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ろく
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TOV/カプなし文
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【ダミュ+ユリ】騎士と少年
下町で出会った若い騎士と少年の話。
※虚空準拠
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「ゆ、う、り」
「それじゃ『ゆり』だよ。ここに、こう」
「じゃあ、この字もこうか」
「惜しい。それだと『ろーうえる』だな」
難しい。ユーリ少年がそうぼやいて大の字になると、ダミュロンは「ほれ、頑張れ頑張れ」と頬をつついた。ユーリは、水路沿いの冷たい土の上でぶすむくれてはいるが、ダミュロンを拒絶することはしない。この程度の子ども扱いは受け入れてもらえるようになったようだ。ダミュロンはそっと頬を緩ませた。
下町での『ダミュロンせんせい』がそこそこ名を上げ始めて、子どもたちだけでなく大人たちからも声がかかることが増えた。「勘定が合わない」「言葉の意味がわからない」といういかにも『生徒』らしい質問から、「看板を作りたいから文字の下書きをしてほしい」「時計が壊れたから修理してほしい」という何でも屋への依頼のようなものまで、その相談内容は多岐にわたった。ある時「何を書いてあるのかわからないが、サインを促されて書いてしまった」というトンデモな相談事に目を回したダミュロンは、直ちに住民たちに「読めない書類にサインはしない」という大原則を伝え徹底させた。
ダミュロンは、木の枝をもう一度拾い上げて、土の上にざりざりと文字を書いてみせた。『ユーリ・ローウェル』と書かれたそれを、半身を起こしてじっと見つめていたユーリは、「うし」と気合の一声で再度枝を手に取った。
ユーリは優秀な生徒だった。特別覚えが速いという意味ではなく、学びへの意欲と向上心が他の子どもたちから抜きんでていた。皆で集まっての識字講座が終わり、皆が休憩だ軽食だ仕事だと散らばっていったあとも、ユーリはこうして残って勉強を続けている。場所を移し、わざわざ人目を避けて。
(早く守れるようになりたいんだよな。大事なものを)
ダミュロンは、ユーリの焦りにも似た気持ちが手に取るようにわかった。だから力になってやりたかった。
下町の水路は決して整備が行き届いているとは言えない。得体のしれないものがたまに流れてくるし、匂いも決して良くはない。ユーリがここをよく訪れているのは、人が滅多にこないこと、水路沿いに植えられたミゾレヤナギの深い緑が人目を遮ってくれることなどが理由である。と、ダミュロンは思っている。たった一人で泣きたい時がこの少年にあるとしたら、その場所はここであるような気がして、それがダミュロンには少し苦しかった。だから、この場所が少しでもこの少年にとって、癒しと安らぎの場所になればよいと、そんなふうに思っていた。
ゆうり ろーうえる。地面にそう書いてみせて、ユーリはダミュロンを振り返って見上げた。ユーリは負けず嫌いを拗らせているためか、ダミュロンのお手本をなぞったり真似したりすることを決してしない。必ずダミュロンの手本を消してから、一つ一つ思い出しながら自分の力で書いていく。効率は悪いが、その心意気は嫌いじゃなかった。ダミュロンが「まだまだだよ、ローウェルくん」と、ユーリが書いた字にちょいちょいと添削を入れると、ユーリは「惜しかったとか言えよ」と睨んできた。ダミュロンは嬉しい。ユーリの透明なままの心の内を、このところ言葉にされることが多い気がした。
「さぁてと、先生は疲れたので今日はもう閉校です」
ダミュロンがすくりと立って伸びあがると、毎度のようにユーリからすかさず文句が飛んできた。
「はぁ!? まだ名前しか書いてねぇよ」
「いやいや上出来だって。お前さん、野菜や果物くらいだったらもう大体読めるだろ。名前しかじゃなくて、名前が難しいんだよ、ユーリの場合」
ダミュロンが首を右に左に倒しながらそんな風に伝えると、ユーリが呆けたような顔でこちらを見上げていた。どうしたどうした、と首を傾げると、ユーリが意外なことを口にした。
「あんた、名前、」
……
ダミュロンは、顎に手をやって記憶の引き出しをひっくり返してみた。そうか。ちゃんと呼んだことがなかった気がする。ダミュロンはにんまりと笑い、再びユーリの目の前にぐいとしゃがんでみせた。
「どうしたよ? 『ユーリ』」
「
……………………………………
おう」
「何だよ、その間」
ダミュロンはげらげらと笑ってしまった。ユーリは顔を真っ赤に染めて、ふざけんなだの、揶揄いやがってだの、まったくやる気のない拳を振るっている。騎士に名を呼ばれて照れるとは、まったく年相応で、ますます嬉しくなってしまう。
ダミュロンは、ユーリの力になりたいと願っていた。しかしそれと同じくらい、ユーリにもっと子どもであってほしいと願っていた。
この少年の可愛げというものをまたひとつ見つけたダミュロンは、キャナリにどんな風に報告してやろうかと、ほうき星の軽食をつまみながらひたすらそんなことに頭を使っていた。
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