トリミング その他いろいろ編7

twitterにアップしていた極短編まとめです。乙普、楊普、玉普、望乙、玉雲、紫陽洞、楊戩と太公望ほか。お題をいただいたものやワンドロに参加したものなど。腐向けもあります。

「今回が最後だって言ったよね」


【太公望と雲中子】文字書きワードパレットより0:00/ややこしい 本音 三日月
「眠れない」
そういって太公望が訪ねてきた。
夜中にもかかわらず、ずかずかと部屋に上がり込み、雲中子が声をかける間もなく長椅子に横になる。
「薬をくれ」
「薬」
「ぐっすり眠れてすっきり目覚められるやつだ」
夢も見ぬほどにな。そう付け加えてから目を閉じた。
「そんな都合のいいものはないよ」と答えてみたが、口をへの字に曲げたまま、むっすりと黙り込んでいる。どうやらこれ以上話す気はなさそうだ。ため息をひとつついて、雲中子は棚の薬瓶に手を伸ばした。
この道士はいつも修行をさぼってばかりで、たまに師に雷を落とされては叱責の目をかいくぐってこの洞府にやってくる。
「ここは隠れる場所が多いからのう」と得意げに笑う顔は、秘密基地を見つけた子供のそれで、都合よく使われることにいい気はしなかったものの、まあ私には関係のないことと割り切って、黙っておいてやることにした。ややこしいが、自分の仕事に支障がなければそこに誰かいようがいまいが問題ない。目に余るようなら実験台にでもなってもらえばいい。
いくつかの薬を選び、慎重に調合しながら考える。
普段弱音などひとことも吐かず、飄々とかわしているけれど、これまで幾度もかくれんぼの片棒を担いできた雲中子には、隠しきれない本音が透けて見える。三日月の、光が当たっていない部分に目を凝らすようだ。話す気がないものを、わざわざ聞いてやる義理はないが、苛立ちや迷い、そんなものがあるならここに置いていっても構わない。隠す場所ならいくらでもあるのだから。
部屋に戻ってみると、長椅子から小さな寝息が聞こえてきた。そっと覗きこみ、その寝顔にふと笑みがこぼれる。
ここでこんなに無防備に眠れるなんて、他の仙人が聞いたら驚くんじゃなかろうか。
「太公望、」
軽く肩をゆすると、彼は呻きながらうっすら瞼を上げた。
「寝ているじゃないか」
……せっかく眠っておったのに起こすでないよ……
さも迷惑そうに眉を寄せる人に、「抜群に効くのを作ったんだ。試してくれ」とそれを手渡す。
「ちゃんと甘くしておいたよ」
彼が飲み干すのと、意識を失うのはほぼ同時だった。そこそこ効果はあったのだ。偽薬もたまには使えるなと、雲中子はメモに書き記した。