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ろく
2026-07-07 11:18:23
12604文字
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極光の流星
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序章 失われた流星へ
CCA後if。シャアは直前にアムロから離され生存。
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確実に近づいてくるあの男の気配。気配を消すどころか、ある人に向けて呼びかけるように。
セイラは、別荘の玄関を開けた。玄関のポーチの先、その長身の男は立っていた。
「なんの御用かしら、兄さん。仇を討たれにいらしたの?」
キャスバル・レム・ダイクン、セイラの実兄。またの名をシャア・アズナブル。見つめあう兄妹。妹・セイラの手には拳銃が握られていた。
「久しぶりだな、アルテイシア。アムロ君はそこにいるのだろう?」
拳銃など眼中にないように、セイラの後ろにいるであろう人物に気が付いている。それに合わせたように、カミーユも玄関から出てセイラの横に立った。シャアはカミーユがいたことに気が付かずにいたのだろう。
「また
……
俺とアムロさんを間違えたんですか?クワトロ大尉。」
皮肉気に口の端を上げるカミーユにシャアは絶句する。図星だったらしい。
「カミーユ、なのか。久しぶりだな、見違えたよ。立派になったな。」
どの口が、とカミーユは口の中でつぶやく。
「ええ、お久しぶりです。ご活躍ですね、大尉。でも、あいにくアムロさんはいませんよ。貴方が、彼を死に追いやったんでしょう?」
案の定、シャアの顔色は悪くなっている。アムロが生きて、セイラのもとに匿われていることを疑いもしなかったのだろう。
その絶望顔に、カミーユは内心舌を出した。誰が会わせてやるものかと。
だが、家の中から、かすかにコツコツとノックするような音がする。シャアは弾かれたように二人を押しのけると別荘に押し入った。
「アムロ君!いるのだろう!?アムロ君!」
気配と音をたどれば、廊下の奥、アンティークな厚いカーペットの下からその小さな音が聞こえてくる。
「ここか?」
シャアが敷かれたカーペットをめくりあげれば、地下へ続くだろう入口があり、ばこん、と音を立てて小さな扉が跳ね上がった。
「ひどいじゃないか
……
閉じ込めるなんて。」
ぶつぶつと呟きながら茶髪の癖毛がせり上がってき、顔を覗かせるなりシャアと目が合った。
「アムロ君!!」
「わあっ!」
あろうことか、シャアはアムロの脇に両手を差し込むと持ち上げるなり抱きしめた。
「ちょ、苦し
……
」
シャアの背中を力なく叩いていたアムロだが、唐突にがくりと脱力した。
「ちょっと何してくれてんだ、この恥知らずが!」
あまりの光景に呆気に取られていたカミーユは正気を取り戻すと、アムロを離そうとしないシャアの横腹に拳を叩きこんだ。
ようやく抱擁を解いたところで、アムロはくたりとシャアにもたれかかった。
「アムロ君?」
「失神してんだよ!この馬鹿力!」
カミーユの荒々しい指示のまま、シャアによってアムロは充てられた客室へと運び込まれた。
「アムロはどうしたのかね?負傷が残っているのかね?」
「大尉、黙って。」
青白い顔で寝台に横たわるアムロを心配するシャアに、カミーユは構わず静かにさせた。
診察カバンから慣れたように聴診器と血圧計を取り出し、腕に巻き付け血圧を測りながら脈をとる。旧時代と同じアナログな計測だが一番信用できる。
「血圧は相変わらず低い
……
貧血ですね。このまま休ませましょう。」
シャアはアムロの様子に後ろ髪を惹かれているようだが、カミーユとセイラは応接間へと連れ出した。
「カミーユ、アムロ君の具合はどうなっているのかね。貧血の原因は内臓を痛めているのかね?」
シャアが心配するのも無理はない。外傷が見つからないなら、戦後内臓の損傷を疑うのが普通だからだ。
「それは、俺も体の内部で出血を疑ったんですが、血液検査をみるとどうもそれはないようで。」
口ごもったカミーユに、今度はセイラの方にシャアは視線を投げたが。彼女も首を横に振った。不調の原因に行き当たらない。
「それで、クワトロ大尉はアムロさんに何の用事です?」
話題を変えたカミーユに、シャアはフム、と姿勢を正した。
「会見で公表したように、私はアムロ君をネオ・ジオンに迎えるべく話し合いに来た。」
堂々たる宣言に、やっぱり、とカミーユとセイラはため息を吐いた。
「言っときますけど、抱擁ごときで失神する状態の人が宇宙にあがれると思います?」
大気圏を突破するにはどうしたってGがかかる。それに耐えられない病人、高齢者、乳幼児。物理的に地上で暮らすしかできない人は大勢いるのだ。それを、
「地球人を全員宇宙に上げるですって?アンタ、弱者を勘定に入れず、ただ見下し、隕石を落として皆殺しにするとか
……
ふざけるなよ?」
零下に下がったような冷たい視線を向けながら、怒りの沸点を超えつつあるカミーユに、シャアは返す言葉もない。アムロにも同じことを言われたことだ。
「ついでに言っておきますけど。大尉、いつかカラバでアムロさんを散々宇宙に上がることを勧めてましたよね。でも彼は上がらなかった。じゃなくて、上がれなかったんですよ。」
あの時、アムロが宇宙に上がって、エゥーゴに来てくれていたら、とカミーユだって思ったことだ。あの天才がいるだけで、戦死者は激減しただろうから。今言っても詮無いことだし、今のカミーユには事情が分かってしまった。
「今だからわかるんです、俺も二度とMSに乗るつもりはないから。でもアムロさんはそれだけじゃない。」
あなたに言っても仕方ないですけどね、とカミーユは前置きをしながら、
「あの人は連邦の研究所で、脱走や反乱ができないように向精神薬や暗示のせいで、精神状態を抑え込まれてたんですよ。」
医師として知識経験を得たから推し量れるようになったカミーユだからわかったことだ。その状態で輸送機を奪ってカミーユたちを助けに来たこと自体、相当に負荷をかけてきただろう。
「それだけじゃない。脱走して投薬が途切れたけど、こんどは断薬したことで離脱症状があったはずだ。だからあの頃、アムロさんの様子、おかしかったでしょう?きっと、苦しかったはずだ。なのに誰も彼を労われなかった。」
「あ
……
あぁ
…
」
思い当たりがありすぎるシャアは唸った。連邦組織の仕打ちに怒りの炎がまたひとつ大きくなる。
「その時の投薬の影響が強すぎて、今もアムロさんの体や精神には残っています。なのに、宇宙に上がって乗りたくなかったMSに乗るって、相当なストレスだったと思いますよ。その元凶、お分かりですよね。」
反論できないシャアに、カミーユはさらに追い打ちをかける。
「それで、アムロさんを手に入れて、MSで戦わせようってんなら、俺、絶対認めませんからね。」
「カミーユ、そこまでで。」
応接間の扉を開けて、まだ血の気の薄いアムロが立っていた。
「あなたは、元気そうだね、シャア。」
セイラに促されて三人掛けのソファに座ったアムロは穏やかに微笑んだ。まるで安心したというように。
三人にはティーセットでもてなされていたが、アムロの前には大ぶりのマグカップにココアを供され、全部飲むのよ?とセイラに念押しされた。
「君は具合がよくないようだが、なぜだね?」
シャアの質問には応えず、アムロは手に持った小さな記憶媒体をテーブルを滑らせ、シャアの前に置いた。それが先日までアムロがPCに向かって書き込んだ内容だとカミーユもセイラも分かった。
「これをあなたに託したい。俺が感じたサイコフレームの所感と考察だ。捨てるのも自由だが
…
」
少し口ごもったアムロは、シャアを見据えた。
「あの出来事でサイコフレームの存在が各方面で注視されただろうことは想像がつく。活用の場を広げる前に再検証されていることを、俺は願っているが。」
「サイコフレームの共振だな?あの時、何が、君の身に何があった?」
あのアクシズを押し返すまでに至ったサイコフレームの共振、暴走、シャアは共にいたのにモニターが死んだために現状はわからず、後で記録として外部記録から知っただけだ。
「何がどうなったか、は、正直俺にもわからない。ただ、アクシズを押し返すために共振が限界値を超えたんだろう。不足分を、たぶん、使用者の生体エネルギー、つまり命を食らったんだ。あなたは、感じなかったか?」
シャアだけではない、カミーユもセイラも愕然とした。いや、カミーユは考えたくなかっただけで、懸念はあったといえる。アムロの弱った体のことを。
シャアは血の気の引いた顔で、生還した彼を泣いて喜んだナナイの言葉を思い出した。シャアの命を、共振が吸っていたように思った、と。
「私もあのとき、命を吸われていたらしい、と、指摘はされたが。なぜ、君だけが
……
。」
「あなたがなんともなくて、本当に良かった。」
「よくはないだろう!なぜだ!何をした!アムロ!」
穏やかに語るアムロに対して、シャアは激高した。カミーユもセイラも顔色を失っている。
「俺は、あの時あなたを道連れに消滅するつもりだった。でも、シャア、あなたあの時正気に戻ったろう。セイラさんを死なせずに済んだことを心底安堵しただろう?」
だから、あなたをセイラさんのもとに帰そうと思った。正気に返ったなら、今度こそやり直したらいいと。
だから、アクシズへ押し込んでいたシャアの乗ったインジェクションポッドを、共振の外へと放った。
やることはひとつ。自分の精神と命をサイコフレームに食わせて、すべてをアクシズへとぶつけた。
「俺は、死んだはずだったんだが、なぜか、生きてるみたいだ。夢かと思ったが。」
苦笑するアムロに、シャアは頭を掻きむしった。今は総帥としてのセットはしておらず、以前のように髪は下ろしたままだ。
「なんてことを!君だけが死ぬなど!」
「あなたに言われる筋合いはない。」
ぴしゃりとアムロははねのけた。
「あなた、大昔の救世主のようにすべての罪を背負って十字架にでもかけれらたかったようだが。赦されると思うな。生きて償え、シャア。あなたの思い描く理想を、ちゃんと俺に見せてみろ。」
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