Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
ろく
Public
TOV/カプなし文
Clear cache
【ダミュ+ユリ】騎士と少年
下町で出会った若い騎士と少年の話。
※虚空準拠
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
8.
だみゅろん・わとわいす せんせい さま
げんきになつたか
けががなおつたらしたまちにこいよ
ゆーり・ろーうぇる
「随分上手になりましたねぇ」
ソムラスが喜んでいる。ダミュロンは、「まあまあ、まだまだってとこかね」と葉書をひらひらさせている。それを見とがめたゲアモンが「またそうやってお前は素直じゃないんだから云々かんぬん」とやいやい言っている。
既にお決まりとなったその光景に、ダミュロンは眉尻を下げた。あの日以降、降り続いていた雨が嘘のようにあがり、今は汗ばむほどの陽気が官舎の窓から降り注いでいた。返事返事、と急かすソムラスにダミュロンは、慣れた手つきで葉書を選ぶ。今日の葉書はミルクココアの柄にしてやろう。
怪我が治ったら下町に、と書いてあるが、自分よりむしろ重傷だったのはユーリ少年の方ではなかったか。ダミュロンはそう手紙に記そうとしたが、やめた。どうせ明日には下町に顔を出せそうなのだ。その時に怪我人たちの様子も見てくればいい。
ダミュロンが、手紙に何を書いたものか悩んでいると、ソムラスがテーブルに寄ってきた。いつになく寂しそうなその表情に、彼が何を言わんとしているか、ダミュロンは手に取るように分かってしまった。
ダミュロンはまず、ヴィリオの店に立ち寄った。可愛らしいイラストはその後もバリエーションを増し、今や露店街の一シンボルとなりつつあった。それを真似したイラスト入り看板も、他の露店へ徐々に広がりつつある。下町のためというより、人目の引きやすさによる集客狙いのものだろうが、目的はどうあれ、ダミュロンは何となく、胸がすっとする思いだった。
「ダミュロン先生!」
「誰が先生だっつの」
ヴィリオが片手を挙げると、ダミュロンは苦笑いを浮かべながら、リンゴやらオレンジやらの果物を注文した。
「で? 俺は騎士団やめなくて済みそう?」
ダミュロンが袋を受け取りながら尋ねると、ヴィリオは「そりゃあ、もう」と頷いた。
「いやね、むしろ下町の小僧たちが、うちの店まで買いに来てくれるようになってね。それを店先でうまそうに頬張るもんだから、まあ」
その光景を思い浮かべて、ダミュロンは頬が緩んだ。それはさぞやおいしそうに見えたことだろう。何せ、自分で看板を読んで、自分でお金を出して、自分の力で買ったものだ。普段「下町のガキが触るものなんか」と敬遠するような人々も、店の前で生唾を飲んだに違いあるまい。
ダミュロンは両手いっぱいの袋を掲げて、「ありがとな」とヴィリオに別れを告げた。
ダミュロンが下町を訪ねると、あれよあれよと人が集まってあっという間にもみくちゃにされた。先生ありがとう、ユーリを助けてくれてありがとう、キャナリさんたちにもよろしく頼む、あんたたちは下町の恩人だよ、その他諸々。気持ちはありがたいが、両手に袋を抱えたダミュロンは堪ったものではない。
「ちょっと、タイム、タイム」
ダミュロンがやっとのことで
水道魔導器
アクエブラスティア
に腰かけると、ハンクスまでもがやってきて、「本当にありがとう」ときたもんだ。途端に居た堪れなくなって、ダミュロンは「あ、うん、はは、どうも」とその手を握り返した。ダミュロンはまだお礼というものになかなか慣れずにいる。しかしながら、下町の人たちが惜しみなく与えてくれる温かいものを、ダミュロンはひとつ残らず大切にしたいと思っている。
ようやく人がまばらになったところで、ダミュロン先生の識字講座が始まった。あんなことがあった後でも、子どもたちは目を輝かせて文字を学ぶ。それが嬉しくもあり、同時に寂しくもあった。明日から暫く、自分が下町に来られなくなると知ったら、この子たちは何と言うだろうか。
ふと、子どもたちの中に、見知った少年の姿がないことにダミュロンは気付いた。
「ユーリはどうした?」
近くで数字を地面に練習していたヒューゴに尋ねると、「部屋にいるよ。まだゼッタイアンセーなんだって」と教えてくれた。そういえば、足を折っていると言っていたっけ。
ダミュロンは教室の最後、いつもの挨拶の代わりに、わざとそれらしい咳ばらいをしてみせてから「えー、重大ニュースです」と子どもたちに告げた。
「ダミュロン先生は、明日から長い遠征に行くんだ。だから暫く、下町には来られない」
ええっ、と驚く子もいれば、えんせいって何? と近くの年長者に尋ねている子もいる。共通しているのは、皆がその言葉の意味を理解するにつれて、徐々に目元を潤ませていることだった。おいおい。
「いや、ちょっと待てって。泣くことないだろ。永遠に来ないわけじゃなくて、ちょっと長い間留守にするってだけだよ」
ダミュロンが慌てて弁明すると、既に半泣きのティラが「ほんとに?」と首をこてんと傾げた。
「ほんとほんと。だからそれまでしっかり勉強して、帰ってきた俺をあっと驚かしてくれよ。それが宿題」
子どもたちは、目をごしごしとこすりながら「わかった」「絶対帰ってきてよね」と口々に言って、ダミュロンに抱きついた。子どもの『ちょっと長い間』ってのは、ほとんど永遠に近いんだなぁ。ダミュロンはしみじみと感傷に浸りながら、「大丈夫大丈夫」と頭をぽんぽん撫でてまわった。最後に「というわけで、これはお土産」とヴィリオの店の果物を配る段になると、歓声とともに涙もいっぺんに引っ込むのだから、子どもってのは単純だ。
子どもらへの挨拶を済ませたダミュロンは、例の水路を訪れた。果たして目当ての少年は、松葉杖をほっぽり出したまま、もうすっかり乾いた土の上に座り込んでダミュロンを待っていた。両足を折っているくせにこの少年は無茶をする。ダミュロンは苦笑交じりでその隣に並んで座り、「はいよ」とリンゴを手渡した。
「いらね」
「おいおい、俺の自腹だぜこれ。人の好意は受け取っとけって」
「リンゴきらいなんだよ」
「嘘つけ。女将さんのアップルパイ、美味そうに頬張ってたくせに」
ダミュロンがユーリの左手にリンゴを握らせると、ユーリはそのリンゴをじっと見つめて、口を開けたり閉じたりした。こういう時のユーリは、何か言いにくいことを言おうとしている。ダミュロンは、根気強くユーリの言葉を待った。
「これ」
ユーリが左手に目線を落としたまま、ぽつりとつぶやいた。これ、というのは、リンゴのことだろうか。
「これ、受け取ったら
……
あんたは来なくなるんだろうが」
ダミュロンは息を飲んだ。さっきの『挨拶』を、ユーリも聞いていたに違いなかった。ダミュロンは、努めていつものように笑いながら、ユーリの頭に手を置いて、「泣くなよ、少年」と言った。当然、「泣いてねぇし」とそっぽを向かれた。
「さっきの聞いてたんなら、わかるだろ。ちょっと留守にするだけだっての」
「
…………
『戦争』だろ?」
もう
下町
ここ
まで話が届いているのか。ダミュロンは、そっと頷いて応えた。この少年に嘘はつきたくなかった。
「
……
そ。なんかね、人手が足りないとかで、海の向こうの大陸までいかなきゃならなくなった。だから、帰ってくるのに時間がかかるんだよ。でも、それだけだ。帰ってきたらまた
――
」
「帰って、くるのかよ」
ユーリは俯いている。じっと左手のリンゴを見つめたまま、ダミュロンの顔を見ようとしない。その声がほんの少しだけ震えているように感じたのは、気のせいだろうか。
「本当に、帰ってくるのかよ」
喪失への不安。手を伸ばす不安。我儘を言っていいものかと、おずおずと伸ばされる手。
ダミュロンは、俯くユーリの頬っぺたを両手でぐに、とつまんで、顔を上げさせた。いてぇな、という抗議が聞こえて、ダミュロンは安心した。生意気な少年はこうでなくちゃいけない。
「帰ってくるって」
ダミュロンは、頬っぺたをぐにぐにとさせたまま、ユーリの額に己の額をこつんと触れさせて、言った。
「すぐ帰ってくるさ。だから、それまでに怪我治して、元気に待っとけよ」
ダミュロンは、今自分にできるありったけの笑顔でユーリに応えてみせた。ユーリは、その瞳の奥の方までじっと覗き込んで、ぽつりと一言、絶対だぞ、と呟いた。
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内