いまち
2022-01-23 02:10:36
28972文字
Public
 

ティナの借金返済記(とちゅーかも

いただきネタその3。続きは書けたら書く(゜ω゜
8/28  6P~増えた。ついでに借金も増えた。

 今日はアズールさんと決めたモストロ・ラウンジでのお仕事の日だ。授業が終わって、その足でオクタヴィネルへ向かった。約束の時間よりは一時間は早いけど、遅くなるよりはいいもんね。
 着いてみると、モストロ・ラウンジはまだ開店前らしく、何人かのオクタヴィネル生が忙しない様子でお掃除や消耗品の補充をしていた。声をかけた方がいいかな、なんて思っていると、その中の一人が申し訳なさそうな顔でこっちに来た。
「すまない、まだ開店前なんだ」
「あの、今日からここでお仕事することになったんです。えと、アズールさんはいらっしゃいますか?」
「そうなのか? 寮長はまだ来ていないんだ。……ちょっとここで待ってくれるか?」
「はい」
 店先にある椅子を勧められて座る。少し不安になりながら声をかけてくれた人の方を眺めていると、他の人たちとお話し合いをしているようだった。もしかして、お邪魔になっちゃったかな? 早く来ればいいって思ったけど、必ずしもそうじゃないのかも。出直そうかなぁなんて思いながら待っていると、お話合いが終わったらしく一人が私のところに来た。
「キースリンクさん、だね。確認したよ。良かったら寮長が来るまで仕事を教えようか? 給料は出せないが」
「そうしてもらえるとありがたいですけど、いいんですか?」
 お店を開けてからバタバタするよりはいいと思うけど、なんだか忙しそうにしてたし、いいのかなとちょっと心配になった。けど、その人は構わないと頷くと、他の人たちにここを離れると声を掛けた。
「まずは着替えるか。支配人が君の寮服を用意してるみたいなんだ」
「え、でもエプロン持ってくるように、って言われたんですけど」
「そうなのか?」
 その人は不思議そうに首を傾げながらも着いてくるように言ってきた。なんでも、オクタヴィネル生以外のアルバイトがお着替えとかをするお部屋があるのだそうだ。
 どういうことだろう? アズールさん、昨日はエプロン持ってこいって言ってたのに。それに、よその寮の服って着ていいのかな? でも、ここの寮長さんであるアズールさんが着なさいって言うことは、着なきゃいけないんだよね。今日は言わた通り着ることにして、よその寮服を着ていいのかどうかは、後でリリアさんに確認しておこう。

 不思議に思いながら付いていくと、通されたのは狭いお部屋だった。小さな机と椅子が四脚にロッカー、それとハンガーラックが並んている。ハンガーラックにはオクタヴィネルの寮服らしいお洋服が一組掛けられていて、私の名前を書いたメモ用紙が貼り付けられていた。
 案内してくれた人は掛けられている寮服を手に取ると「あぁ」と小さく漏らした。
「やっぱりこれを着るみたいだな」
「はぁ、そうなんですねぇ」
「とりあえず着てもらっていいか? 制服と荷物はロッカーに入れてくれていいから」
「はい、わかりました」
 着方を聞きながらオクタヴィネルの寮服を受け取った。ディアソムニアほどじゃないけどベルトがごちゃごちゃしていて複雑そうだ。
「俺は外で待ってるから、何かあったら声をかけてくれ」
「はい。じゃあ、ちょっと失礼しますね」
 案内してくれた人は「一応、施錠もできるから」と言い残して部屋を出た。
「さてと」
 念のため、鍵を掛けて早速着替えた。鞄と脱いだ制服をロッカーに入れて、オクタヴィネルの寮服に袖を通す。……つもりなのに入らない。
「あ、あれぇ?」
 ズボンは入った。ディアソムニアのズボンとは違って、少しお尻がきついけど。
「えっと……
 けれど、シャツのボタンが留まらない。袖も丈もぴったりだ。なのに、ボタンだけが留まらない。どうしてかなんて、考えたくないけど想像がついた。
……太った?」
 口にして、少し悲しくなった。食堂のご飯もトレイさんのお菓子も美味しいんだもん。ついつい食べ過ぎちゃうのはしょうがないよね。なんて、言い訳してる場合じゃない。ここの寮服のシャツは襟がネクタイに合った形になってるから、制服のシャツで代用できそうにない。
 もう少し大きいのがないか聞いてみよう。「何かあったら声をかけてくれ」って言ってくれてたからいいよね。さすがにこんな格好で人前に出るわけにはいかないから、ひとまず制服のシャツを着ておこう。

「うわ! ちょ、やめ!!」

 ……着替えようとロッカーに手を伸ばした途端、部屋の外から短い悲鳴が上がった。ここまで案内してくれた人の声だ。何があったんだろ? 危ないかもだけど、親切にしてくれた人を見殺しにするわけにはいかないもんね。
 急いでシャツを着てドアを開けると、案内してくれた人と無表情のフロイドさんが絡まっていた。
 ……なんて言うんだっけ。ナントカ技っていう、他の子たちがふざけてやってる格闘技みたいなやつ。案内してくれた人はうめき声を上げて苦しそうにしてるのに、フロイドさんの表情は静かなものだ。剣呑な雰囲気にのまれて何も言えないでいると、私に気付いたのか、フロイドさんが顔を上げた。
「あー、メダカちゃんじゃん」
「!? キースリンクさん、戻って!」
「いや、うるせーし」
「いぎゃっ!?」
「フロイドさんこそ何してるんですか!」
「は? 見てわかんねーの?」
 怒ったようにフロイドさんが顔をしかめた。まずい、機嫌悪くさせちゃったかも。
 見て分からないのかとは言うけど、私にはフロイドさんがいじめているようにしか見えない。けど、それをそのまま言ったらフロイドさんの機嫌がさらに悪くなるのは想像に難くない。なんなら、私も同じようにナントカ技をかけられそうな気さえする。
……分からないです」
 逃げだと思いながらそう答えるとフロイドさんは「つまんねー」と吐き捨てるように言った。
「ちったぁ考えろよ。コイツがサボってるからさー、締めてんの」
「え、でも……
「メダカちゃんもさぁ、ここで働くんならサボろうとか考えんなよ。コイツみてーにぎゅーって締めちゃうから」
「ちょ、フロ……むぐぐ」
 首元を締めてるものだからとても苦しそうだ……なんて見てる場合じゃない。この人は私の面倒を見るためにここにいるのであって、決してサボってるわけじゃない。
「えと、フロイドさん。その人はサボりとかじゃないんです」
「は?」
 睨まれた。やっぱりフロイドさんは怖い。けど、怯んでる場合じゃない。怖いながらも私が早めに来てしまったこと、この人は私に仕事を教えようとしてくれたこと、私の着替えを待つためにここにいること、を話した。
「だから、サボりとかじゃないんです」
 話し終わるとフロイドさんはつまらなさそうに、それはそれは大きなため息をついて、案内してくれた人の手足を解いた。
「そーゆーことは先に言ってくんない?」
「す、すみません」
「えぅ……ごめんなさい」
 多分、この人も説明しようとしたんじゃないかな、でもフロイドさんは聞く耳を持たないで……というのがなんとなく想像できるだけあって、ちょっぴり解せない気持ち。それでも、誤解が解けてよかったと思うことにしておこう。
 二人で謝るとフロイドさんは「ふーん」と小さく漏らした。
「じゃー、オレがメダカちゃんに教えるわ。お前は持ち場に戻りな、開店遅れたらそれこそアズールがめんどくせーよ?」
「え、でも」
 正直フロイドさんは怖いから、できればこの人の方がいいんだけど。そう思って目を向けると、親切な人は私の声に被せるように「それじゃあ、お願いします」と足早に去って行った。去り際「キースリンクさん頑張ってね」と付け足して。
 なんとなく見捨てられたような気持ちで去って行った方を見つめていると、フロイドさんが私の肩をつついてきた。見ると、さっきまでとは打って変わってニコニコと楽しそうな笑顔だ。……これはこれで、怖い気がする。
「じゃ、そーゆーコトで。文句ないよねぇ?」
……はい」
 正直文句しかないけど、当然そんなことを言えるわけもないんだよね。機嫌を損ねてさっきみたいなことをされたらたまらないから素直に言う事を聞いておくことにした。
「で、メダカちゃん。そのおもしれーカッコはなぁに?」
「えと、私の寮服があったから着替えてたんです」
「は? メダカちゃんトコの寮服で仕事すんの?」
「いえ。ここのです、なんか私の名前がついてたので……
 そう言って、メモが付いた上着を見せるとフロイドさんは「ふーん」と頷いた。
「じゃあ、さっさと着替えて。なんなら、オレが着せてあげよっか?」
「一人でできます!」
 フロイドさんが言うと冗談に聞こえないから困る。そして着替え、でシャツのサイズが合っていないことを思い出した。気は進まないけど、ちゃんと言った方がいいよね。「しらねー」とか言われそうだけど。
……その、着替えなんですけど、用意してもらったシャツのサイズが合ってないみたいなんですけど、どうすればいいですか?」
「は?」
 ……案の定、フロイドさんはイヤそうに顔をしかめた。まぁ、面倒に思うよね。フロイドさん面倒ごとって嫌いみたいだし。やっぱり制服でお仕事すればいいかな。アズールさんに「契約違反です」とか言われそうだけど、サイズが合わないんじゃ着ようがないもんね。うんうん。
「えと、一応エプロンは持ってきたのでお仕事は出来ると思うんですけど……
「合わねーってなんで? アズールがそんなミスしねーと思うんだけど」
「丈とかは合ってたんですけど、その、ボタンを留められなくて……
 私がおデブなせいで、なんて恥ずかしくて言えるわけもなく、ささやかな見栄のために言葉を濁した。フロイドさんは私をじぃっと見ると「あぁ」と思い出したように声を上げた。
「メダカちゃんおっぱいあるもんねぇ」
「おっ!?」
 いきなり何を言い出すんだこの人は。確かに男の子よりはあるけど、それをはっきり言うのか。……と、瞬間思ったけどフロイドさんだもんなぁ、で、すぐ諦めがついた。とはいえ、はっきりそんなことを言われるのは恥ずかしい。かといって、それを指摘するのもまた恥ずかしいから私は黙ってることしかできないんだけど。
 なにが面白いのかフロイドさんはゲラゲラ笑いだしたけど、それがまた、腹立たしく思えてしまった。フロイドさんはひとしきり笑うと「ちょっと待ってねぇ」とどこかへ歩いて行った。

 待ってると、紫色のシャツを持って戻ってきた。代わりを持ってきてくれたのかな?
「とりあえず今日はこれ着て」
「はい、わかりました」
 フロイドさんからシャツを受け取って、改めて着替えることにした。一言断って小部屋に戻る。
「うわぁ……
 広げてみるとずいぶんと大きいシャツだった。これだけ大きければ間違いなく着られそうだけど、いくらなんでも大きすぎる。マレウスさんとかセベクくんなら着られそうだけど……と、思って気が付いた。これ、もしかしてフロイドさんのシャツ? 新品のようには見えないから、そうなのかも。だとすると、借りるのは抵抗があるかも。けど、返したらまたフロイドさんの機嫌が悪くなりそうだから大人しく着ることにした。なんでいちいちフロイドさんのご機嫌のことを考えなきゃいけないんだろう、なんて心の隅でぐちぐちしながら。
 着てみると、首回りはスカスカだし丈も余るけどボタンはちゃんと留められた。袖はもうどうしようもなく余ってるから捲るしかない。これだと上着は着れそうにないから後で聞くことにして、さっき教わった通りにベルトをする。うん、ベルトは多いけどディアソムニアのよりは苦しくないかな。ディアソムニアの寮服、胸をぎゅうぎゅうに締めつけるからちょっと苦しいんだよね。仕上げにネクタイ(ボウタイというらしい)を締めてお着替え終わりだ。制服のシャツをロッカーにしまってフロイドさんが待ってる廊下に出る。
「えと、おまたせしました」
「メダカちゃんブカブカじゃん。ウケんだけど」
 案の定、フロイドさんは私の姿を見ると面白そうに笑ってしまった。分かってるくせにこれだからあまり気分はよくない。けど、わざわざ貸してくれたんだから悪く思っちゃダメだよね。多分。言い返したいのを堪えて「おっきいですからね」と答えるだけにしておいた。
「えと、これだと上着を着れないんですけど、どうすればいいですか?」
「んー? ならキッチンに引っ込んでればよくね?」
「キッチン、ですか?」
「つっても、メダカちゃんがどんくらい料理できるか知らねーし、皿洗いとか盛り付けとか? そんくらいならできるっしょ?」
「あ、はい。でもいいんですか?」
「いいでしょ。ちゃんとサイズ確認しねーアズールが悪いんだし。それとも、文句あんの?」
「ありません!」
 めんどくさそうな色を浮かべ始めたフロイドさんに慌ててかぶりを振った。
「そ? じゃーあ、仕事教えっから、着いてきて」
「あ、はい。お願いします」
 怖いなぁ、とかご機嫌を損ねないようにしなきゃ。とかヒヤヒヤしながらやたらと足の速いフロイドさんの後を追いかけた。