ウリュウ
2026-05-03 15:44:51
21458文字
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船遊びの夜

【RKRN】五年生、ほんのちょっとだけ水軍

五年生がおのおの実習をがんばる話。全部つながってます。
時代考証は素人です。
ある:あらゆる捏造  ない:CP

(目次)
 序 忍術学園           1⃣
 一、鉢屋三郎、ウシロタケ城にて  2⃣
 二、久々知兵助、街にて      3⃣
 三、不破雷蔵、ウシロタケ城下にて 4⃣
 四、竹谷八左ヱ門、忍術学園にて  5⃣
 五、尾浜勘右衛門、牢屋にて    6⃣
 六、五年生の船遊び ~終章    7⃣




   ●二、久々知兵助、街にて


 味噌や醤油の焼ける匂い、話し合う人々の声。昼下がり、町外れの峠の田楽屋は、遅めの昼食をとる人で賑わっている。
 久々知兵助は味噌田楽を片手に、床几に腰を下ろしていた。ごく自然に周囲の人々の輪に入って話を聞き出す。
「えっ、そうなんですか?」
 尋ね返した兵助に向かって、話していた男は大仰に身振り手振りを加えて話し続けた。
「ほんとだよ。こないだの晩、田吾作さんが西側の山で山賊にあったっていうんだ。反対の方向に逃げてどうにかまいたらしいんだけどな」
「うわあ怖い。山賊なんて出るんですね」
「あたしも聞いたわよ。隣のお美代ちゃんが一昨日の夕方、危うく山賊と鉢合わせそうになって引っ返したって。裏々山って言ったかね。最近ここらへん、いるみたい。住み着いたのかしら……。いやねえ」
 向かいに座った女性が話に入ってくる。
「じゃあ、身ぐるみ剥がされたくなかったら、西の山や裏々山は通らない方がいいですね」
「いや、身ぐるみどころか、田吾作さんはどこかへ連れて行かれそうになったって言ってたぜ。海側に行こうとしてたって言ったかな」
「え、持ち物を奪われるんじゃなくて、人間ごと?」
「そうらしい」
「こわあ……
 味噌田楽をくわえてやや大げさに怖がってみせる兵助に、向かいの女性が本気で心配そうな顔を向けた。
「気をつけなさいよ。あんたなんか綺麗な顔してるから、つれてかれたらどこかへ売り払われちまうよ」
「お姉さんこそ、気をつけて」
「え……、やだよあたしなんか」
「いや、本当に。女の人は特に気をつけないと」
……あ、ありがとうねえ」
 思わずどぎまぎと目をそらしてしまった女性を見て、話していた男と田楽を持ってきた店主が顔を見合わせ、それから兵助を見る。視線を向けられた当人はごく真面目に目の前の人を心配しただけなのでしれっとしている。……顔が綺麗な青年がそれをやるとそれなりの破壊力があるのだが、久々知兵助、そこは無自覚である。



「ちなみに味噌田楽はおいしかった」
 真面目な顔でそう締めくくった兵助に苦笑を向けて、尾浜勘右衛門は兵助のつかんできた情報を小さな声で整理する。
「ええとつまり、最近西の山に山賊が出る、そいつらが人さらいをやってるかもしれないってことだな」
「ああ」
 街なかのうどん屋である。広めの店の中、端の席に座って、周囲のようすをさぐりながら、隣に聞こえぬ程度の声でそっと話し合う。
「今回の行方不明事件と関係があるのかはわからないけどね」
 そう付け加えてうどんをすすったた兵助に、「まあ、近い情報だからって飛びつくのは危険だけど」と前置きしてから、勘右衛門もうどんをすすって、それから目を合わせる。
「この状況で山賊が人をさらってるのかもってなると、気にしないという訳にはいかないよな」
「ああ。……田楽屋以外も行ったけど、山賊が出るって話自体はいろんなところで噂になってた。人さらいかも、って言ったのを見たのは、あのおじさんが初めてではあるけど」
「俺はいなくなった人の家族や近所の人に話を聞いてみたけど、どの人も出かけたきり帰ってこないみたいな話で、いなくなった場所が曖昧なんだよな。……ところで、さっきの山賊の話って、夕方から夜にかけての話ばっかりだった?」
「あ、そういえば俺が聞いた話は全部夕方か夜だったかも……。もしかして、夜に目立たないように人を移動させるために時間を区切ってるのか……?」
「しかし、もし山賊の仕業だったとしても、消えてる人数からすると、山賊だけでやってるとは考えにくいよな。さらった人々をどうこうするのは、人数がいないと難しい」
……後ろにもっと別の何かがいるとか」
 そこで二人は少し考え込んだ。なるほど、六年生レベルの課題かもしれない。だが、ここで止まるという選択肢もなかった。実際に人が消えているのだ。とにかく調べは進める必要がある。勘右衛門がどんぶりを持ち上げて、うどんのつゆをうまそうに飲んだ。
「まあ、まだ山賊が人さらいと確定したわけじゃないし、そうだとしてももう少し情報がいる。とりあえず山賊に遭ったという噂の時間帯とかを含めて、午後も調べて、日が沈む頃にもう一度、街外れのねじれ松のところで落ち合おう」
「そうだな」
 二人は勘定を済ませると外に出た。
「なんか行商人が多いな、今日」
 そう言った勘右衛門に、「確かに」と答えて、兵助は左に折れる。勘右衛門は右へ曲がり、二人はそれぞれまた別の情報を集めに回った。



 ――勘右衛門が来ない。
 夜である。日はとっくに沈み、街外れのねじれ松を、月が煌々と照らしている。
 兵助はあの後も街の噂を集め、わずかずつ情報を増やして、時間通りに待ち合わせ場所に来た。が、勘右衛門が時間になっても現れない。そのまま待機したが、少し遅れる程度ではなく日が沈んでしまった。この時間となるとさすがに異変を感じざるを得ない。
 兵助は動き出した。
 街を一通り見て回り、一度ねじれ松のところに戻る。それでも落ち合えず、合図の類いもない。兵助は今度は、山賊が出るという西の山に向かった。山守りの家系である兵助にとっては夜の山を動き回るのはそれほど苦ではない。ひとまず人の通りそうな道をざっと見て回る。山賊がいるかと思ったが、見当たらなかった。
 西の下り口を通り過ぎそうになって、兵助は立ち止まった。見落としそうな足下の端に、わずかな五色米と、ある法則で置かれた小枝や石がある。
 ――勘右衛門の合図だ!
 五色米は合図を見落とさないようにと蒔いたのだろう。
 月明かりでじっと見る。小枝と石の合図は「大丈夫」とあった。五年生で決めた法則に従った合図だったから、これは勘右衛門で間違いない。だが、勘右衛門からの合図であれば要領を得なさすぎる。
 ――この合図を作っている最中に、続きができなくなったのか。
 立ち上がり、口元に手を当てる。
 念のため 周囲をしばらく捜索したが、やはり見つからない。
 ――勘右衛門が大丈夫と言っているのだから、大丈夫だとは思うけど――
 こういうことの目算を間違う男ではない。
 気合いで無理をする方でもない。
 かなりの確率で、勘右衛門が大丈夫と言ったら大丈夫なのだ。そこには一種の信用があった。それでも、万一ということがある。
 ――学園に報告はしておこう。
 膝に乗ってきた小さな犬を撫でる。哀れっぽい声で鳴いた犬に少しのおやつをやって撫で、首輪をよく確認し、放した。ねじれ松に戻り、仮眠をとって翌朝を待ってみたが、朝になっても勘右衛門は戻らなかった。



 早朝から開けているうどん屋に入った兵助は、素うどんをすすりながら周囲の会話に耳を傾けていた。昨日の町なかのうどん屋とちがってこじんまりした店だが、腕はいいようで朝から活気がある。朝の打ち立てのうどんが、冷えた胃に染み渡った。
 勘右衛門の行方は依然として知れない。一度学園に戻ることも視野に、頭の中で昨日から得た情報を整理する。その兵助の思考が、横にいたおじさんたちの話し声に急激に吸い寄せられた。
「裏通りの酒屋の息子さんが?」
「そうなんだ。山賊につれていかれかけたらしい」
「えっ、その子、大丈夫だったんですか?」
 自然に会話に混ざった兵助に、話していた男が顔を向けて答える。
「それが、無事助かって家に逃げ帰ったって言うんだが、妙な具合でな」
「妙な具合?」
「山賊に連れて行かれそうになった時、知らない若い男がやってきて『おじさんたち、人さらい?』と山賊に声をかけたと言うんだ」
 猛烈にいやな予感がして、兵助はむせそうになりながらどうにか口に含んだうどんを飲み込んだ。
「そいつ、にこにこしながらしゃがんで、足下の石や枝をいじったりして、あげく『俺が代わりにさらわれてあげようか?』と言い出したんだそうだ。しかも山賊に縛られはじめたら大した抵抗もせず、ほんとにさらわれていったらしい。髪の長い、人のよさそうな、まんまるな目の男だったとか」