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ろく
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TOV/カプなし文
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【ダミュ+ユリ】騎士と少年
下町で出会った若い騎士と少年の話。
※虚空準拠
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ダミュロンの前に人だかりができている。と言っても、半分以上がダミュロンより頭二つ分も三つ分も小さい連中なので、見通しは良かった。それにしても想像以上に集まってしまった。ダミュロンは背中を冷汗が伝うのを頭のどこか冷静な部分で感じていた。
数日前。ユーリと一旦別れてキャナリ小隊の官舎に戻ると、既に若木色の騎士の一件が噂になっていたらしく、「お前もなかなかやるな」「目を離すとすぐこれだ」「無事か怪我はないか怪我は」ともみくちゃになった。呆れと冷やかし、それ以上の安堵と称賛。ダミュロンはもみくちゃになりながらも、仲間の温かい心配を苦笑いと共に受け入れた。ともかく、自分も、そしてあのユーリ少年も、仲良く処分を免れたということが分かっただけでダミュロンとしては僥倖であった。
もみくちゃの外から「ダミュロンを休ませてあげなさい」と手を叩いてくれたのは、我らが小隊長殿であった。キャナリ小隊長は、ダミュロンがようやく二人掛けのソファに腰かけて一息ついたのを見計らって、まるで風のようにその隣に素早く陣取った。このソファそんなに広くないんですけど、とダミュロンが言うが速いか、キャナリは目を輝かせてダミュロンに尋ねた。
「あの子ね?」
はい、そうです。
ダミュロンは知っている。キャナリが、あのユーリという少年に一目置いていることを。
「やり方はちょっと荒っぽいけど、きっと本物の騎士の心をもっているわ。将来、うちの隊に引き抜けないかしら」
はい、それも何度も聞きました。
「それはユーリが決めることですから」
「ダミュロン、あなた」
何か咎められるかと首を軽く竦めてみせたが、キャナリはどちらかというと嬉しそうに
「あの子をそんな気やすく呼べる仲になっているなんて、いつの間に」
と言った。なぜかは分からないが随分と嬉しそうなので、いや、向こうはこっちの名前を恐らく知りませんけどね、とは言わないでおいた。
既に噂として広まっている(であろう)箇所も含め、ダミュロンはキャナリにその日一日のあらましを報告した。「そういうわけで、自分が騎士をやめるかどうかはあのユーリ少年に懸かっているわけです。すみません」とダミュロンが頭を下げると、「どうして謝るの」とキャナリが笑った。
「あなたはあなたの信念に基づいて行動したわ。そしてあの子を信頼した。その信頼にあの子も応えようとしてる。それが全てじゃない。胸を張りなさい」
キャナリが胸を張れというなら、自分は胸を張ることができる。自分がキャナリ小隊で良かったと思うのはこういう瞬間だ、とダミュロンは密かに思った。
「それで? 何か考えているんでしょう」
キャナリが見透かしたように言うので、ダミュロンは
「うん、まあ、一応」
とはっきりしない応えを返した。
「様になってるな。ダミュロンせんせ」
ヴィリオが店の奥から声をかけてくる。まだ開店前の店が目立つ市場は閑散としていて、ヴィリオの果物露店も準備中といった所だ。ダミュロンはその店のすぐ前に木箱を配置し、そこに腰かけている。
「先生って柄かよ、俺が。成り行きだ成り行き」
あの日、ダミュロンはキャナリに打診した。「子どもたちに文字を教えてやれないだろうか」と。
キャナリは、二つ返事で了承した。見栄えや体裁を整えるだけでは下町の現状は変えられない。キャナリ小隊ならそれが分かってくれる連中ばかりだ。ダミュロンは、その予感が的中したことを少なからず喜んだ。そして早速、「で、キャナリかヒスームあたりが適任だと思」と口にした矢先、キャナリがサイドテーブルをぱつんと叩いて立ち上がったのだ。
「何言ってるの! あなたがやらなくてどうするのよ、ダミュロン」
どうするもこうするも。ダミュロンは酸欠の金魚のように口をぱくぱくさせて、いや、とかしかし、とか反撃を試みた。そして十秒後に敗北を認め「
……
騎士の名に懸けて」と敬礼した。あなたがやらなくてどうするの、とキャナリに言われて、やらなかった騎士はいない。自分があの少年を信じたように、この小隊長も自分を信じているのだ。
「
……
えーと」
ダミュロンが口を開くと、目の前に集まっていた子どもたちが一様に口を噤んだ。ダミュロンはたじろぐ。何が『躾がなってない』だ。動揺を悟らせないために何度か咳ばらいをしていると、最前列の端に陣取っていたユーリが
「緊張してんなよ、騎士せんせ」
等と宣うものだから、子どもたちの間から笑いが起きた。やんちゃ坊主はこれだから。しかし、幾分か緊張が和らいだダミュロンは、ユーリに目配せをしてみせたのちに口を開いた。
「字が読めるっていうのはさ」
笑いのさざめきが、また徐々に引いていった。
「受け入れてもらう、ってことだと思う」
ダミュロンの第一声に、最前列ど真ん中の小さなおさげ髪さんが首を傾げた。ちょっと難しいかもしれない。
「例えばさ。自分の名前が読める。書ける。これだけで、ああ、この世界に自分の名前が受け入れてもらえた、って思うんじゃないかな」
何人かが頷いたので、ダミュロンは安心した。
「店先で、これが何円だとか、これは何に使うだとかが分かると、店の人に『買っていいよ』って、認めてもらえたような気持ちになる」
今度は、おさげ髪の子も小さく頷いてくれた。良かった。
「君たちはこれまで、文字を読めなくて、大変な苦労をしてきたと思う。この世界に、色んな店や色んな場所に、受け入れてもらえないって、寂しい思いをしてきたと思う。俺は、君たちを丸ごと受け入れられるような、認められるような世の中を作るのが騎士の仕事だと思っててさ。だから俺は、」
その時、ヴィリオの開店準備が整った。山と積まれた果物の前に、タントンタン、と軽快に看板が置かれていく。その看板を見て、「あっ、」と呟いた者がいた。髪の長い少女。ティラだろうか。
看板には、色鮮やかな絵が描かれていた。『リンゴ 一つ四十ガルド』という文字の下に、リンゴの絵と、十ガルド銭が四枚。他の看板にも、オレンジ、ハクサイ、トマト等々、ありとあらゆる食材の絵と、値段に合うようにガルド銭が描かれている。
「カミさんが腕振るっちまってね」
ヴィリオが胸を張っている。その横で「褒めても何も出ませんよ」とはにかんでいるのが恐らく女将さんだろう。筆達者な女将さんにダミュロンは笑みで礼を伝えた。子どもたちは、その絵を食い入るように見つめている。おさげ髪さんの小さな指が、看板を指で辿って、「り、ん、ご?」と読んでいる。
ダミュロンは、ユーリのあんぐりあいた口を見て、笑いたくなるのをぐっと堪えた。ユーリ少年を驚かせるのが、最近のダミュロンの楽しみになりつつあった。ダミュロンは、朝の市場に漂い始めた喧騒まじりの空気を胸にいっぱい吸い込んで、ざわめく子どもたちに微笑みかけた。
「だから俺は、君たちに、文字を教えたいと思って来ました」
そういうわけで、よろしくオネガイシマス。ダミュロンが頭を下げると、どこからともなく拍手が湧いた。いや、先生がよろしくお願いしますは可笑しいだろ。そして拍手をもらうのも可笑しいだろ。可笑しいことだらけだったので、ダミュロンはとうとう我慢できずに笑ってしまった。
「さあて、初日からビシバシいきますかね」
気合十分で顔を上げたダミュロンを、ユーリが「はりきりすぎてから回るなよ、ダミュロンせんせ」と揶揄った。ダミュロンは、ほんの少し目を瞠ったのちに、キャナリごめん、俺の名前覚えられてたわ、と小隊長に心中で訂正した。胸の内をじんわり温める優越感は大目に見て欲しいと願いながら。
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