ウリュウ
2026-05-03 15:44:51
21458文字
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船遊びの夜

【RKRN】五年生、ほんのちょっとだけ水軍

五年生がおのおの実習をがんばる話。全部つながってます。
時代考証は素人です。
ある:あらゆる捏造  ない:CP

(目次)
 序 忍術学園           1⃣
 一、鉢屋三郎、ウシロタケ城にて  2⃣
 二、久々知兵助、街にて      3⃣
 三、不破雷蔵、ウシロタケ城下にて 4⃣
 四、竹谷八左ヱ門、忍術学園にて  5⃣
 五、尾浜勘右衛門、牢屋にて    6⃣
 六、五年生の船遊び ~終章    7⃣




   ●一、鉢屋三郎、ウシロタケ城にて


 ――屋根裏の掃除が行き届いてないなあ。
 鉢屋三郎はほこりまみれでこっそりとため息をついた。
 ウシロタケ城の屋根裏である。
 あまり沢山ほこりを被ってしまうと、降りて素早く変装しなければならない時にものすごくめんどくさい。屋根裏などそうそう掃除するところでもないが、やはり掃除が行き届いている建物とそうでない建物は、屋根裏のほこりのたまり方にも差が出てくる、気がする。この城はあまり管理が行き届いているとは言えないようだ。
 ともあれ、さっさと潜入してしまったのは自分なのでどうにか成功させたい。三郎はそっと体についたほこりを指でつまんで外しながら、頭に入れた今回の忍務の内容を反芻した。
 ウシロタケは最近、周辺の小さな城との戦に勝ち、急に領地がひろがった。それはやや経営に無理があるほどである。
 ――この城の規模でこの範囲を経営するのはかなり難しいのではないか。
 忍術学園はそう分析した。
 しかも、今回切り取った山向こうのその土地は、戦で荒れ、人が逃げてしまって、今は空き地のようになっているという。ここをどうするつもりなのか。
 侍の詰め所を作り人を置いているというから維持する意思はあるのだろうが、侍がいるだけの空き地の保持は金を消費するだけである。
 今回はウシロタケがこの土地をどうするつもりか、維持できそうかを確認するための諜報実習だ。
 三郎と雷蔵は昨晩ウシロタケ領に入った。
 雷蔵が順当に宿をとって、宿の中で人の話を聞きこみ始めたころ、三郎は森に入り、適当な樹の上で仮眠をとった。その後、見張りの出入りに乗じて城に忍び込んだのだ。変装の達人である三郎のこと、城から出てきた侍に化け、しばらく待ってから、その侍の姿で「忘れ物をした」と偽って侵入したのである。
 様子だけ見てすぐに外に出るつもりだったが、城の中にはやや疲れた空気が漂い、行き交う役人も目を合わせない。皆が互いに注意を払う余裕がないかのような感覚があった。思わず「いける」と判断した三郎は、屋根裏に上がって奥まで侵入を試みたのである。
 ここまでやるなら本来一人で行うべきではない。が、諜報に力を入れていない城で実際忍者はいないようだし、どうみても侍の数が少ない。警備もさほど厳しくないから、そこまで難易度が高いわけではないだろう。
 ――とはいえ、失敗すればただでは済まないのは間違いない。
 危険を近く感じる時の、首筋がひりひりするような感覚がある。正直なところ、三郎はこの感覚が嫌いではなかった。
 音を殺して歩き回り、間取りを頭に入れる。それから、三郎は夜半までじっと待った。



 雲に隠れた月が中天にかかるころ、三郎はそっと縁に降りた。
 そこに畳んだ手紙を置いて柱の陰に隠れ、詰めている役人の寝所すぐ外の縁に小さな石を投げる。一投。石はうまく縁を跳ねてこつんと音を立て、庭に落ちた。
 役人は目を覚ましたろう。そこへ、それより大きな石を投げる。二投目。また石は庭に落ちた。硬いものが床に当たる音だけが聞こえた形になるはずだ。
 部屋の中で人の動く気配がして、障子が開いた。寝間着姿の役人が縁に出てくる。彼は、三郎が置いた手紙に気づくと、不思議そうにそれを拾った。手紙を開くと、中には小さな文字で何か書かれている。役人は目を細め、紙から目を離したり近づけたりして何度も見返した。が、文字が小さくてよく見えない。やむなく庭まで降り、月明かりでその紙を確認した。
 猫の絵が描かれていて、二本の前足に丸がつけてある。その横に謎の文字列。
 ――ひれをのがやぼ、いもよがわ。
……なんだこれは」
 いたずら書きかとぶつぶつ言いながら、役人が念のためと同僚の部屋にそれを見せに行っている時、三郎はすでに役人の文机の下のつづらから、山向こうの土地の計画に関係しそうな書状を盗み出し、屋根裏に戻っていた。
 ……縁に置いた偽手紙の中身は、シーザー暗号である。猫の絵の二本の前足に丸をつけたのは、文字を前に二文字ずらして読めという指示だ。指示通りにいろはうたの文字の並びを前に二文字ずらして読んでいくと、「ひ」は「せ」、「れ」は「つ」……となっていき、これを続けて読めば「せっかくだけど、はずれだよ」となる。
 が、そこまで解読することができたとして、その頃にはすべてが終わっているだろう。



 ――さて、あとは……
 内心でつぶやき、三郎はまた移動した。
 侍の部屋のすぐそばでまたそっと柱の陰におりると、大声を上げる。
「大変だ、侵入者だぞ!」
 とたんに、居眠りしていた宿直の侍が飛び起き、近くの部屋からも人が出てきた。
「何っ」
「どこだ」
「姫様のご寝所の近くに何者かが現れたらしい」
「何だと」
「殿の寝所近くにもなにやら怪しげな書簡が投げ込まれたというぞ」
「出会え、出会え」
 混乱する人々が掛け合う声の中に巧みな声色で偽の情報を紛れ込ませる。それぞれ別の人が言ったかのように聞こえる侵入者の情報は、すべて三郎の声である。
 城の中は大騒ぎとなった。
 三郎は飛び出てきた侍の一人の顔を信じられない速さで記憶すると、すぐさまその顔に化けた。もはや隠れずに外に飛び出て門に向かう。
「侵入者だーっ!」
 そう叫びながらざわめく門番に近づくと
「おまえたち、誰も通してないな⁉」
 とやや高圧的に問いかける。
「通してません!」
「外にも内にもか」
「はい!」
「しかし、中にはもう見当たらないのだ。私は念のため外を見てくる。門を開けよ! 私が戻るまで誰も通すでないぞ!」
「はっ」
 まんまと門が開けられた。走って外へ出た三郎は、逃げた侵入者を探すようなふりをしながら城の壁伝いに回り込んで門番の視界から消えると、さっさと茂みに入り、侍の着物を脱いできれいに畳んだ。
 忍び装束になった三郎が、戦果の書状を懐に、そっと森の奥へ消える。
 夜半過ぎ、雲のかかった月の下、悠々と梟が飛んでいった。