サブさぶれ
2026-05-09 09:43:57
12889文字
Public 成長if
 

成長if SS置き場①

成長ifのSS・短編置き場①です。
ページリンクから作品に飛べます。
話の繋がりは無し。それぞれ単独のお話です。


月曜日


 AМ6時。重要な会議があるからといって、こんな時間に家を出なきゃならない身空を嘆く。愛する人はまだ夢の世界にいるようで、すうすう静かな寝息が聞こえてくる。幸せそうな桃色に染まるマシュマロの頬のまろみに、早出残業で荒む心が癒される。

「アオイ」

 起こさぬよう細心の注意を払って、チョコレート色の髪の毛を耳に掛ける。寝ぼけた唇が「ふふ、」と可愛い声を漏らした。

「行ってきます」

 囁いて、唇を寄せようとして、はたと止まる。せっかくゆっくり眠れてるのだから、余計な事などしない方がいい。まして、行ってきますのキスがしたいなんて、自分の我儘に過ぎないのだから。
 そろり、ベッドから抜け出し、着替え、部屋から出る。冷蔵庫を開けて、大好きな人の朝食を確認する。
 うん。これならきっと大丈夫。
 自分の分は通勤がてらに調達しよう。節約も兼ねて一番安いやつ。それだと「野菜も食べなさい」って怒られるから、野菜ジュースのパックもつけて。
 鞄とスマホロトムを引き連れ玄関へ行く。古ぼけた取っ手がギイィ、と苦しそうな声を上げた。そんな大きな音を立てないでくれ。可愛い人が起きてしまうから。これ以上うるさくさせないために、ゆっくりゆっくり、肩に力を入れて腕を手前に引く。
 ようやっと自分の厚み分だけ扉を開けた時だった。

「もう出るの?」

 ほわんと間延びした声が背後からかけられた。全身で振り返る。脱ぎっぱなしにしていた俺のパーカーを羽織ったアオイが寝ぼけ眼を擦って立っていた。

「ごめん。起こしちまって」
「んーん、平気。夕方までスグリに会えない方が嫌だから」

 慌てて身体を支えようとしたが、それより早く抱きついてきた。本能的に腰が引ける。下手に密着したらいけない気がして怖かった。胸元でアオイがくすくす笑う。

「もう、スグリ。怖がりすぎ」

 背中に回された腕の力が強められる。腹と腹がくっつく。潰してないか恐ろしくなってまた腰を引く。アオイは喉を曝して笑った。

「そんなに心配しなくて大丈夫。これくらいで赤ちゃん潰れたりしないよ」
「でも」
「ほら、仕事早いんでしょ? もう出なきゃ」

 聖母の笑みを浮かべたアオイが俺から離れる。ひらひら手を振って、心配しないで行ってらっしゃいと送り出してくれる。確かにもう出ないと間に合わない時間だ。惜しみながらもドアノブを握り直す。

「何かあったらすぐ連絡してな。俺が嫌ならお義母さんにでも」
「分かってる。……行ってらっしゃい。残業しないで帰ってきてね」
「うん。カイリューさ乗って速攻で帰ってくっから」

 身体を屈めて頬を差し出す。すぐさまチュッとリップ音が鳴り、やわらかな唇が愛を与えてくれた。頭を動かし、俺もお返しをする。丸い瞳が幸福そうに細められた。
 玄関を開けると世界が慈光に照らされていた。大きく伸びをして、気合を入れるため愛妻からキスされたばかりの頬を撫でた。
 さて、今日も一日けっぱるか。