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サブさぶれ
2026-05-09 19:03:58
18530文字
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ワンドロワンライ
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ワンドロワンライ②
ワンドロワンライまとめ②
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『Happily ever after』
お題:「Happily ever after」
ノートを開く。すでに埋まってる最初の数ページを飛ばし、消し跡だらけのページで止まる。さて、書き始めはどうしようか。鉛筆を持ち上げながら頭をひねる。思いついた言葉を綴り、少し見つめて、「やっぱり違うかも」と消しゴムをかけ、また悩む。もう何日も、同じことの繰り返しだ。
「むう
……
」
スグリは尖らせた唇からため息をこぼした。
ノートから顔を上げ、あたりを見回す。放課後の部室は思っていたよりも人が少ない。みんなブルレクに勤しんでいるのだろう。からかってくる人
——
主に姉とカキツバタ
——
がいなかったのはよかったが、誰かに相談したくて部室に来たから、少し心許ない。それでもやると決めたのは自分だ。スグリは下唇を噛んで気合を入れ直すと、再び鉛筆を強く握りしめた。
いきなり書くのが難しいなら、今一度ともっこ伝承を読み直してみよう。じっくり読むことで何か掴めるかも。
そう決めてノートの一ページまで戻ったそのとき、部室の扉が開く音がした。
「あ、スグリだ。やっほー」
駆け寄ってくる明るい声に、スグリは弾かれたように顔を上げた。
「アオイ。やっほー」
手をひらひらさせて挨拶を返すと、アオイもニコリと笑ってくれた。いつもながら、太陽みたいにまぶしい。
「勉強中?」
隣の椅子を引きながらアオイが訊ねてくる。
「ううん。キタカミに伝わってたともっこの話の訂正版っつうか、本当にあったことと、何で嘘の話が伝わったのかってのも合わせた版の話さ考えてたんだ」
「管理人さんもそんなこと言ってたね」
「んだね。でも、俺のはそれとはちょっと違うっていうか」
正しい伝承と過ちを繰り返さないための教訓作りはすでにキタカミの大人たちの手で進められている。物語を書いた経験のない自分なんかより、経験豊富な大人たちが相談して考えたものの方が断然いい出来になる、というのも分かっている。それでもスグリはどうしても自らの手で新しい話を編みたかった。
「事情があったにしろ、間違った歴史が伝わったのって俺のご先祖様が原因だべ。なら訂正すんのが子孫の責任って思ってさ」
自己満足でしかないが、それがオーガポンにできるせめてもの罪滅ぼしだと思ったのだ。
強い決意をにじませるスグリにアオイが眦を和らげる。
「すごいね」
「なんも。悩んでばっかで、まだ一文字も進んでねんだ。本当にあったことそのまま書けばいいだけだから楽勝ーって思ってたのになぁ」
皺だらけのページにぼやきが落ちる。応援してもらえるかも、なんて期待に反して、アオイは何も返さず、黙ってスグリとノートを見比べていた。
——
困っているみたいな表情を浮かべて。
やっぱり、変なことしてるって思われちゃったかな。
そう思った途端、鳩尾のあたりがキュウと縮んだ。「つまんない話してごめん」と頭を下げかけた瞬間、アオイに手を握られた。
「ね、スグリ。それ、私もお手伝いしていいかな」
「え、いいの?」
チョコレート色の瞳を輝かせたアオイが大きく頷く。
「私もお話作った経験はないけど、一人より二人の方が進みそうじゃない? 何より、オーガポンたちの今のトレーナーとして一緒に作りたいの」
たしかに、アオイもあの夏の当事者だ。一緒に考えてもらえるならこれほど心強いことはない。スグリは両手で包むようにして、アオイの手を握り返した。
「アオイに手伝ってもらえんなら五百人力だ。こちらこそ、よろしくお願いします」
「うん! 一緒にがんばろ!」
アオイはまた眩く笑った。物語が進みそうな安心感の底で、今にも暴れ出しそうな喜びを必死に押し殺していることなど夢にも思っていないような、ピカピカの笑顔だった。
それから二人でどんなお話にまとめようかと話し合った。時系列順に並べた方がいいか。最初にともっこの話を持ってきて、後から「実は
……
」とした方がいいか。自分たちが体験した出来事
——
ともっこの復活やモモワロウ騒動と、その後調べて知った別地方でのモモワロウにまつわる伝承なども入れた方がいいか。
肩をくっつけ、ときどきお菓子をつまんで、悩んで話して、笑って。弾むように作業を進めていく。一人で悩んでいたときからは考えられないほどのスピードで物語が出来上がっていく。アオイに手伝ってもらえてよかった、と安堵していると、不意に視線がぶつかった。
「勝負とかピクニックも楽しいけど、こういうのも楽しいね」
無邪気な笑顔が胸にチクリと刺さる。
「アオイが楽しんでくれてんだばよかった」
逃げるように告げ、空白の少なくなってきたノートに目を戻す。特別な意味などない至近距離だとか、茶色い瞳の中にいる自分だとか、いつもより長くアオイを独占できてるだとか。本当はあらゆる幸せに浮かれきってる。けれどもアオイが見せるのと同じ、普通の友達って顔を取り繕い続ける。変な態度を見せて、アオイに引かれるのだけは嫌だから。
「タイトルも決めちゃう?」
「タイトルかぁ。うーん、何がいんだべか。俺としては、やっぱりオーガポンが主役だと思うから、鬼ってのは入れてぇな」
「昔から伝わってきたお話を改訂するんだし
……
あ!『新・キタカミ鬼伝説』なんてどう?」
「『新・キタカミ鬼伝説』か。
……
うん、わやかっけー! んだばタイトルはこれにしよう!」
日が傾きかけた頃。ようやくひと通りの流れが出来上がった。残るはラストだけ。ここまでアイデアをスラスラ出していたアオイが初めて頭をひねらせた。
「このお話の終わりってどこなんだろう。オーガポンたちは今もずっと元気だけど、それをそのまま書くのは変だよね。『色々あったけど今は仲良く暮らしてます』ってのも、嘘になっちゃうし」
オーガポンとモモワロウたちはピクニックなどで一緒に出すと未だに喧嘩を始めてしまうらしい。正しい歴史を描くのが目的のお話で嘘の結末にするのもたしかにおかしな話だ。今の状況を書くのも変、となると。
「なら、願望っつか、こうなるといいなーって願掛けにすんのはどうかな」
「願掛け? 例えばどんなの?」
問われたスグリは少し考えてから鉛筆をノートに走らせた。書きたての結末をアオイの目が辿る。
「『オーガポンたちは強くて優しいトレーナーの女の子の元で、いつまでも幸せに暮らしましたとさ。』って。これなら嘘にはならねし、物語の終わりって感じしていいべ」
文才がないながらもなかなか綺麗な結びができた。アオイも同意してくれると思っていたが、予想に反して彼女はきょとんと三つ編みを揺らした。
「このトレーナーの女の子って、私?」
「もちろん。アオイしかいねぇべ」
オーガポンたちのトレーナーが務まる強くて優しい女の子なんて世界でアオイ一人だけに決まってる。なぜそんな当たり前のことを聞いてきたのだろうと思っていると、アオイがもう一度口を開いた。
「えっと、つまり、スグリはオーガポンたちに私の元でいつまでも幸せに暮らしてほしいって願ってるっていうこと?」
「うん。オーガポンにもアオイにも、いつまでも幸せに暮らしてほしい。まあ、俺が願わなくとも、アオイと一緒ならモモワロウやともっこらも丸ごと全員絶対幸せになれるから問題ねとは思うけど」
まん丸の瞳がパチパチ瞬く。
「私と一緒だと絶対幸せになれるの?」
「当然だべ」
「なんで?」
「へ?」
「なんで、私と一緒だと全員幸せになれるって断言できるの?」
「だって、アオイと一緒なんだよ?」
考えるまでもないことをもう一度繰り返す。アオイはなぜか唇をキュッと引き結んでしまった。まるで何かを必死で堪えてるような表情だった。
今度こそ本気で困らせてしまったのか。今の会話でアオイが困る部分なんてないはずなのに、どうして? 頭の上にハテナがいっぱい浮き上がる。困惑するスグリを置いて、アオイはそっと瞼を伏せた。
「勘違いしたくないからはっきり聞くね」
一呼吸置き、アオイがスグリに向き直る。スグリだけをまっすぐ捉える瞳は真剣そうに見えるのに、キラキラ美しく潤んでいた。
「それってさ。スグリは、私と一緒だと幸せになれるって考えてるってこと、で合ってるかな」
「うん。そうだけど」
「どうして、そう思ったの?」
「それは、その、」
だってアオイは強くて優しくて、特別な人だから。それが正解のはずなのに、何故か喉に引っかかる。
——
なんでアオイと一緒だと幸せだって思ってたんだっけ。
考えれば考えるほど、自分がとんでもないことを言ってしまったような感覚に追い込まれていく。アオイはなおもスグリを見つめ続けてる。熱のこもったような、スグリがアオイを想ってるときと似たような、そんな眼差しだった。
「じゃあ、今、こうして私と一緒に『新・キタカミ鬼伝説』考えてる時間も、スグリは幸せだなって思ってた?」
「それは
……
、まあ、思ってるけども」
混乱しすぎて思わず本音をこぼしてしまう。いよいよ違和感を覚え始めたスグリに対し、アオイは、
「そっか。えへへ、そうなんだ」
両手で口元を覆い、ふわふわと笑った。丸いほっぺが赤く染まってる。
どうしてあんなにしつこく理由を訊ねてきたの? 勘違いしたくないって、何を勘違いすることがあったの? どうして俺の鼓動はこんなに速くてうるさいの?
次々疑問が浮かんでくる。でもスグリが今一番知りたいのはそんなことではなかった。
「
……
なんで、そんな嬉しそうなの?」
ようやく絞り出した声音はひどく幼かった。アオイは薔薇色に咲く笑みを、さらに可愛く綻ばせた。
「スグリが、私と一緒だと幸せって言ってくれたから」
「え」
それってどういうこと、と問い詰める間もなくスグリの手から鉛筆が抜き取られた。
「私もおしまいの案、思いついちゃった。書き足してもいい?」
「あ、う、
……
いいよ。二人で考えた話だもん。アオイの案も書いて」
「じゃあ
……
見ててね」
甘やかな眼差しでスグリの心臓を射抜いてから、アオイはノートに思い描く結末を綴っていった。スグリが書いたものとほとんど同じ、けれども決定的に違う結末に、夢を見てるような心地を覚えた。
書き終えたアオイがノートから顔を上げる。
「
……
ダメ、かな」
耳まで真っ赤にさせたアオイが、ぼそりと聞いてくる。瞳はうろうろ揺らいでる。ダメかどうか答える前に、どういうことかと確認したい。勘違いしたくないから、ちゃんと聞きたい。
「あ、」
アオイが聞いてきたのも、そういうことだったのか。ようやく腑に落ちたスグリに、アオイがやわく微笑んだ。見たことのない、可愛くて特別な、乙女の笑顔だった。
返事なんて悩むまでもなく決まってる。スグリは衝動のままにアオイの手を取った。
「俺は、」
完成したばかりの物語に視線を落とす。これがアオイの願いなら、自分にできることは
——
*
「ふう
……
」
アオイは最後にもう一度、この日のための特別な衣装に身を包んだ自分を見つめ、小さく息をついた。緊張。胸いっぱいの喜び。ちょっぴりの不安。いろんな気持ちがグルグル駆け回ってる。
背後から扉の開く音がした。頭の飾りを崩さないよう慎重に振り返ると、ちょうどゼイユが入ってきたところだった。
「へえ、着物姿もなかなかのもんじゃん」
「えへへ、ありがと」
友達の中でもセンス抜群で辛口のゼイユが言うのだから、きっと大丈夫だ。緊張が少しほぐれる。振り返ったついでに時計を見やる。そろそろ向こうの支度も終わった頃だろう。アオイは介添人の手を借り立ち上がった。
支度室から目的地まで約数メートル。裾を踏まないようにしながらゆっくり進んでいく。
「で? あんたらの『新・キタカミ鬼伝説』は今んとこどうなの
……
って、聞くまでもないか」
「うん。しっかり叶えてもらってるよ」
叶えてもらってるし、叶えられてるとも思う。まだまだ物語の途中だけど、きっとこの先も書き記した通りの未来を歩んでいける。あの日、〝それ〟が幸せだと即答してくれた瞬間から確信していた。
角を曲がると目的地はもう目の前だ。真っ先に、自分とは真逆な黒い着物を纏った愛しい人が目に入った。
「お待たせ」
「アオイ! にへへ
……
似合ってる!」
「そっちもすっごく似合ってるよ!」
「はいはい。いろんな意味でお似合いだから。胸はってドーンと行ってきなさい」
仲良しの友達兼義姉に背中を押され、スグリの隣に並び立つ。
「んだば行こっか」
差し出された手に自分の手を重ね合わせる。
「うん!」
少し緊張した笑みを交わしてから、アオイとスグリは扉の先へ一歩踏み出した。
会場の中には二人の友達やお世話になった人たちに混じって、お互いの手持ちポケモンたちも並んでいた。
あの日、二人で紡いだ物語の結末を思い出す。
『オーガポンたちは強くて優しいトレーナーの女の子と、心優しいお面職人の子孫の男の子の元で、いつまでも仲良く、幸せに暮らしましたとさ。』
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