錘(つむ)
2026-06-01 20:33:42
14845文字
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水の怪

現パロというか この世ならざる者たちと縁の深い立香が出会った犬連れの少年は



 駅の近くまで戻ると、流石に人も車も見かけるようになった。商店街はアーケードになっていて、中央部分で骨董市が開かれていた。骨董市はもう少しフリーマーケット寄りを想像していたが、いわゆるガチのやつで、買う方にもプロっぽい客がいる。
 少年は、「コーギーちゃんだ」「食パンだ」などと寄ってくる客に戸惑った様子で、人見知りは事実なのだろう。立香とつかず離れずの距離を保っているのがなんというか、失礼を承知で言えば弟みたいで可愛い。
 目的は情報収集なのだ。冷やかしながらほどなく、話好きで地元に店を構えている骨董屋を探り当てた。出しているものも、普通のそば猪口などもあるが、日本のものではない仏像やブッダマシーン、クリスタルロータス、外国の切手、ゴシック風の燭台など、店主の嗜好が伺える。
「私こういうの興味あるんですよ」
 店主と話が弾み、どうやらかなり濃いめの客らしいと気に入ってもらえたようだ。
「このあいだ売れちゃったやつ、きっと気に入っただろうな。もう写真だけだけど、見る?」
「見る見る!」
 木片みたいな茶けた土台に、ゴリゴリと尖った白いものがついている。店主は自分の頬下を突いた。
「ニホンオオカミの顎の骨! 下顎の、かたっぽうね」
「絶滅したやつ!?」
 盛大に引っかかってくれて嬉しいようだ。
「あはは、本物だったらこんな小さくないよ。オオカミの骨と言って売られてた、犬の骨だよ」
「犬の!?」
 覗き込んでいた少年が大きな声を出し、店主は慌てて手を振った。
「ああ、犬連れの子はお連れさんだった? ごめんごめん、でも、昔の話だから。野良犬とかいっぱいいた頃のやつだよ」
「いや、驚いただけだ。別に、責めてない。あれだろう? ウサギの足みたいな」
 話を切り上げようとする店主に、少年も食い下がる。今度は立香が首を傾げた。
「ウサギの足? って?」
「そのまんまだよ。野兎の後ろ足を切って、飾りをつけて。今で言うストラップみたいにしてた。中世のイギリスあたりが発祥らしい」
「そういうアクセサリーあるよね。尻尾だと思ってた……
「ウサギは肉球ないからな。どっちにしても、さすがに今は本物は作ってないんじゃないか」
 店主は、そういう話をしても大丈夫と判断してくれたらしい。元の話に戻った。
「へー、二人とも詳しいね。ラビットフットは見たことはあるけどうちで仕入れたことはないなー。そうそう、オオカミも、魔除けとか幸運のお守りでさ。江戸時代に博打打ちなんかに流行ったそうだよ。彫刻で作ったやつもあるけどね。これもモノ自体は本物の骨で、珍しいから客寄せにしてて。結構いい値段だったんだけど、売れちゃった」
 残念そうにしている。商売っ気の方はやはりイマイチらしい。
「へー。そういうの、どういう人が買っていくのかな。やっぱりギャンブラー! みたいな?」
「うーん、普通のサラリーマンだったよ。一見さんだったけど、骨董って一目惚れも多いからねえ。これを期にハマってくれるといいなあ」
 他になにか面白そうな話は、とひとりごちて、店主は思い出したように頷いた。
「絶滅と言えばさ、この辺、昭和のはじめ頃までカワウソがいたらしくて。カワウソ祀った神社があるんだよね」
「あの屋根にくっついてたぬるっとした生き物、カワウソだったんだ」
 言われてみればぬるりとした造形だった。
「ああ、もう見てたんだ。そうそう。昔は屋根飾りに凝れる腕の良い職人さんもいたからね。神社自体は古いんだけどさ。近年、って言っても俺は生まれてないくらいの頃だけどね、地元の金持ちがかなりお金入れて立て直した。この人、若い頃にカワウソを狩り尽くす勢いで毛皮を売って、そのお金を元手に成功したらしい。実際に、カワウソが本当にいなくなっちゃったのと、家族に不幸が続いたりして、晩年になって後悔して、神社に寄進して。その時に、カワウソを鎮める社も建てた。今は寂れているし、別に有名ではないけど。まあ、珍しいらしいよ」
 常連らしい客が顔を出したのを期に、礼を言って別れを告げる。店主も「また来てねえ」と、とてもゆるく手を振った。