いまち
2022-01-23 02:10:36
28972文字
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ティナの借金返済記(とちゅーかも

いただきネタその3。続きは書けたら書く(゜ω゜
8/28  6P~増えた。ついでに借金も増えた。



 フロイドさんについて行って、モストロ・ラウンジのキッチンに連れてきてもらった。そこでは既にお仕事をしてるのであろうオクタヴィネルの寮生や、他の寮のアルバイトかな? 制服にエプロンを付けた子たちが慌ただしくお仕事をしていた。
 そんな中、キッチンを見回してみると私が知ってるキッチンとはずいぶん違っていて、少し、驚いた。色んな機械に広い調理台、たくさんの調理器具……寮のキッチンよりもずっと広くて、なんだか緊張してしまう。
 そこで意外なほど――と言ったら失礼だけど、フロイドさんはきちんとお仕事を教えてくれた。食器の洗い方、仕舞う場所、盛り付けのコツ、簡単な調理器具の使い方、飲み物の作り方なんかのキッチンでのお仕事。
 それからホール? お店の方へ出て、注文の取り方や配膳のコツ、お会計用の機械の使い方まで教えてくれた。
 忘れないようにメモを取りながら話を聞いいると、いやに慌てた様子でアズールさんがやってきた。アズールさんは私とフロイドさんとを交互に見ると、訝しげにメガネをくいっと上げた。ちょっとカッコイイよね、メガネをくいって上げるの。
「キースリンクさん、その恰好はいかがされました? 貴女用のものは用意されてたでしょう?」
「えっと……
「アズールの用意したシャツじゃメダカちゃんのおっぱい入んねーからオレの貸したの」
「ちょ、フロイドさん!?」
 事実とはいえ、もうちょっと言葉を選んで欲しかった。アズールさんは大きなため息をついて「言葉を選びなさい」とフロイドさんを窘めるものの、当のフロイドさんは「ホントのコトだし」とつまらなさそうに唇を尖らせるだけだった。……いちいちこんなフロイドさんの相手をしなきゃいけないなんて、アズールさんも大変だね。
「お前は本当に……まぁいいでしょう。彼女のことは僕が預かります、お前は自分の仕事に戻りなさい」
「えー、オレ、メダカちゃんと遊んでる方がいーんだけど」
「よくない! ほら、さっさと戻れ!」
「ちぇー。じゃーねぇ、メダカちゃん」
「えと、はい。ありがとうございます」
 フロイドさんは「頑張ってねぇ」と手を振ってお店の方へ向かって行った。
 アズールさんはフロイドさんの後ろ姿を見送ると「それで」と私に厳しそうな目を向けてきた。ちょっと怖い。
「あいつに何を吹き込まれたんです?」
「えと、お仕事を教えてもらってました」
 顔をしかめるアズールさんに、フロイドさんから教わったことのメモを見せた。口ぶりからするに、フロイドさんのことはあまり信用とかしてないのかな?
 フロイドさんはあちこちで問題を起こしてる、なんて噂はよく聞くけど、代わりのシャツを用意してくれたり、お仕事を教えてくれたりした時は意外と……って言ったらすごく悪いけど、ちゃんとしてるような気がした。
 アズールさんはじっと私のメモを見ると、何故か呆れ顔でため息を吐いた。そんな顔されるような変なこと書いたかな? メモを見返そうとすると、アズールさんは「分かりました」と小さく頷いた。
「仕事内容はそこに書かれた通りで問題ありません」
「そうですか?」
「えぇ。ただ、貴女の恰好がそうですから、今日は裏方の仕事に就いていただきます。よろしいですね」
「あ、はい。それはフロイドさんにも言われたので、大丈夫です」
「よろしい。では、改めてキッチンへ、改めてご説明します」
「えと、はい」
 アズールさんとキッチンへ戻って、改めて今日私がやるべき仕事と仕事のやり方を教わった。説明はちょっと前にフロイドさんに聞いたのと変わらなかったから、いい復習になったかも。それから慣れてきたらお仕事を増やすこと、今日お仕事終わりにお話があることを聞いて、最後にカードって言うんだっけ? 手のひらくらいの厚手の紙を渡された。
 お着替え部屋やキッチンとは別に休憩室があるから、そこにある機械にこのカードを差し込むのだそうだ。それでお仕事始めと終わりの時間が記録される、らしい。休憩時間を書く欄もあるから、休憩するようなことがあったら、それも忘れず記入するよう言われた。……便利な仕組みだなぁ。
「今日は少々ごたついてしまったので、出勤時間は後で僕が記入します。退勤時だけ付けておいてください」
「えと、はい。わかりました」
「では、よろしくお願いしますね。お前たち、キースリンクさんを頼みましたよ」
 キッチンにいる人たちにそう言うと、アズールさんは足早にキッチンを出て行ってしまった。
「えぇと、よろしくお願いします」
 残された私はカードをポケットにしまって、早速お仕事にとりかかろうと、何をすればいいのか近くにいる人に声をかけた。

 お仕事は思った以上に忙しかった。おじいちゃんのお店よりずっと手は多いはずなのに、次から次へと仕事が舞い込んできた。お皿を洗って、飲み物を用意して、お皿を拭いて、サラダを盛り付けて、またお皿を洗って……一緒に働いている獣人の子曰く、今日はいつも以上に忙しいらしい。
「なにかあったんですか?」
「うっわ、元凶がそれ言っちゃう?」
「え? 私のせいなんですか?」
「あー……はいはい。ま、無駄口叩いてるヒマあったら、一枚でも多く皿洗ってね」
「え? えと、はい?」
 まるで意味が分からないけど、この忙しさは私のせいってこと? 獣人の子はそう言うけど、お皿を割っただけでお客さんが増えるというのは、いくらなんでも考えづらいと思った。
 ……そうは思いつつも、言われたことは気になった。でも、考えても考えても、お皿の弁償をすることとお客さんが増えることが繋がらない。
 もしかして、からかわれたのかな? なんとなく、もやもやしながらお仕事を続けているうちに結構な時間が経っていた。

「お疲れ様です、キースリンクさん。もう上がっていただいて結構ですよ」
 いつの間にかお仕事終わりの時間になっていたらしい。スパゲティが乗ったお皿を持ったジェイドさんが声をかけてくれた。
「えと、はい。じゃあ、これを拭いてからおしまいにしますね」
「いえ、残りは僕たちが片付けますので結構です」
「でもあと少しなので」
「結構です」
 ニコニコしてるけど、なんだか分からないけど有無を言わせないような圧を感じる。お仕事を半端なままにするのはすっきりしないけど、ジェイドさんがここまで言うのなら、言う事を聞いた方がいいのかも? ジェイドさんはここの副寮長さんだし、間違ったことは言わないはずだもんね。
「えと、そういうことなら……お疲れ様です」
「では、こちらへ」
 ついてこいってことなのかな? キッチンに残ってる人たちにもお疲れ様を言って、ジェイドさんの後を付いて行くと休憩用のお部屋だった。
「ではタイムカードを切ってください」
「切る? ですか?」
「おや、アズールから出退勤の処理について聞きませんでしたか?」
 そういえば、機械にカードを入れる? みたいなことを言ってたっけ。それを「切る」って言うのか。面白い言い回しだなぁ。ジェイドさんの言う通りに機械にカードを差し込んだ。
「えぇと、こうですか?」
 今の時間を印刷? されたカードをジェイドさんに見せると「問題ありません」とにっこり頷いてくれた。
「では、こちらはキースリンクさんのまかないです。食べ終わりましたら着替えて、VIPルームへ。アズールがお話があるそうでしたので」
「はい、分かりました。えと、お皿はどうすれば?」
「キッチンへお持ちください。くれぐれも、ご自身で洗おうとしないでくださいね」
 余計なをするなってことかな? お皿洗いは覚えたから自分で洗ってもいいんだけど、わざわざこんなことを言うってことは理由があるんだろうね。
 にこにこ笑いを浮かべるジェイドさんに頷いて、まかないのスパゲティを食べた。たっぷりのキノコがいいお出汁を出しているのか、味わい深いクリームソースのスパゲティだった。よっぽどイイキノコを使ってるのか、食堂のキノコ料理よりいい味がする。
 お皿の弁償のためにここにいるはずなのに、お給料を貰える上に、こんなにおいしいまかないまで食べさせてもらっていいのかな? なんとなく、悪い気がした。でも、だからこそ頑張らないとかも。気を引き締め直して、お皿をキッチンに戻して、昨日ぶりのVIPルームのドアを叩いた。

 中に通されると、昨日と変わらない高級そうな部屋で、アズールさんは書類仕事をしてるようだった。
「えと、忙しいですか?」
「問題ありません。それより、そこにまっすぐ立っていただけますか?」
「? こうですか?」
 言われた通り、気を付けをしてまっすぐ立つ。すると、アズールさんの机の方から巻き尺が飛び出してきて、私の体のあちこちに巻き付いてきた。
「うえぇ!? なんですか!」
「すぐ済みます、動かないでください」
「へ? えと、はい」
 むずがゆさを覚えながら立っていると巻き尺はアズールさんの机の上に戻った。私のあちこち測って、どうするつもりなんだろ?
「よろしい、では、お掛けください」
「はい……
 昨日と同じようにソファに座ると、アズールさんも昨日と同じように、向かいに座ってきた。昨日と違うのは机の上には契約書じゃなくて厚紙でできた箱が乗ってることなんだけど。
「少し話をしましょう」
 それから、アズールさんと今日のお仕事はどうだったか、とか、明日はホール? で接客もするから最初に決めた通り制服にエプロンを着けてお仕事するように、なんてことをお話した。それは最初に決めた通りだからいい。でも、なんで私の寮服を用意してたんだろ?
 不思議に思いつつも、余計なことを言うのも憚られるから黙ってアズールさんの話を聞いた。
……話は以上です」
「えと、はい。明日もよろしくお願いします」
「えぇ。……それと」
 コホン、と咳払いをしてアズールさんは机の上の箱を杖で指した。さっきから気になってたけど、この箱はなんなんだろ? アズールさんがお話とは関係のないものを出しっぱなしになんてしないと思うんだけど。
「ハーツラビュルのトレイさんから、貴女への差し入れだそうで。お持ちください」
「えっ、トレイさんがですか?」
 さしいれってことは、わざわざ持ってきてくれたのかな? それなら挨拶くらいはしたかったかも。でも、お仕事中だったし、お喋りなんてしてちゃダメだよね。今度会った時にお礼を言おう。
 トレイさんからってことは、やっぱり中身はお菓子かな? どんなお菓子なのかな? 食べるのが楽しみだなぁ、なんて思っていると、アズールさんがやれやれとかぶりを振った。いけない、お話の途中だった。
「えぇ。まったく、うちは食品の持ち込みはお断りしているのですが、困った方です」
「えぅ……ごめんなさい」
「今回に限り見逃しますが、次はありませんのでそのつもりで」
「えと、はい……
 そりゃあ、よく考えなくてもお料理屋さんに食べ物を持ってくるなんてダメだよね。私が悪いわけじゃ(たぶん)ないと思うけど。
 それから、お話は本当に終わりだと告げられて、帰るように促された。最後に「お邪魔しました」と告げてオクタヴィネルを後にした。
 早くお皿代を返すためにも、明日もお仕事頑張らないとだよね。そんなことを考えながら、オクタヴィネルの鏡から、隣のディアソムニアの鏡を通り抜ける。ずっと立っていたから足がじんわり熱い、お仕事終わりの達成感まじりの疲労感にちょっとした懐かしさを覚えて、ちょっとだけ元いた世界が恋しくなってしまった。