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黒竹
2026-06-01 22:02:09
21030文字
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魔法少女ノ魔女裁判
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シェリハンの短い話まとめ
【シェリハン】Xに画像形式で乗せてた掌編をまとめたやつ
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携帯ゲーム機の小さな画面から、間の抜けた電子音が流れている。
「わたしたちに あかちゃんが うまれました!」
カラフルな文字と一緒に表示されたのは、ニコニコ顔のアバターに抱っこされた、さらに小さなアバターだった。丸っこい顔で、ちょこんとした目をしていて、髪色だけが妙にシェリーに似ている。
「
……
ふふ」
ハンナは思わず吹き出した。
「なんですのこれ。似てるような、似てないような
……
」
「なるほど、なかなかうまいこと特徴を合わせてくるものですね」
隣から覗き込んでいたシェリーが淡々と言う。
冷房の効いた部屋は外の蒸し暑さが嘘みたいに快適で、二人が並んで座るソファの前に据えられたローテーブルの上には飲みかけのお茶と、開きっぱなしのお菓子の袋が散らばっている。
なごやかな休日の午後だった。遊びに来たシェリーは大した用事もなかったし、出かけるには微妙な時間帯で、特にすることもなく、どうしたものかと悩んだハンナが懐かしさで引っ張り出してきた古い携帯ゲーム。島に住む住人たちを作って、勝手に恋をしたり喧嘩したりするのを眺める、数年前にヒットした自由度の高いゲームだった。
そこに自分たちそっくりのアバターを作って放り込んでいたら、ゲームの中の二人は勝手に恋人になり、結婚し、そして今、子どもまで生まれてしまったのである。
「ちょっと、進展早すぎません?」
「ハンナさんがせっせと【私たち】を仲良くさせてたからだと思いますけど」
「だ、だって、仲が悪くなったり喧嘩したりするの、嫌だったんですもの
……
」
もごもごと言い訳をしながら、ハンナは画面を操作していく。自由気ままに生活しているアバターではあるが、プレイヤーの指示である程度調整することは可能だった。その選択肢で、ハンナがことごとくアバターたちの関係を深めていくようなものを選んでいたのをシェリーはしっかり把握していたらしい。
「私はせっかくなので、自分じゃしないようなことをさせてみたいですけどね」
「あら。じゃあわたくしと離婚してエマさんと結婚してみます?」
「
…………
」
「じょ、冗談ですわよ」
ちょっと表現のしようがない顔をされて、さすがにハンナも慌てふためく。そんな顔をするなら調子に乗ったようなことを言わなければいいのに。
ゲームの中のシェリーそっくりのアバターが、赤ん坊を抱えたまま左右に揺れていた。赤ん坊は大声で泣いていて眠る様子がない。画面の中でシェリーが困り果てている。
「大変そうですわねえ」
「ハンナさんは子どもの世話、上手そうなイメージがありますね」
「ま、慣れてはいますわね」
肩をすくめつつも、少しだけ照れくさい。
画面の中では、まだ小さな赤ん坊が「ふええ」と泣いている。牧歌的で、幸せそうな光景だった。
ハンナはしばらくそれを眺めてから、ぽつりと呟く。
「
……
まあ、現実じゃありえねーですけど」
「そうですね」
シェリーがあっさり頷いた。その反応に、ハンナは少しだけ視線を泳がせる。
「
……
でも、もし本当にいたらどうなるんでしょうね」
「なにがです?」
「ですから、子どもですわよ。
……
わ、わたくしたちの
……
」
言った瞬間、自分で恥ずかしくなってしまって自然と語尾が消えていく。
なんでこんな話をしてるんだろう、と今さらながらわずかに後悔した。ゲームの中の呑気な赤ん坊につられたにしても、あまりにも現実味がない。
やや自己嫌悪に陥るハンナを横目にしつつ、シェリーは赤くなった頬を茶化さなかった。
さっきまでゲーム画面を見ていた視線が、ふっと逸れた。
「
……
シェリーさん?」
「別に、考えたくないわけじゃないんですけど」
珍しく歯切れが悪い。
ハンナが首を傾げると、シェリーは小さく息を吐いた。
「もしそうなったら、ハンナさんの取り合いになっちゃいますから」
「
……
へ?」
一瞬、意味が分からなかった。
「子どもって、たぶんずっとハンナさんにくっついてるでしょうし」
シェリーはソファの背にゆっくり寄りかかりながら続ける。その仕草自体はいつも通り、力の抜けた自然体なのに、視線だけは妙に真剣で、冗談を言っている時の軽さがない。
「抱っこもするでしょうし、寝る時も隣を取られるでしょうし」
探偵の想像力がなせるわざか、淡々と並べられる想像は、どれもやけに具体的だった。
ハンナの頭の中に、つい情景が浮かんでしまう。小さな子どもを抱き上げている自分とか、寝苦しい夏の夜に川の字みたいになって眠る光景とか。現実にはありえないはずなのに、シェリーが当然みたいに話すものだから、妙に輪郭を持って迫ってくる。
「いや、それはまあ
……
赤ちゃんのお世話をするなら、当然そうなるのでは?」
「それは
……
ちょっと、受け入れがたいものがありますね」
気難しい顔で言ってくるシェリーに、ハンナは開いた口がふさがらない。シェリーの言い方が本気で不満そうで、ハンナは思わず目を瞬かせる。
「嫌って
……
」
「だって、ハンナさんは私のなので」
「なっ
……
」
あまりにも自然に言われて、顔が一気に熱くなる。
「な、なに言ってますの急に!」
「しかもハンナさんのことですから、絶対に私より子どもを優先しますよね。なにせシェリーちゃんは自分のことは自分でできちゃう大人ですし、見ての通りしっかり者ですし、かわいいうえに天才でえらいので」
「ツッコミどころが多すぎて選べませんわ」
多すぎる言葉の代わりに、脇においてあったクッションを持ち上げて彼女の膨らんだ頬にぽすんと押し付けると、シェリーは避けもせずに受け止めた。
拗ねたふりをしていたくせに、クッションがくすぐったかったのか、シェリーが少しだけ楽しそうに笑う。
「でも、本当に子どもがいたら」
「
……
まだ言います?」
「ハンナさん、すごく甘やかしそうですよね」
「それはどうかしら。でも
……
そうね、女の子だったら甘やかしてしまうかもしれませんわ」
「私はたぶん、ちょっと厳しめでいっちゃいますね」
「嘘ですわ。絶対あめーですって」
「そうでしょうか?」
「そうですわよ。今だって、あなた、わたくしにゲロ甘じゃねーですの」
「
…………
」
一拍。
シェリーはなぜか真顔になった。
「なに『今初めて気づきました』みたいな顔してんですのよ。自覚ねーんですの?」
笑いながら言うと、シェリーは少し考えるように目を伏せ、それからぼそりと呟いた。
「
……
でも、ハンナさんに似たら、甘やかしちゃうかもしれません」
その声が思ったより柔らかくて、ハンナは思わず黙りこくる。
ゲームの中では、赤ん坊は健やかに成長し、家の中に思い出の写真がどんどん増えていた。
部屋には冷房の音が静かに響いている。
ハンナは誤魔化すみたいにゲーム機を持ち直しながら、小さく咳払いした。
シェリーはそんなハンナの様子に口元をゆるめつつ、悪戯に金色の髪を指ですくって遊んでいる。
「取り合いはしますけど」
「そこは譲らねーんですのね
……
」
呆れたように言い返しながら、ハンナは首の後ろが熱くなっていくのを止められない。
隣にいるシェリーがあんまり自然に笑うものだから、ハンナの隣を独占したがるその幼気を、どうにも可愛いと思ってしまうのだった。
ほんの少し唇を尖らせて、ねだるように髪をつまむその仕草は、まるで母親に構ってほしい小さな子どもみたいだ。
それなら、まあ。
ひとりで充分なのかもしれない。
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