サブさぶれ
2026-05-09 19:03:58
18530文字
Public ワンドロワンライ
 

ワンドロワンライ②

ワンドロワンライまとめ②


手の届く距離に

【お題:手の届く距離に 1h+45m】

 留学が終わって以降の私たちは、少しでも長いお休みに入ったらお互いの住む街へ飛んでいって逢瀬を重ねることで寂しさを埋めていた。
 今月はたったの一度だけ。カイリューに乗って空港からテーブルシティへ一直線で飛んできた愛しい人は、黒とすみれ色の髪をぐしゃぐしゃにしたまま私を抱き締めてくれた。
 街の外れのコートでひと勝負したらライバルタイムは一旦終了。疲れた脳と小腹を満たせるスイーツを買い、コライドンに乗る。行き先は——二人きりになれそうなとこ。恋人モードに入った甘くてふわふわでかっこいいスグリを誰にも見せたくないんだもん。
 この日は南二番エリアの塔の上に降りたった。晴れやかな風が頬をくすぐる。
「はあ……。いい気持ちー」
 スグリが上機嫌そうにクレープを頬張る。ちょうど何かのキャンペーン中だったみたいで、クレープには普段はないトッピングがあれこれ散りばめられていた。
 私も一口かじる。ハートの形の可愛いトッピングは砂糖菓子だったようだ。
「美味しいね」
 そう言って君の方を振り返る。にこっと笑った口元にピンク色のハートシュガーがくっついていた。そっと指を伸ばし、柔らかい唇からハートを掬いとる。
「ついてたよ」
「あ……。にへへ」
 スグリは照れくさそうに笑ってから、さっきより少し慎重にクレープを食んだ。
 愛しいな。
 そう思いながら、指先のハートをチュ、と食べた。
 手の届く場所に君がいる。
 先に行くと言って駆けていく背中を追いかけるのでもなく。怒りと悲しみに満ちた目に遠ざけられるのでもなく、すぐ隣に君がいる。
 それだけじゃない。こうして触れるのを許してくれる。大好きの気持ちを後ろめたく思わずにいられる。想いのすべてをぶつけられる。
 溢れて溺れそうなこの幸せを、どうやったら君に余さず伝えられるのだろう。
 ぼんやりしながらクレープを完食する。包み紙をリュックに入れようとしたとき、スグリが顔を覗きこんできた。
「アオイもついてるよ」
「え? どこ?」
「ここ」
 囁き声の後、スグリが私に影を落とした。音もなく唇が触れあう。生クリームとチョコとハートシュガーの甘い味。
 スグリがゆっくり目を開ける。とろけた蜂蜜色の瞳に、私の抱えてるのと同じくらいいっぱいの「好き」が見えた気がした。
「本当についてたの?」
「ごめん。嘘吐いた」
 ほんの少しだけ申し訳なさそうにスグリが白状する。キスしたいならそう言えばいいのに。けれど、嘘が嫌いな人が吐いた口実だと思うと、くすぐったくて堪らなくなるから不思議だ。
 触れ合わせたままの唇を今度は私から塞ぐ。
「しかえし」
「ん」
 口付けあったままスグリが微笑んだ。スグリの腕が腰に回される。私もスグリの背に手を添えた。心臓の音が重なる。
 ゼロ距離にいる君は、前会ったときより少し硬くて、あたたかくて、私と同じ、甘い味がしていた。