑問なんだ。僕も少し話をしたんだが、あの人には愛情深い印象を受けた」
「そう、なんだぁ」

 そして、お母さんがいなくなってからのシルバーさんの落ち込みようは、それはそれはひどかったらしい。
 リリアさんとセベクくんがどんなに声をかけても、ふさぎ込んだまま、ずっと部屋に籠っていたのだという。その時ばかりはセベクくんもものすごく気を使ったんだそうだ。
 その時のシルバーさんの気持ちは、ちょっと分かる気がする。
 それまで一緒に生活していたのに、なんの前触れもなくお別れするなんて、耐えられるものじゃない。私も十五歳の時にこの世界に送り込まれて、家族と離れ離れになった時は、それはこの世が終わったかのような思いがした。
 あの頃の私は自立してもいい歳だったから、どうにか折り合いはつけられた。けど、甘え盛りの小さな子供がそんな目に遭って平気でいられるわけがない。
 悔しさに似た悲しさを覚えながら天井を睨むセベクくんの横顔を見る。

「どう見ても息子を置いて失踪するような……いや、そもそも子供を捨てる人だとは思えなかった」
「なんか事情があったのかな?」

 下ろした前髪から覗くのは滅多に見せない悲しそうな目。セベクくんがそこまで言うってことはよっぽど優しい人なのかも。
 そんな人なら、お母さんの方もきっと辛かったんじゃないかと思う。私たちにまだ子供はいないけど、離れ離れになるなんて絶対イヤだもん。
 あぁ、でも、それを言ったら私もそうか。この世界に来てから結局、パパとママの元には帰れないまま、この世界で生きている。そう考えると、もしかしたらシルバーさんのお母さんにもそういった事情があったのかもしれない。
 何度もあっていい事象じゃないけど、ないって言い切れないものね。……考えていたら、気分が沈んできた。

「どうして君が泣くんだ」
「泣いてないもん」
「ならこれから泣くんだな。もう過ぎた話なんだ、君が気に病むことじゃない」
「でも……
「本当に、過ぎたことなんだ」

 小さい子に言い聞かせるようにセベクくんは続けた。めったに見せない優しい顔と声に、ちょっとだけくらくらする。普段はすぐいじけたりするくせに、たまーに頼りになるとこを見せてくれるんだもん、こういうところ、ズルいなって思う。
 気になる話ではあるけれど、ここまで聞く限り辛い話だ。あまり聞きたくないとは思いつつも、このまま話を打ち切られてももやもやが残りそう。だから、私は黙ってセベクくんの話に耳を傾けた。

「ある日を境にシルバーの奴、母親のことを綺麗さっぱり忘れてしまったんだ。今はもう何も覚えていないらしい」
「え?」
「母子揃って薄情だ」

 さっきまでの優しい顔からは一転、厳しそうな目で天井を睨みながらセベクくんは言う。吐き捨てるような口調だけど、その声色はいやに寂しそうだ。
 泣きそうなのはセベクくんの方じゃない。そう言いそうになったけど、その時のことを知りもしない私には何も言えない。ただ漠然と、もやもやした気持ちだけがあった。
 寂しそうにしてるセベクくんも、セベクくんにこんな顔をさせるシルバーさん親子にも、なんとなく置いてかれたような気分になった。
 それでも、聞けば聞くほど気になった。どうしてシルバーさんを置いて行ったのか。そもそも、子供を捨てるような人には見えないってどういう人だろ、とか。
 ……セベクくんはああ言ってたけど、やっぱり美人だったりするのかな? とか。もっと話を聞きたいところだけど、そろそろいい時間だし、眠気も限界だ。

……ねるー」
「あぁ、おやすみ」

 シルバーさんのお母さんの話や、冬冷えで寂しい気がしたから、セベクくんの腕を抱いて、指を絡ませる。
 それでもまだ寂しいから抱きしめてほしいとねだれば、呆れたような顔をしながらもぎゅっと抱きしめてくれた。呆れ顔だけど、耳元まで赤くなってるのはばっちり見えてるんだよねぇ、変なところで素直じゃないんだから。

「えへへー」
……。さっさと寝たらどうなんだ」
……うん、そーする」

 あからさまに照れ隠しをするセベクくんの肩口に顔を埋めて目を閉じる。
 一人だと寒いベッドでも、こうして二人でいると温かい。その温さに幸せだなぁ、なんて思う。
 けれど、ちくりとした痛みが胸の奥に刺さっていた。きっと、これは目を逸らしちゃいけないんだろう。それでも、直視したくなくて、すがるように、セベクくんの背中に腕を回した。