錘(つむ)
2026-06-01 20:33:42
14845文字
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水の怪

現パロというか この世ならざる者たちと縁の深い立香が出会った犬連れの少年は



 神社の前にたどりつくと、開けるように湖が現れた。水面の広さは体育館の床くらいで、水生植物も生えているのでそれほど深くないようだ。途中まで木の板が渡されているところを見ると、冬には渡り鳥などが来るのだろう。
 今は神社の範囲だけが鬱蒼としているが、昔は全体が木々に囲まれていたようだ。鳥居は石造りで、石畳の道もある。社もいくつか入っていて、神主さんなどは常駐していないようだが昔が忍ばれる。
「狛犬は大きめだけど普通だね。さっき、資料館の人が面白い神社だから屋根を見てみてって言ってた」
「屋根? どんなだ」
「多分貰った資料にあると思うけど、見てのお楽しみで教えてくれなかった。中に入らないと見れないかな。ね、ワンちゃんは抱っこして大丈夫?」
「抱っこは構わないけど。足が短いだけで中型犬だし、重いぞ」
 かがむと、黒茶の方が寄ってきたのでお言葉に甘えて抱き上げる。犬は無抵抗で、腕の中に収まった。数キロの小型犬や猫を想定すれば重いのだろうが、親戚の家で飼ってた中型犬はもっとぎっしり重かったし、大型犬はびくともしなかった。
 温かくて、毛がふわふわと柔らかくて、骨がしっかりしていて、耳が大きい。
「そんなに重くないよ」
 残った茶色の方が、長さは短くても立派な足先でカリカリとねだり始めたため、少年も諦めて抱き上げた。
「ずっと持ってると重いんだよ」少年に抱き上げられたきつね色の犬は、振り返り見上げた。白目を見せた目線にあからさまな文句がにじみ出ている。「……なんだよ。事実だろ」
「悪口言ってると分かるよね、犬」
 すべての社にお賽銭を入れて、頭を下げる。少年も作法はともかく頭は下げている。
 神社にたどり着くまで、何度か不穏な気配とすれ違った。それは神社、湖に近づくに従って増えていたのだが、来てしまえば一転、鳥居をくぐってからは何も起きなかった。
「ここは、安全そうだね。やっぱり神社の中って守られてるのかな」
「発生源か巣くらいに考えてたんだがな、こんなに水辺に近いのに、気配がまるでしない。でも……厳しい結界という感じでもないな。どうなっている?」
 少年は考え込み、コーギーの頭頂部に顎をめり込ませている。コーギーは何を考えているかよくわからない顔で呼吸をしている。一緒に考えているつもりなのかも知れない。
 邪魔をしないように、周りを見回した。正面の社ではなく、斜め後ろの瓦の部分に、丸い頭のよくわからない生き物の姿が取り付けられていた。教わっていなかったら屋根まで見ず、気づかなかったかも知れないが、気づいてしまうといかにも奇妙だ。夜、知らないで見たら悲鳴を上げるかも知れない。考えに煮詰まった風の少年の袖を引き、その社を示す。
「うわ、本当によくわからないやつがいる。なんだろうな、目つきも変だし人ではなさそうだけど動物にしては……
「つるっとしてるよね。妖怪っぽい……
 何なのか答えが出ないまま、コーギーのずっしり感が腕を痛めつけてくるようになったので、まずは神社を出ることにした。