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黒竹
2026-06-01 22:02:09
21030文字
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魔法少女ノ魔女裁判
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シェリハンの短い話まとめ
【シェリハン】Xに画像形式で乗せてた掌編をまとめたやつ
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文字通り山と積まれたハンバーガーを前に、ハンナがげんなり顔を隠そうともせずため息をつく。「なんですの、これ」隣のシェリーは目の動きだけで山を眺め「ざっと二十個ってところですかね」冷静に数えていた。
テーブルの向こうでココがきひひっと悪戯じみて笑っている。
「いやあ、昼の配信でなんか派手なことやりたくってさあ。バーガーケーキってのやってみたんだよね」
なんと自分で作ったらしい。無事に出来上がったのはいいが、どう頑張ってもひとりで食べ切れる量ではない。冷凍庫もいっぱいで保存するのも難しい、と悪びれもせずに言ってくるココを半眼でねめつけるハンナ。
「まあまあ、あてぃしを助けると思ってさ。頼むって」
「頼まれても困りますけど
……
」
ココが巧妙に要件をぼかしながら家に誘った理由がようやく理解できた。積み上げられたバーガーは壮観だ。バンズとパティとチーズを重ねたシンプルなかたち。それらがピラミッドみたいに並んでいて、肉とソースと油の匂いが部屋中に充満している。
ココの部屋は配信機材や謎のぬいぐるみでごちゃついていたが、その中央に鎮座するハンバーガーの山だけが異様な存在感を放っていた。
「ふぅむ。仕方ないですね。できるだけ協力しましょうか」
「おっ、話が分かるねえ」
ゆったりとテーブルの前に腰を下ろすシェリー。ハンナが少し意外そうにシェリーを見やる。貴重な果物を平気で握りつぶすような彼女なのに、どういう風の吹き回しだろう。
「これで私たちが帰ったあと、ココさんが食べずに全部捨てたりしたら、ハンナさんが嫌な気持ちになるじゃないですか」
やれやれと、どこか諦めにも似た表情でシェリーはてっぺんのひとつを手に取る。どうやら気遣われたらしい。確かに彼女の言葉通り、こうして目にしてしまった食事が無惨に捨てられたなんて聞いたらいい気はしない。単純にもったいないという気持ちもあるし、ココに対して怒りを覚えることもあるだろう。よしんば全部食べたと報告されたとして、それを素直に信じるには彼女は少々お調子者のきらいが過ぎる。
つまり、この家に誘われ、のこのことやってきた時点で選択肢はないということだ。シェリーは早々にそのことに気づき、持ち前の合理的思考でさっさと終わらせようとしているらしい。
「まあ、そういうことなら仕方ありませんわね」
ハンナもシェリーに倣って席につく。ケチャップとマスタードの容器が脇に置かれている。味の調節はある程度自分の好みでできるらしい。
三人とも最初のひとつを手にとってかじりつき、ハンナが軽く目を瞠った。
「うんまっ」
「これはこれは。パティが柔らかくておいしいですね」
「任せろって。ちゃんと有名なバーガー屋のレシピ調べて作ったんだから」
自慢げに胸を張るココを前に、さしものハンナも天邪鬼な発言はできない。「遠慮すんなよ、お嬢。好きなだけ食べていいぞ」ひと口が小さいせいで一生懸命もぐもぐしているハンナに、ココが笑いながら箸休めのピクルスを差し向けた。
ハンナは礼もそこそこにピクルスを摘まみ、口の中の濃い味を流すように咀嚼した。酸味がじわっと広がって、少しだけ生き返る。
「
……
悔しいですけど、かなりおいしいですわね」
「だろ? 配信の企画モノだからって手抜いたらつまんねーじゃん」
ココは得意げに鼻を鳴らした。テーブルの上には包み紙が少しずつ積み上がっていく。最初のうちは順調だった。
シェリーは黙々と食べ進めているし、ココも「若者なめんな〜」などと言いながら豪快にかぶりついている。
ココの腕前の甲斐もあってか、はじめのうちは順調だった三人だが、次第に顎の動きがおぼつかなくなり、咀嚼している時間も延びてきた。
ハンナが四つ目の半分を過ぎたあたりで完全に手を止める。
「
…………
」
「
…………
」
「
…………
」
もう誰も喋らない。饒舌なはずのシェリーとココの舌すら、油がコーティングしてしまったよう。
ココがテーブルに突っ伏す。
「むりだぁ
……
」
「まだ半分くらい残ってますわよ」
「お嬢ってたまに鬼じゃね
……
?」
「あなたのせいでしょうが」
そう言い返しつつ、ハンナ自身もかなり限界だった。半分食べたバーガーを持ったまま手が止まる。
隣ではシェリーが静かに水を飲んでいた。
「シェリーさん、どうです? まだいけそうですの?」
「そこそこ満腹ではありますが。腹ごなしにそのへん走ってきてもいいですか?」
「あああちょっと待った、もうすぐじいちゃんが帰って来るから鉢合わせしたらまずい」
立ち上がりかけたシェリーをココが慌てて押し留めた。シェリーは少し不思議そうに首を傾げる。
「どうしてです? 別に私たち、ご挨拶くらいしますよ?」
「お前ら、この状況でさらにゲロ甘お菓子とか食える?」
「ああ
……
お年寄りって子供相手だと大量にお菓子出してくるわよね
……
」
そういうこと、とココが難しい顔で頷く。友人の家族から出されたものに手を付けないというのも、また失礼だ。
ハンナは残ったハンバーガーの山を見つめ、それからふうと息を吐いた。
「
……
ちょっとだけキッチンを借りてもよろしいかしら」
「へ? まあ、ちょっとくらいなら好きにしていいけど」
ハンナがハンバーガーをいくつか抱えて立ち上がり、ココに教えられたキッチンへと向かう。ぐるりと見回し、調理器具の位置と使ってもいい食材を聞いてから、慣れた手つきでバーガーを分解していく。
「お嬢、なにしてんの?」
「全部同じ味だからきついんですのよ」
ひとつには蜂蜜、ひとつには辛味のきついソースをかける。あるいはバンズにバターを塗って香ばしく焼き、あるいはパティを焼き直してから刻んだ玉ねぎを加えて油っぽさを軽減させた。
「こんなものかしら」
手を加えたものを再度テーブルに戻し、興味深そうにしているシェリーにひとつ手渡す。
「あ、すごいです。蜂蜜の甘みが意外と合うんですねー」
「あーこれ、バンズがカリカリになってうまいわ」
ほんの少しのアレンジではあったが、味わいが変わったおかげで止まっていた手がまた進み始めた。大口を開けていっぱいに頬張っているシェリーを横目に見て思わず口元をほころばせる。無理だ無理だと喚いていたココもひとつをぺろりと完食していた。
「すげーすげー! お嬢、料理もできんの最強じゃん。え〜、お前マジで嫁に来いよ〜」
「はいはい考えておきますわ」
ココのプロポーズをすげなくあしらっていたら、隣の彼女の手が止まった。
「待ってくださいココさん。シェリーちゃんもなかなかやりますよ」
「へ?」
「なにせ名探偵なので、事件が起きた時はかなりお役立ちです」
そうだっけ、とココが視線を彷徨わせる。
「あとハンナさんより頭が回りますし、体力も自信があります」
「つーかなんでお嬢と張り合ってんだよ。なにお前、あてぃしのこと好きなん?」
今度はハンナの手が止まった。食べかけのバーガーがいきなり重くなった気がする。
いや、まさか。だって別にそれほど親しくしている気配もなかったし、そういう話をされたこともないし。しかし、うっかり口をついて出た言葉で本人も気がついた、なんて展開はありえなくはない。漫画で見たことある。
そうだとしたらどうしよう。
どうしよう?
「それはありえませんが」
「なんでだよ。ちょっとくらいあれよ」
シェリーは蜂蜜がけバーガーを食べ終えると、ココが持っていた食べかけに手を伸ばして奪い取り、さっきの倍くらいの速度で食べきった。
「あっ、なんであてぃしの取るんだよ! まだ手つかずのが皿にあるだろ!」
「ええ
……
だってぇ
……
」
シェリーもなんだか戸惑っているよう。己の行動にうまく理由をつけられていない。「そっちのほうがおいしそうに見えたので」確かにアレンジされていない冷めたハンバーガーよりは良く見えるだろうが、だからって人の食べかけを奪い取るのは常識の埒外である。
──でも、シェリーさんに常識を問うのも
……
じゃあいいのかしら
……
。
「なんでですかねえ」
シェリーは自分でも何度も首をひねりつつ、ハンナがアレンジしたバーガーをひとつ残らず腹に収めていた。
その真意を推し量れる人間は、あいにくと今のこの場にはひとりもおらず、いずれ答え合わせをする機会があったとしても、その頃には橘シェリーの胃袋は毎日のように遠野ハンナの手料理で満たされているはずなので、実際問題として誰も困らなくはなるのだった。
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