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サブさぶれ
2026-05-09 09:43:57
12889文字
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成長if
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成長if SS置き場①
成長ifのSS・短編置き場①です。
ページリンクから作品に飛べます。
話の繋がりは無し。それぞれ単独のお話です。
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下戸のスグリと酒つよアオイ
強い、弱いって言葉が我々の間では禁句扱いになってから早幾年。大人になった今でも口に出せずにいる。だけどさ、強い弱いって何もバトルにしか使わない言葉じゃないじゃない? 例えば、ほら。お酒の耐性とか。
「スグリー。起きて。帰るよー」
「んぅ〜
……
」
しなやかな筋肉に包まれた肩を揺らす。私とバトルの腕前がどっこいどっこいな彼は、お酒にはめっぽう弱い。なのに出身地のせいで強いと思われがちで、接待相手からしょっちゅうお酒を勧められてる。優柔不断な人は、ダメだって分かってるのに「一杯だけなら」とついつい酒精を煽ってしまう。
介護要員は同僚の私。酔いが覚めたスグリは「いつも本っ当にごめん。アオイがいるから平気かなって、つい甘えちまった」などと供述してくる。
絆されてる? そうだよ。だって、片想い相手が甘えてくれるのなんて、こんな時しかないんだから。許可なく触れられる機会なんて、今しかないのだから。
「スグリ、大きくなりすぎちゃったから運ぶの大変なんだよ?」
なんて悪態をつきながらニコニコの私。ワイン混じりの吐息を漏らすぷっくらした唇が目の前にある。故意の事故を起こしてキスしてやろうかって何度も思った。でも、性質の悪いことに酔った時の記憶はきちんとあるようで。結局真っ当に恋を進めるしかない状況。だけど、下手を踏みたくなくって前進できずにいる。付かず離れず、同じ地点をもう何年も踏み続けていた。
頭の近くで、低くて甘い音がぼそりと響いた。
「
……
ここ、どこ?」
微睡みの国から一時帰宅してきたスグリが問いかけてくる。虚ろな目で懸命に私を捉えようとしている。彼の身体がカクンカクンと舟を漕ぐのに合わせて私の身体も揺れる。
「酔っ払いさんのおうちの途中。もうすぐ着くよ」
「やだ。かえんね」
「やだじゃないでしょ。ほら、もうちょっと頑張って」
舌足らずになるのは、普段の温和でかっこいい姿とギャップがあって可愛いけれど、往来では見せないでほしい。私だけの秘密の君を、他の誰にも知られたくないのに。
もう一度スグリを担ぎなおそうと、子供の頃より随分逞しくなった腕を改めて肩に載せる。それから足に力を入れて持ち上げよう、とした。
不意に身体が軽くなり、代わりに視界が暗くなって、ギュウッと苦しくなった。
「やだ。おれんち、かえんね
……
。アオイんちさ、かえる
……
」
——
抱き締められてる。アルコールに混じってカミツオロチの飴の匂いがする。酔っ払いの行動と言葉にドキンと心臓が跳ねあがった。
ドキドキうるさい心臓を宥めながら広い背中に腕を回す。真正面から触るのはこれが初めてだった。
「
……
私の家に帰りたいの? 何で?」
腕の力を強める。スグリの汗ばんだ首筋に顔を埋める。酩酊状態の人がどんな心理で爆弾発言をかましたのか確認する。心臓の痛みが増す。
「ずうっと、いっしょさ、いたいからぁ
……
」
熱い吐息にやわらかな色が混じる。低くて甘い声に、言葉に、みるみる顔が火照っていく。
「どうして、一緒にいたいの」
「すき、だからぁ
……
」
「
……
何が、好き?」
誘導尋問。胸に当たる君の鼓動から答えなんて察してるのに、それでも聞かずにはいられない。
スグリがよろめきつつも私から離れる。とろけた蜜色の瞳は今度こそ私を逃さなかった。
「アオイんことが、すき」
愛おしい囁きがお酒なんかよりも私をくゆりと酔わせる。スグリの背を支えていた腕を、今度は赤く色めく頬に伸ばした。
「わたしも」
同じトーンで愛のお返事。スグリはいつもの「にへへ」笑いをした。
一歩近付く。踵を上げて背伸びする。至近距離でたっぷり見つめて、見つめられて、
「朝起きたら、もう一回言って」
「うん。いっぱい言う
……
」
互いにしか聞こえない秘密の声で約束を交わして、熱で柔らかくなった唇を静かに重ねた。
まさかなタイミングで長年踏み止まってた場所から急発進するなんて。酔っ払いと抱き合って路上でファーストキスなんて。ロマンの欠片もない。情緒もへったくれもない。ああ、恥ずかしい。ああ、赤ワイン臭い。ああ。
——
ああ、なんて幸せなんだろう。
スグリは私に抱きついたまま静かな寝息を立て始めた。甘えたさんの体重が一気にのしかかる。
本当にお酒に弱い人。そんな貴方にメロメロなんだから、私の方が弱いのかもね。強い、弱いの言葉が使えないから、一生教えてあげないけど。
スグリを支えながらスマホロトムでタクシーを呼ぶ。このまま君をお持ち帰り。酔っても記憶が飛ばない体質を利用する時が来た。
起きたら真っ先に告白してもらうから。覚悟しておいてね、スグリ。
◆
小鳥ポケモンのさえずりが麗しい朝。前日の毒物過剰摂取のせいで痛む頭を抱えて起きる。キタカミ出身のくせして酒に弱い自分が嫌になる。片想いの彼女に甘えてばかりの自分が嫌に
……
、いや、これは下心も含んでるから、そこまで嫌ではないんだけども。
アオイ。
俺よりポケモンバトルの腕も酒も強い、わやな女の子。ずっとずっと俺の「特別」でい続けるきみ。恋愛感情を持ち合わせてるのかすら読めなくて、もう何年も二の足を踏み続けてる。下手に動いて断られでもしたら生きていけないから、何千回も「好きだ」の三文字を飲みこみ続けてる。
苦手な酒飲んで醜態晒してまで周りに牽制して歩いて、なのに前身も後退もしないでいるなんて馬鹿みたいって、自分でも思う。でも、膠着状態が長すぎて、もはやどう動けばいいのか分からなくなっていた。
ああ、段々と思い出してきた。昨日のアイツ。ジョッキ受け取るどさくさに紛れてアオイの手と太もも触った接待相手のクソ野郎。前々からアオイにねちっこい目を向けてた要注意人物が、ついに魔の手を伸ばしてきたんだ。それで頭に血が昇って、一番度数の高い赤ワインを一気飲みしてやったんだ。俺が潰れれば、察した部長も「アオイさん、送ってやって」って言ってくれるから。計算して、わざと飲んで、普通に酔い潰れたのまで思い出した。
「あれ、そういえば」
ここ、どこだ?
向日葵カラーの明るいカーテン。ふかふかのベッドに淡いグリーンのタオルケット。パステルピンクの壁紙。空っぽの花瓶。丁寧に貼られた、見覚えのある写真たち。いつぞやに渡した誕生日プレゼントのぬいぐるみ。そして、やさしくて甘くて、嗅ぎ慣れてるのに未だにドキドキする匂い。
確か、昨日は
——
。そうだ、昨日は! 昨日、俺ってば!
「おはよう。酔っ払いさん」
甘美に囁く声に振り向く。
「わぎゃーー!!」
誰よりも愛おしい人が、随分と寛いだ格好で隣に寝そべっていた。本来の主人なのだから、寝転んでいてもおかしくはないのだけど。けど、でも!
朝に似つかわしくないうっとりした目で見つめられる。青みがかった茶色に浸された俺は、どうしようもないほど情けない顔をしていた。
彼女の艶めく唇がゆったり開く。
「昨日のこと、覚えてる?」
「え? あ
……
」
酔った勢いで抱きついたこと。告白したこと。「わたしも」と言っためんこい唇にキスしたこと。
何から何まで覚えてる。記憶が飛ばないのはいつもだけど、昨日は怒りすぎたのとアオイが満更でもなさそうなのに浮かれて、とくに鮮明に覚えてた。
俺の顔がボワッと熱くなったのを見逃さなかったのだろう。アオイがスッと距離を詰めた。やわっこい胸が俺の起伏のない腹に当たる。当てられる。
「約束は?」
もちろん、覚えています。どんなに酔ってても、きみとの出来事は忘れられない特異体質なもので。
覚悟を決めてアオイを見つめる。桃色にあだめく頬を包み、少しだけ背中を丸める。もっと俺だけのものにしたくて、もっと俺だけしか見えなくなるようにと、グッと顔を近付けた。
「
……
すき、です」
「もう一回」
「好き」
「それから?」
「アオイんことが、ずっとずっと大好き
……
」
唇の先が当たる距離で睦言を紡ぐ。告白する度に、もう一回とねだられる度に、アオイがクスクス笑う度に、キスの回数が増えていく。長年不動を貫いてきた距離感がジェットコースター以上の速度で縮まっていく。
これでいいのかな。こんな、なし崩しみたいな形でも。
——
まあ、いいか。世界の何より大好きなきみが嬉しそうにしてくれるんなら、何だっていいや。
二日酔いの頭じゃこれ以上のハッピーエンドなんて思いつかない。俺にできるのは、飲み込んできた何千回分の「好きだ」を思いっきり浴びせかけることだけだった。
好き。もう一回。大好き。もっと。愛してる。ラリーが延々続いて喉が枯れ始めた頃。
「私も! 大好き!」
幸せの花を満開に咲かせた顔のアオイが勢いよく抱きついてきた。押し倒される形になって、それから
——
そのまま二人の朝を夜に塗り替えた。
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