トリミング その他いろいろ編7

twitterにアップしていた極短編まとめです。乙普、楊普、玉普、望乙、玉雲、紫陽洞、楊戩と太公望ほか。お題をいただいたものやワンドロに参加したものなど。腐向けもあります。

「今回が最後だって言ったよね」


【道徳と天化、太乙】文字書きワードパレットより、朔/独占欲、夜の酒、鑑賞
砂の上に、その人は影を落とさず立っていた。
普段、修行に使う広場の両脇には小さな灯りが一本ずつ置かれているだけで、隣の人の表情もわからないほど暗い。それなのに、まるでしらじらと光を放つように見えるのは、そういう砂を敷いているかららしい。
朔の闇に浮かび上がる真白な装束をまとった人は、両手に二本の剣を携え、微動だにせず前を見据えている。そしてそれを、数多の人が固唾をのんで見守っている。
どこかでカンと鳴り響いた。金属を打つ冷たい音がはじまりの合図だった。

今夜は月の出を待つ節目の祭だと聞いた。
「きみもおいでよ」と誘ったのは師の同僚で、道徳自身は「夜の酒の席に子供を同席させるな」と眉をひそめたが「めったにないんだから」と半ば強引に連れ出されたのだった。
もうすでに大勢の人が集まっていて、あちこちで酒を酌み交わす姿が見える。
「コーチは?」
やや不安になって訊ねると「いま準備中だ」とその人は片目を瞑って見せる。
「きっと驚くと思うよ」
よくわからないが、師がなにかをするからそれを鑑賞しろということらしい。酒ではないからと渡された小さな盃には甘い飲み物が入っていて、ちびちびとそれを舐めながら所在なげに待っていたとき、ふとあたりが暗くなった。
「ほら、」
促されて前を向き、目をみはった。師が真白な衣で立っている。手には見たこともないすらりと長い剣。カン、カン、と打ち鳴らされる鐘の音に合わせて、その人は動きはじめる。剣を振るい、振り下ろし、両足を踏みしめ、ときに跳ねる。蹴られた白い砂が月のない空に星を撒くように散らされる。猛々しく、勇壮で、余分な飾りなどないのに見る者を惹きつける。なにより天化が見入ったのは師の表情だった。格式ばった儀式様の設えなのに(実際、それは神に祈りを捧げるためのものだ)、どこか遊びを楽しむような、見えない神を相手に、腕ならしをしているような。
あんな顔、はじめて見た。
「すごいだろう」
言葉もなく見つめる天化に、太乙は耳打ちした。
「紫陽洞に伝わる剣舞だって。あれを見たくてみんな集まるんだ。道徳なりのアドリブもあると思うけど、きみもそのうち教えてもらうんじゃないかな」
あれを継ぐのか——じゃあまた見られるんだ。こんなに大勢の前じゃなくて、自分だけのために。できるだろうかという戸惑いより、そんな独占欲が勝った。
それはきっとすべてを捧げられる神々よりも、贅沢にちがいない。
ダン、と踏み鳴らされて一切の音が止んだ。
拍手がさざ波のように広がっていく。その真ん中で、肩で息をするその人が、ちょっと照れたようにこちらを見て笑った。