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望月 鏡翠
2026-05-07 00:39:39
30378文字
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庭師は何を口遊む 霊山班
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儀式的ニトロ その6
#庭師何を口遊む_霊山班/二次創作
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炎が、頬を炙る。
ブルーシート。その下に置かれていたのは書類だったようで、炎に煽られてチラチラと燃えていた。体が動かず、意識が戻ったあとも巩心は、ぼんやりとそれを眺めていた。
爆発に巻き込まれたはずだ。それからどうなっただろう。意識を失っていた時間はどれくらいだろう。腕時計は壊れていて、爆発の時間しか解らなかった。
知った声に、名前を呼ばれた気がする。
癖で無線に手を伸ばす。指先に痛みを感じる。無線機に、瓦礫が突き刺さって、大きく歪んでいた。ボタンを押すと、一応動くようだった。
「明治、サン?」
名前を呼ばれた気がしたのだ。彼は、巩心を下の名前で呼んだりはしないが、そんな夢を目を閉じた最中に見た。
息苦しさを感じて、顔を上げる。
火事。地下。ここから逃げなくてはいけない。
視界が揺れている。妙に、寒かった。
体を持ち上げようと地面に手をつく。血の気が引いて、肌が真っ白に鳴っているのが、炎の色の中でもわかった。
上体を起こそうと踞ろうとして、そこに突き出している金属を見た。
「あ。
……
え?」
体を動かした瞬間に、ぼたぼたと血が滴り落ち生ぬるい水たまりを作る。
視認した瞬間に、それは存在していることを思い出したかのようだった。激しい痛みを伴って、巩心に襲いかかった。
体を貫く金属片が、断裂した神経をザリザリと摩擦で痛めつけ、体に力を入れた瞬間に腹の中で動き、グチと肉をかき混ぜる。
胃の中のものが迫り上がってきて、床に吐き出した。胃に穴は空いていないのだ、と他人事のようにそれを見て考える。
出口は、ない。本能で炎から遠ざかるように這いずるが、その先どうするかの見通しはない。無線は沈黙している。スマホは圏外だった。
瓦礫に埋まり、崩れた梯子の向こうから、仲間の助けは期待できそうにない。
体を動かした拍子にまた傷が痛み、意識が遠のいた。いっそその方が痛みから逃れて楽になれるのではないかとすら考えてしまう。
「あー、これ死ぬ
……
かも」
出血を抑えようと、手を添えてみるが指先を濡らす血の温かさに、流れ出していく命を感じるだけだ。
どこからか、水の音がする。
それを目指したのは、沈黙と静寂に対する恐怖から、何か縋るものを求めたら、そちらに向かうしか無く、じっとしていたら今度こそ本当に意識も命も手放してしまいそうだったからだ。
先に進むと、広い場所に出た。
頬に風を感じて、やけに体が冷えて震えがやってくる。
そこはぼんやりと上の方が明るくなっていた。
目の前にはいくつも柱を並べたような、古いギリシャの神殿のようなどこか幻想的な景色が広がっている。
光が差し込む窓があるのだろうが、空を飛べない限りは高い天井のどこかに空いた窓から外に出ることは不可能そうだった。
「神殿
……
?」
死に際の幻覚でも見ているのだろうか。
ぼんやりとそれを見つめていると、不意に電話がなった。
スマホの音ではない。昔ながらの固定電話の音だ。
炎から遠ざかるごとに暗くなった手元が明るくなる。灯りがついたのだ。
音と光に導かれるように、巩心はそちらを目指した。
古い電話が、コンクリートの壁に張り付いている。
どうしてこんなところに電話がなんて考えている余裕はなかった。神殿に相応しくない現代機器だろうとあるものはあるのだ。
受話器を取る。というよりは、手がぶつかって落ちた。
『巩心君! 聞こえますか、巩心君』
知った声が、聞こえた。
受話器を耳に当てなくても聞こえるくらい、ありったけ声を張り上げているのだろう。
壁に凭れるようにして、耳を寄せた。
「明治サン」
受話器の向こうの声が、一瞬息を飲んで沈黙した。
『井伏さんがそっちに、向かっています。君は助かる。絶対に助ける。だから諦めないで』
「戻ります。俺は死なない。絶対に戻る」
『君ならできる。できるよね』
首を縦に動かした。
『進むべき通路に、灯りをつけます。その先の電話も鳴らす。井伏さんのところまで、進んで。お願い」
「
……
たら」
息を吸う。お腹に力を入れると、また吐いてしまいそうだ。ズボンが血でぐっしょりと濡れている。
「戻ったら。ちゃんとできたら。褒めて、くれます?」
『
……
当たり前じゃないか。ほら、進んで。次の電話で、また話そう』
通路に灯りがつく。汚れていて光度は弱いが、それでも目印にはなった。
この先に、道が続いている。暗い通路の奥から、電話の音が鳴っている。
遠くから、巩心を呼んでいる。
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