いまち
2022-01-23 02:10:36
28972文字
Public
 

ティナの借金返済記(とちゅーかも

いただきネタその3。続きは書けたら書く(゜ω゜
8/28  6P~増えた。ついでに借金も増えた。


……では、ごゆっくりお寛ぎください」
 アズールさんはにっこり笑ってお辞儀をすると、静かに私たちのテーブルから離れていった。
 そして頼まれたからには、と、お食事をするマレウスさんたちとお話をした。ここでのお仕事の話とか、お料理の話とか、いつもするような取り留めのないお話だ。本
 みんな忙しそうに働いてるのに、私だけ座ってお喋りなんてしててほんとにいいのかなぁ? 一人だけサボってる気がしてちょっと落ち着かない。そうは思っても、ちゃんとしないとだよね。

 なんだかんだとお話しているうちにお食事も終わり、お皿を下げながらデザートと追加のドリンクを取りに行った。
 せっかくだから私もなにか頼むといい、なんてリリアさんは言ってくれたけど、さすがにこれ以上サボるようなことはできないから、丁重にお断りた。断ったらマレウスさんはちょっぴりむくれたような顔になったけど、間違ってないよね、たぶん。
 お皿を下げながらそれとなくラウンジの様子を見ると、アズールさんの言った通り、空気が和らいでる感じがした。俯いて黙り込んでいたお客さんたちも、小声ながらお喋りとお料理とを楽しんでいるようだった。
 デザートはマレウスさんに五種類のアイスの盛り合わせ、リリアさんには大きなフルーツパフェ。二人は追加のドリンク、コーヒーとアールグレイだ。
 マレウスさんもリリアさんも嬉しそうにしているみたい。ここのお食事を気に入ってくれたならよかったなぁ、と思うと私も嬉しくなる。
 そんなほこほこ気分で眺めていると、不意に目の前にアイスの乗ったスプーンが差し出されていた。
「え?」
「キースリンク『あーん』だ」
 見ると、ものすごく真剣な目をしたマレウスさんと目が合った。
 「あーん」ってあれだよね、パパとかママがご飯を食べさせるやつ。それを私にするって? うん、わからない。マレウスさんは何を考えているんだ?
「うぇ?」
「若様! このような下賤な人間に施しなど必要ありません!!!」
「セベク、うるさい。他の客に迷惑だ」
「なんだと!?」
「セベクくん、あまり騒がないでね? マレウスさんも、ヘンなことしないでください、びっくりするじゃないですか」
「? このような店ではこうやって『あーん』するものではないのか?」
 イグニハイドの寮生がそんな話をしていたが、と首を傾げるマレウスさんにリリアさんは「どちらかといえば逆じゃな」なんてくふくふ笑う。笑ってないでマレウスさんを止めて欲しいんだけど。
 いくらなんでも恥ずかしいからこれはお断りだ。そう思っていると、マレウスさんがしょんぼりと肩を落とした。心なしか、辺りが冷え込んできた気がする。
「キースリンクは氷菓は嫌いなのか?」
「えと、好きですけど……
「なら遠慮する必要はない」
「します!」
「貴様! 若様のご厚意をなんだと思っているんだ!!」
「ちょ! さっき言ったことと矛盾してるよ!」
 どうしよう、このままじゃ収拾がつかない。誰か助けてくれないかな、とさりげなく見回すと、影からアズールさんがこちらを伺っているのが見えた。目が合って、どうすればいいのかと目配せする。通じるよね? 通じてくれなきゃ困る。
 私の願いは通ったようでちゃんと通じたらしい、アズールさんはすぐさま「やりなさい」とジェスチャーをした。

 正気か。

 恥ずかしいからイヤなんだけどな、でも、アズールさんにやりなさいとされれば従うしかない。
……わかりました。いただきます」
「ふふ、素直で結構」
 恥ずかしいのを我慢して、差し出されたスプーンを口に含む。チョコレートのアイスはこってり甘くて幸せになれる。美味しくてつい頬が緩むのを感じた。
「どうだ?」
「ん、美味しいです」
「ふふ、そうだろう?」
 満足そうに笑うマレウスさんに、どうにかやりきった気持ちになった。妖精族の人って、わりと突飛なことをするからたまにびっくりさせられる。そんなに害はないから、いいといえばいいんだけど、びっくりしたりするのは、まぁ、仕方ないよね。
 でも、マレウスさんが満足してくれたからいっか。そんなことを考えていたら、またスプーンが差し出された。今度はバニラのアイスが乗っている。
「おかわりだ」
「え?」
 慌ててアズールさんの方に目を向けるとまた「やりなさい」のジェスチャー。
 ……つまり、マレウスさんの気が済むまで付き合いなさいってこと?
 なんてことだ。……とはいえ、言われたからにはやるしかない。人前でこんなことをするのは恥ずかしいけど、それは我慢してもう一度マレウスさんからアイスを食べた。
 ミルクの甘味とバニラの香りがかみ合っててとってもおいしい。
「ん、美味しいですねぇ」
「そうだろう、さぁ、これも」
 次はイチゴのアイス。甘酸っぱくて、果肉の触感がアクセントになってる。おいしい。
「こうしてると雛鳥の餌やりをしている気分だな」
「私はヒヨコじゃないんですけど」
「そう言うな、さぁ」
 今度はキャラメルのアイス。甘めのアイスに焦がしたキャラメルの風味が混じり合って、甘さと苦さのバランスが絶妙だ。おいしい。
「む、これで最後か。キースリンク」
……。はい、いただきますね」
 最後、ミルクアイスに砕いたクッキーを混ぜ込んだアイス。甘いクリームの中にほろ苦いクッキーと風味と食感がぴったり噛み合って、お互いを引き立たせている。すごくおいしい。
 どのアイスも美味しかったけど、一番好きなのはクッキー入りのやつかな。そんなことを考えていると、マレウスさんはそれはそれは楽しそうに笑った。
「もう一口欲しいのか?」
「大丈夫です! えと、ご馳走様です」
「そうか……
 少しばかり残念そうな顔をするマレウスさん。さすがにこれ以上は恥ずかしすぎるし、セベクくんの目も怖いからお断りするよね。
 そんなこんなで、お食事を終えた四人のお会計の処理して、お見送りまで済ませた。お会計用の機械、ちゃんと使えてよかったなぁ。

 四人が出て行ってからややあって、ラウンジのあちこちから大きなため息が聞こえてきた。そんな、露骨にほっとしたような空気にもやもやした。……マレウスさん、なんでこんなに怖がられてるのかな。ちょっと納得できないかも。
 何気なく時計を見たら、もう私のお仕事時間も終わりが近い。結局、ロクにお仕事になってなかった気がするけど、ほんとによかったのかな?
 それでも、少しでも多くお仕事をしようと、何をすればいいのか聞きに行った。お夕食時も過ぎてきたし、ホールの仕事をきちんと覚えたいもんね。

 パタパタとお客さんの相手をしているうちにあっという間にお仕事終わりだ。昨日と同じようにジェイドさんに声をかけられて、まかないをもらって、カードを機械に差し込んだ。
 今日のまかないはキノコのピザだ。たっぷりのキノコとあつあつのチーズがとても合っていて、ついつい食が進んでしまう。
 食べていたら、ノックの音がした。誰かと思うとアズールさんで封筒片手に入ってきた。
「お疲れ様です。今よろしいでしょうか? あぁ、食べたままで結構ですので」
「んぐ、はい。なんですか?」
「貴女用の制服を用意しました。今週中頃に仕上がるそうなので、週末からはそれを来て業務をこなすように」
「え。すみません、わざわざ」
「いいんです。制服代は給料から差し引きますので」
「え!? あ、はい……
 制服、自腹なんだ。そりゃあそうだよね、寮服ってどこのも高そうだもん、作るとなったら結構な金額になるだろうしね。分からなくもないかな?
 でもなぁ、そんなことしなくても制服とエプロンでいいんじゃないのかな? ちょっと納得できない。
 ……とはいえ、こうなったのは元はといえば、お皿を割っちゃって、せっかく用意してくれた制服を着れないくらいおデブな私が悪いんだもんね。仕方ないけど
「ではこちら、新しい労働契約書です、お持ちください。前のものは破棄して構いませんので」
「あ、はい。わかりました……
「それと、次回からまた別の業務をお願いする予定です」
「別のお仕事ですか?」
「ええ、キースリンクさんのお仕事ぶりを見て閃きまして……確定次第、詳細はお伝えします」
「はぁ、そうなんですか……?」
 お仕事ぶり、ってそんなに働いてない気がするんだけどな。でも、アズールさんはお仕事熱心な人みたいだし、色々思い付いたりするんだろうね。私には分からないけど。
「では、お話は以上です」
 そう言ってアズールさんは封筒を置いて出て行った。
 返さないお金が増えたとか、次からはお仕事も増えるとか、なんだかよく分からなくなってきた気がする。けど、やることは変わらないよね。少しでも早くお仕事を覚えて、いっぱい稼げるようにならないとだもんね。
 そう思い直して、ピザの最後の一切れにかじりついた。……それにしても、このピザ本当にきのこたっぷりだなぁ、生地から溢れそうなくらい乗ってるよ。