サブさぶれ
2026-05-09 09:43:57
12889文字
Public 成長if
 

成長if SS置き場①

成長ifのSS・短編置き場①です。
ページリンクから作品に飛べます。
話の繋がりは無し。それぞれ単独のお話です。


夢心地

 ときどき、全部夢だったらどうしようって思うの。
 なんてことない世間話みたいなトーンできみが言う。何で、よりにもよって今。顔を上げて、きみの真意を窺おうとしたが、生憎顔が動かせないタイミングだったようだ。
 美しく、普段よりも鮮やかな彩りを塗りたくられている途中のきみ。きみという小さなキャンバスに筆を走らせる人に従い——俺以外に触られてるのに、ごめん、ちょっと嫉妬した——目を伏せたり顔の向きを上下左右に動かす、忙しいきみ。
 とても、俺なんか相手にしてる場合じゃないって分かってたのに、モヤモヤした気分に突き動かされて聞いてしまった。

「ほっぺ、つねってあげよっか?」
「えぇー? 顔はダメ。メイク崩したくないもん。手の甲にして」

 鏡を見ながらきみが俺に手を渡してくる。レース模様になった小さな手。スルスル手袋を引き抜くと、たくさん冒険してバトルして、たくさん頑張った痕が残る素肌がお目見えした。
 自分の手を添える。きみに負けないくらいに頑張った俺の手。自分で言うのは恥ずかしいけれど、他ならぬきみがそういう称号を与えてくれたのだから有り難く言わせてもらおう。
 さて。キュッてつねってやろうか。ペチンとしっぺを打ってやろうか。それとも——
 悩みに悩んで俺が選んだのは、あまりにもささやかすぎる一撃だった。
 チュッ、とわざと立てた音が俺ときみの間で鳴る。息が呑み込まれた音が一つ。「キャッ!」と黄色い悲鳴が一つ。もう一つ、バクバクうるさい心臓の音は……ああ、俺のものか。
恥ずかしさを紛らわすべく、かっこつけた台詞を吐き出してみる。

「現実の感触さ、したべ?」
……やっぱり、夢みたい」

 くるんと天を向いた睫毛がうっとり伏せられる。眦がキラリと光ったのはお化粧のせいだけじゃないと勘違いしたい。
 純白のドレス、ホワイトパールのアクセサリー、ふわふわのレースのヴェールと白百合と白薔薇で編まれた花冠。白の中、愛しいきみの顔が薔薇色に咲いた。