錘(つむ)
2026-06-01 20:33:42
14845文字
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水の怪

現パロというか この世ならざる者たちと縁の深い立香が出会った犬連れの少年は



 状況を整理するため、駅前のベンチに並んで腰掛けた。犬たちは綱の範囲で、お利口に小さな花壇を覗き込んだり、ぼーっとしたりし始めた。口を開けると長いマズルのせいで舌が横からこぼれがちだ。
 少年は、また凹んでいる。
……また余計な事を言って台無しにするところだった」
「大丈夫だったじゃない、大丈夫。それに、店主さんも褒めてたけど物知りなんだね、私もウサギの足とか知らなかったよ。犬って言うと犬神とか、そういう危ない感じのイメージだったけど、かなり何ていうか、気軽に持ち歩いてたんだね」
 少年は口に指を当てて、ふと考え込んだ。
「イヌガミ。どんなのなんだ?」
「えっと……いろいろあるけど。犬を使い魔みたいにして、呪ったりする、みたいな」
 作り方は諸説あるが、有名なのを挙げてもなかなかにグロテスクである。犬種も違うとは言え、コーギー笑顔二つに見つめられて滔々と説明はしづらい。が、少年はそれほど突っ込んだ解説は要らなかったらしい。
「魔女の使い魔みたいな、か。そういう認識は、一般的か? その、呪いに使う、って部分は」
「うーん。私の周りに一般的な人が少なくてあんまり参考にならないと思うけど、そういうの興味あればかなりメジャーな方じゃないかな」
「なるほど。そうか……、だったら」
 少年は反動をつけて立ち上がり、こちらを向く。その両脇に犬が控えた。
「俺だけで、何とかできる。かも」
「えっ。どうやって!?」
「俺も、あてがあるっていうか」
「さっき言ってた、身内の人?」
「いや、そっちじゃなくて。……でもまあ、似たようなものか。この状況なら、そいつを出せば終わると思う。手間を掛けさせて、悪かったな」
 別れの挨拶になりそうだったので、急いで立香も立ち上がる。
「いや、いやいやいや待って。ここまで来て、どうなったか気になるよ。せめて事後報告でも知りたいからさ。連絡先、聞いても大丈夫?」
 少年は、目に見えて慌てだした。
「も、持って、ない」不自然過ぎる言い訳と思ったのか、どこか悲壮な顔で付け加える。「教えたくないわけじゃ、ないんだよ」
「大丈夫だよ。わかるよ」
 事情はいろいろだ。今日一日、いや半日くらいの付き合いだけれど、基本的に誠実なのは分かる。少年は考え込み、犬もつられて首をひねったり視線を流したりしている。
「この駅って、住んでるところからそんなに遠くないんだな?」
「うん、数駅ってとこ」
「明日。神社……は危ないか。ひとけがないもんな。駅に来てくれたら報告する」
 次の日の約束を済ませると、少年は犬を連れて去っていった。ピンと伸ばした背中は、だから余計に華奢が目立った。