トリミング その他いろいろ編7

twitterにアップしていた極短編まとめです。乙普、楊普、玉普、望乙、玉雲、紫陽洞、楊戩と太公望ほか。お題をいただいたものやワンドロに参加したものなど。腐向けもあります。

「今回が最後だって言ったよね」


【玉鼎、雲中子、楊戩】文字書きワードパレットより、光を掲げて/奇跡、蜘蛛の糸、好機
踏みしめた地面の深いところから、地響きが伝わってくる。
この山の動力部はかなり古いはずで、さしずめそれは古老が固い膝を無理やり軋ませ、唸りを上げて身を起こしているようだった。
薬液に浮かんで眠る道士はまだ意識が戻らない。痛々しい傷と目を引く身体的特徴、そして蜘蛛の糸で描いたような文様ををちらりと一瞥して、雲中子はぼそりと呟いた。
「だから私は反対したんだ」
最初に会ったときはまだ幼児だった。玉鼎の腕の中でおどおどと、しかし好奇心いっぱいの目で見上げてくるので、わざと鼻先までずいと近寄ってみせた。
「やあ。きみ、名前は?」
とたん玉鼎の胸に顔をうずめ、ぎゅっとしがみつく。
「怖がっているじゃないか」と玉鼎は非難がましい声を上げたが、名前を聞いただけだ。
「まだ慣れていないんだ。驚かせるな——楊戩、大丈夫だ」
雲中子はやれやれとため息をついた。
「いったいぜんたい、どういう経緯でこんなことに?」
「元始天尊さまに頼まれてね。弟子にどうかと」
「頼まれて……
眩暈がした。まだ弟子とかそういう年では全然ないではないか。眉を寄せる雲中子とは対照的に、よしよしと子供のまるい背中を宥める様は、いつもの剣豪のそれではなく、子育てに奮闘する親だ。
「感心しないね。私は反対だ」
やや厳しめの口調で雲中子は言った。
「弟子を育てるのとはわけがちがう。わかっているんだろう? その子は——
「もちろんだ。弟子であれば、夜の闇が怖くて眠れないときに添い寝したりはしないだろうから」
「そういうことじゃなくって」
「私にとっても好機だと思っているよ」
「好機……
「子供の髪がこんなに美しいことも、子供がこんなに泣くことも知らなかった。きっとこの子は私に新しい世界を教えてくれる。だから私もこの子に、世界の美しさを教えてあげようと思う——わかるかい、雲中子」
そういっていかにも愛おしそうに目を細める。
「私はこの子の時間とともにありたいんだよ」
確信めいたその言葉に、彼がもうなにを聞くつもりも、手放すつもりもないことを知った。きっと師に頼まれたからというのはきっかけにすぎなくて、それ以上に、剣一筋みたいな堅物をとりこにしてしまうほどの引力がこの子にはあるのだ。
雲中子は喉まで出かかった問いを飲み込んだ。
(いつかきみ自身が、この子の乗り越えなければならない壁にならないとも限らないのに?)
「さて」
感傷にひたっている暇はない。己の両頬をぱちんと手で叩いてから、不気味な花柄をまじまじと見た。この体に巣食っているものの正体はだいたい目星がついている。ダニがいるといっていたから、そいつの仕業だ、そしてそれを放った者の。やっかいだが解決策はある。ここまでダメージを受けていながら死んでいないのは奇跡としかいいようがないが、
(いや……奇跡じゃないな)
一緒に引き受けたものを考えれば、いつか大きな困難が降りかかることくらい、玉鼎も想定していたはず。だからそれに耐えていけるよう導いたのだ、明るくゆるぎない光を掲げて、愛情と信頼で、この世界を迷いなく駆けていけるように。
……大きくなったな」
一瞬だけ祈る仕草をしてから、雲中子は考えつく限りの治療法を書き連ねていく。