いまち
2022-01-23 02:10:36
28972文字
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ティナの借金返済記(とちゅーかも

いただきネタその3。続きは書けたら書く(゜ω゜
8/28  6P~増えた。ついでに借金も増えた。

 授業も終わり、寮に帰ろうかと鏡舎に向かう道すがら、たくさんの袋を持ったトレイさんが購買部から出てくるのが見えた。気になって声をかけると、お菓子の材料が安かったからついたくさん買い込んでしまったのだという。
「もう少し買いたかったんだが、さすがにこれ以上は持てなくてな」
 そう言って苦笑いしながら、トレイさんが見せてくれた袋の中には生クリームや卵のパックがぎゅうぎゅうに詰められていた。運ぶのを手伝ったら、もっとお買い物できるのかな? トレイさんにはよくお菓子をごちそうになってるし、お礼代わりになるかも。そう思ってお手伝いを申し出るも「重いから」と断られてしまった。
「重い物を運ぶのは慣れてます。その、いつもお菓子をごちそうしてもらってるので」
「しかし」
「私がお手伝いしたらもっとお買い物できますよ、手伝わせてくだい!」
 そうやって頼み込んで、ようやくトレイさんは「なら、お願いするよ」と荷物を任せてくれた。……親切の押し売りみたいになっちゃったかな? トレイさんはもう少し買ってくるからとお店に戻った。私は外で待っていることにした。お買い物もしないのに、お店に入るのも悪いもんね。
 いつももらってばかりだから、こうやってお礼ができるのは嬉しいなぁ、なんて考えながら待っていると、オクタヴィネルの寮服を着た子がいやに慌てた様子でお店に入った。あそこの人たちって寮でお店もやってるから、いつも忙しそうだよね。私もおじいちゃんのお店でお仕事してたからちょっと分かるかも、なんて思っていると、トレイさんが、たくさんの袋を抱えて出てきた。
「正直助かるよ。それじゃあ、ウチまで運んでもらえるか?」
「はい、任せてください!」
「無理はしなくていいからな」
 そう言ってトレイさんは笑いかけてくれた。これくらいなら全然平気だけどね。じゃあ寮に行きましょうと声をかけようとすると、さっきのオクタヴィネルの人が急いだ様子でお店から出てきた。背の高い箱を抱えていて、よく前が見えていないらしく、ちょっとふらついてる。私も卵を持ってるし、ぶつかったら危ないから脇に避けた――つもりが、向こうも同じことを考えたらしく、私たちは正面からぶつかってしまった。
「うえぇ!?」
「わっ!」
「キースリンク!?」
 私はどうにか堪えられたけれど、オクタヴィネルの子は思いっきり尻もちをついてしまった。持っていた箱も落ちて、瞬間ガシャン、と嫌な音がした。
「二人とも、大丈夫か?」
「えと、私は一応……卵もへーきです」
「ひっ!」
 小さな悲鳴を上げたオクタヴィネルの子の顔は真っ青だ。変なところでもぶつけたのかな? ……な、わけないよね。おのずと三人の目は落とされた箱に向かった。どう考えても、これのせいだよね。多分、モストロ・ラウンジで使う食器かなんか。派手に割れる音がしたから、ダメになっちゃったのかも。こうなったのも、やっぱり私のせいかな? まずは謝ってどうするかお話しを――
「おやおや、困りましたねぇ」
……アズール」
 トレイさんの顔が強張って、私とぶつかった子はいよいよ泣きそうな顔になった。どこからともなく現れたのはアズールさんと、リーチさんたち。「困った」というわりにはなんだかニコニコしていて、ちょっと怖い。ジェイドさんが素早く落ちた箱の中を見ると「割れたものが13枚、5枚は欠けてしまっています」とアズールさんに伝えた。
「18枚ですか……弱りましたねぇ」
「えー、どうすんのさー?」
「りょ、寮長! 申し訳ありません、オレがんぐっ」
 アズールさんに声をかけようとしたオクタヴィネルの子の口をジェイドさんが塞ぐ。「ちょっと静かにしていましょうね」と優しそうに言いながら。……顔は、全然優しそうじゃないけど。
「このお皿は特注の品で、取り寄せに時間もかかる上、とてもお高いんです。……ねぇ、キースリンクさん?」
「は、はい……
 ぶつかったのは私だし、やっぱり私のせいになるよね。やっぱり、直すとか、弁償するって話になるのかな。そうだよね、高いお皿らしいし。ちゃんと責任をとらないと。まずはリリアさんに相談して……と、考えてたらフロイドさんが私の肩を叩きながら、顔を覗き込んできた。すっごく怖い。
「ねぇメダカちゃんさ、弁償してくれるでしょ? もちろん誰かに出させるんじゃなくって、自分で働いた金でさぁ」
「えと、もち……
「待ってくれ!」
 アズールさんの話を受け入れようとすると、トレイさんが私とフロイドさんの間に入ってきた。三人とも、驚きながらも面白いものを見るような目を向けている。なんだか、とってもイヤな感じだ。
「そもそも俺がキースリンクに手伝いを頼んだからこうなったんだ、責任なら俺がとる」
「えー、でもウミガメくんがぶつかったワケじゃねーじゃん」
「そうですね、実際、彼とぶつかったのはキースリンクさんですし」
「ええ、トレイさんのお言葉には無理があるように存じます」
 焦りの色を浮かべるトレイさんに胸が痛んだ。そもそも、私が無理にお手伝いをするなんて言わなきゃ、こんなことにはならなかったんだよね。かばってくれるのはありがたいけど、やっぱりこうなったのは私のせいだ。
「えと、トレイさん。私は大丈夫です、ありがとうございます」
「しかし……
「ぶつかったのは私なので、ちゃんと責任とらないと、です」
 納得していないような顔だ。それでも、何か言いたいらしいトレイさんが口を開きかけると、それを遮るようにアズールさんがぽん、と手を鳴らした。
「お話が早くて助かります。では、弁済の話を。オクタヴィネルまでご足労願えますか?」
「あの、それはいいんですけど、これを運んでからでいいですか?」
 アズールさんは私の荷物を見ると、ジェイドさんに運ぶよう言いつけた。それにジェイドさんは頷くと、素早く私の手から買い物袋を取り「こちらは僕が責任持ってお運びします」と、にっこり笑ってみせた。
「よろしいですね、トレイさん」
……分かった。キースリンクがそう言うなら俺は何も言えないよ」
 そう言うと、トレイさんは大きく肩を落とした。私のせいでいらない心配をかけちゃったみたい。
 それから、アズールさんとフロイドさんに両脇を、私とぶつかった子を真後ろに。逃がさないぞ、という意思をひしひし感じながら、私たちは鏡舎へ向かった。
 フロイドさんは働いたお金で返せって言ってたけど、やっぱりモストロ・ラウンジでお仕事しなさいってことなのかな? ちゃんとできるといいなぁ、なんて思いながら、私はアズールさんたちに促されるまま、オクタヴィネルへ続く鏡に飛び込んだ。