トリミング その他いろいろ編7

twitterにアップしていた極短編まとめです。乙普、楊普、玉普、望乙、玉雲、紫陽洞、楊戩と太公望ほか。お題をいただいたものやワンドロに参加したものなど。腐向けもあります。

「今回が最後だって言ったよね」

【乙普】 記憶の深淵
さわやかな秋晴れだった。窓からの風が頬を撫でて心地よく、窓の外には白い雲がゆったりと青空をわたっていく。
「おい、普賢!のんびりしている暇はないぞ!」
道徳の焦ったような声がして、普賢はふとわれに返る。見れば自分以外の仙人はあわただしく部屋を行ったり来たり、出たり入ったりしている。そうか、と背筋を伸ばし、手渡された帯をくるりと胴に巻いた。光沢のある滑らかな衣が重く、肌に冷たい。ええと、ここで左側に輪を作って上から通して……
「ああもう! 不器用だなあ!」
帯ひとつ結ぶのにももたもたしていると、しびれを切らした太乙が横から手を出した。ぶかっこうに結びかけたそれをほどき、みぞおちにきゅっと巻き直す。さっきよりもしゃんと気持ちが引き締まる。もしかしたら重くて動きにくい正装って、こうやって気持ちを切り替えるために着るのかもしれない。
晴れて宝貝をもらうことになった。手の空いた時間にでも取りに行けばいいと思っていた普賢に、十二仙たちは呆れて顔を見合わせたものだった。
「一応、こういうことは正式な儀式を設けるものだ」
幼子を諭すように玉鼎がいう。
「正装して、元始天尊さまと私たちが授ける形になる。お前もちゃんとそれに従うように」
装束をどうするか、日をいつにするか、その場で話し合いをはじめた十二仙たちに、よもや「堅苦しいことはけっこうです」などと言えるわけもなく、命じられるまま採寸され、この日を迎えたのだった。
さっき普賢が何度やってもうまくいかなかったのに、太乙の手にかかればまたたくまに折り目正しく結ばれて、思わず「すごい」と呟いた。
「感心している場合じゃないよ。これからこういう機会が増えるんだから、自分でできるようになっておかないと」
ぶつぶつと文句を言いながら、結び目をただしく整える。面倒見がいい人だなあと思う反面、やはりどうがんばってもここまでできるようになるとは思えないから、これからもやってもらおうと、普賢は心に決めた。
「そういえば、太乙さま」
器用に帯に飾りをさしていく太乙に、ふと普賢は訊ねた。
「以前、太乙さまみたいに、とても器用な仙人さまがいらっしゃいませんでしたか?」
「なにそれ」
手を止めないまま、太乙は首を傾げる。
「お世話になったことがあって」
まだ仙人界に来て間もない頃だ。右も左もわからない普賢に、つきっきりで世話を焼いてくれた。残念ながら顔も名前も覚えていないが、記憶の奥深くにわずかに残る面影はとても美しい。威厳があって、とても背が高くて、指が長くて、手先が器用だった。
「書簡の紐はこう。こうしておけばしっかり留まるし、見た目もきれいだし、ここの二本を引っ張れば簡単にほどける。覚えておきなさい」
そういって見せてくれた結び目が、まるで雪の結晶のようにきれいで、そのとき覚えた結びかたを、普賢はいまも律儀に守っている。
「だれかと勘違いしてるんじゃない? そんな仙人いないよ?」
太乙はため息まじりにいった。
「もう一人いたという十二仙のかたは」
「燃燈ね。威厳はあったけど、別に手先は器用じゃなかったし、きみがここに来たときにはとっくにいなかった」
ややがっかりして、普賢は「そうですか」と肩を落とした。
あの頃は毎日覚えることがいっぱいで、仙人になるなんて、ましてや宝貝をもらえるようになるなんて、まだまだ遠く手が届かない望みだと思っていた。あのとき気にかけてもらったから成長できたと、気づいたのは最近のことだ。もしまた会えるなら伝えたかった。
あれからとてもがんばったし、これからもまだまだ頑張ります、と。
最後の花飾りをさし、肩の飾り紐を前で結んでしまってから、太乙は「よし」と普賢の背を叩いた。
「ぎりぎり間に合った。さあ、元始天尊さまがお待ちだ」
ありがとうございます、と頭を下げかけて、ふと肩の飾り紐を見た。
美しく結ばれた、雪の結晶のような——
「太乙さま、あの……
「ほら、遅れるよ!」
笑顔でかるく背を押された。いまかいまかと支度を待っていた十二仙たちも、目で先を促す。ちいさく頷いてから、普賢は壇上へ足を踏み出した。