ウリュウ
2026-05-03 15:44:51
21458文字
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船遊びの夜

【RKRN】五年生、ほんのちょっとだけ水軍

五年生がおのおの実習をがんばる話。全部つながってます。
時代考証は素人です。
ある:あらゆる捏造  ない:CP

(目次)
 序 忍術学園           1⃣
 一、鉢屋三郎、ウシロタケ城にて  2⃣
 二、久々知兵助、街にて      3⃣
 三、不破雷蔵、ウシロタケ城下にて 4⃣
 四、竹谷八左ヱ門、忍術学園にて  5⃣
 五、尾浜勘右衛門、牢屋にて    6⃣
 六、五年生の船遊び ~終章    7⃣




   ●五、尾浜勘右衛門、牢屋にて


 真夜中である。
 船に作り付けられた牢の中で、尾浜勘右衛門は一人起きていた。
 同じ牢に捕まった他の人々は十人ちょっとくらいだろうか。船は二艘あったから、本来この倍はいるのだろう。自分を連れてきた山賊や船の見張りたちが、これでいくらだのあと何人だのと話していたので、要するに、まとまった数の人身売買だな……と思う。
 山賊に連れて行かれそうになる子どもをみて、思わず声をかけてしまったのは昨日のこと。やや危険ではあるが、捕まったふりをして行く先を突き止め、そこから他の五年生に連絡をつければ良いと思ってのことだった。
 ――船とはなあ。
 苦笑しながら頬をかく。連れてこられてすぐに船に乗せられ、わたりをつけるひまが見つけられなかったのは、誤算だった。
 山賊から商人のような見た目の男に船の上で受け渡されると、あとは牢に放り込まれるだけだった。その場で逃げることもできたが、それをやると、おそらく見張りがきつくなるか、出航が早くなってしまうだろう。それでは消えた人々を助け出すという当初の目的が遠のいてしまう。
 ――まあでも、五年生の皆ならここにたどり着くに違いない。
 気楽にそう思いながら、頬杖をついて外を見る。
 外側からは見えないように作られている構造の檻だが、船そのものに小さな窓が切ってあって、一応中から外は見えた。(当然そこから出るのは無理だけれど)
 牢が作り付けてある船、と言っても、そのために作られたものというよりは、古くなった船を改造したものという感じだ。牢の木枠の材質よりも、明らかに船本体の木の方が古く、痛んでいる。まるで幽霊船だ。
 正直、強度は大丈夫かなと心配になるほどの見た目の船だった。壁板が剥がれそうになっているところすらある。その雰囲気が、捕まった人々の気持ちを滅入らせている部分もある。牢の中の人々は、山賊にすごまれた恐怖や檻に入れられた絶望に加え、船の雰囲気の暗さと、空腹感にさいなまれて、すっかり気力を失っているようだった。
 さすがに死なれては商品にならないからなのか、今日の昼間に一回食事は出された。が、一人につき小さな握り飯が一個である。空腹は絶望を促進する。
 とはいえ、そろそろ檻もいっぱいだし、人が増えすぎると航海も食事の調達も難しくなる。出発は近いだろう。
 ――さて、どうするかな。
 といっても、他の五年生が来るのを待つしかないとは思う。
 一人で脱出することはできるだろうが、警備が厚くなるか出航が早まるのを防ぐ手立てが欲しいところだった。
 考え事をしながら夜の海を眺めていた勘右衛門は、ふと何か視界に違和感を覚えた。ぽつ、ぽつ、と、遠くの水面に点が見えては消えている。
 それが、海面に何かが浮かんで沈んでを繰り返しているのだと気づくのに、大した時間はかからなかった。
 目をこらす。しばらくじっと窓に目を近づけて、勘右衛門はそれが何者か把握した。
 ――兵庫水軍の水練の者、舳丸みよしまるだ。
 ゆったりと、ほとんど音を立てずにこちらに泳いでくる。勘右衛門は牢の中で別段縛られていないのを幸い、窓からそっと手を出して振った。
 あっという間に近づいてきた舳丸が立ち泳ぎに切り替え、すっと手を上げる。こちらの存在と位置は把握できたということだろう。それから彼は入り江の外側を指さした。じっと目をこらすと、暗闇の中、兵庫水軍の船らしき舟影が、見えるところまで来ているのがわかった。
 勘右衛門は振り返る。牢の木枠の外にいる見張りは、向こうを向いて規則正しい呼吸をしている。……よく寝てるな、と苦笑して、舳丸に向かって、ちょっと待っててくれと言うように手で合図した。
 見張りや周囲の人を起こさないように音を殺して、剥がれかけていた壁板をそっと外す。それから、脚絆の中に仕込んであった棒手裏剣を出すと、なるべく音を立てないようにその先端で板に文字を書いた。
 ――人買い、船二隻。船に牢、人、十名強。もう片方の船は不明。船乗りの人数、数人ずつ程度。陸に仲間がいると思われる。
 それから、また足音を殺して窓のところまで行くと、その板を海へ投げ込んだ。
 海面に浮かんだ元壁板を、舳丸が拾って袴の帯に挟む。彼はもう一度勘右衛門に向かって手を上げて見せ、確かに受け取った、と合図すると、方向転換して泳ぎ去って行った。
 兵庫水軍がこの船に気づいて調査に来たのか、それとも他の五年生が連絡して助力を請うたのか。いずれにしろ、そろそろ脱出の算段くらいはつけてもよさそうだ。
 しばし舳丸の泳ぎを見守って時間をつぶしてから、勘右衛門は牢の木枠の方に移動した。眠っている見張りに、哀れっぽい声で話しかける。
「すみません、すみません」
……ん? なんだ、うるさいな、寝てろよ……
「いえ、すみませんあの、桶か何かないですか」
「桶?」
 見張りがやっとこちらを向いた。が、
「贅沢言うな」
 と言ってすぐに向こうを向いてしまう。おっくうそうに振られた見張りの手を、勘右衛門は檻の隙間からがっしり掴んだ。その袖にすがりつくようにして、
「でも俺、船酔いしちゃったみたいで、このままじゃ……おええ」
 彼に向かって盛大に吐くような仕草をする。
「お、おい! やめろよ! ……ああもう、放せ放せ、ちょっと待ってろ。おい、そこに吐くなよ!」
 そう言い置いて、見張りはバタバタと去って行った。
 勘右衛門は、今の一瞬で見張りの懐から摺り盗った鍵束を、そっと自分の懐に隠した。



 しばし待っていると、船の外がやや騒がしくなってくる。何かが始まったようだ。
 時は良し、と判断する。
 走り戻ってきた見張りが、「桶はなしだ! 我慢しろ!」と言い、不安そうに甲板の方を見た。
「桶はもうかまいませんよ。俺、酔ってないので」
「あ?」
 見張りが聞き返した時、にっこりと笑っている勘右衛門が、もう檻の外にいた。
 そして、見張りがそう認識した次の瞬間には、彼の意識は暗闇に落ちていた。
 勘右衛門は、見張りの鳩尾にたたき込んだ拳をそっと引っ込めると、気絶した彼の両手を檻の枠に縛りつけ、まだ眠っている檻の中の人々をいったんそのままにして、その場から消えた。