●序、忍術学園
外の竹林が、さやさやと音を立てている。
穏やかな正午だ。
竹林を撫ぜた風が吹き込んで、部屋の中央に置かれた二杯の暖かい茶の湯気を揺らしている。
茶の前には、それぞれ老人がひとりずつ、さし向かいに座っていた。庵の主人とその客である。主人の横には、器用にも正座している白犬が一匹。
障子が開け放たれ、ほどよい光と風が入ってくる明るい部屋は、それでも密談に使えるほど静かであった。
忍術学園の中にある庵である。
「なるほど、街で」
白髪の老人がそう言った。庵の主人こと、忍術学園の学園長である。
「さよう。ここ数日でもう六人になる」
答えた客の男が禿頭を傾けた。学園長の友人で元忍者の、金楽寺の和尚であった。普段の笑ったような穏やかな顔が、今日はやや曇っている。出された茶を手に取りながら、彼は続きを口にした。
「知り合いの忍者によると、近くの別の村からも人が何人かずつ消えておる」
「捨て置くわけにはいかんな」
二人はうなずき合った。
しばしの後、庵の庭に足音もなく二人の青年が現れた。
「お呼びでしょうか、学園長先生」
膝をつき、切れ長というには大きい瞳を上げてそう口にしたのは、五年い組の久々知兵助である。横で特に何も言わずに膝をついているのは、同じく五年い組の尾浜勘右衛門だった。そのまん丸の目がちらりと金楽寺の和尚の姿をみとめると、常人なら見逃すほどの一瞬に尾浜と久々知との間で視線が交わされる。特に何の表情も表には出さず目を伏せた二人は、この時点ですでに和尚がなにか相談事を持ってきたと共通認識をもった。果たしてそれは当たっている。
「忍務じゃ。今六年生が出払っておってのう」
「は」
本来なら六年生に与える難度の任務になるかもしれないと暗に言っている。
「鉢屋と不破は実習じゃったな」
「はい。今朝出立してウシロタケ領へ。竹谷も学園内にて実習を行います」
和尚と学園長が顔を見合わせたが、こちらも特になにも言わずに話が続けられた。
「街で人がいなくなる事件が続いておる」
「人が?」
尾浜が聞き返した。「うむ」と答え、続きを話したのは和尚である。
「寺に相談に来られた方が何人かいらしたのじゃ。こちらでも調べたが、どうも足取りがつかめん。山で迷子になったか、それとも
……」
そのあとを言わずに、和尚は言葉を切った。何であれあまり良い想像はできない事態だ。
「迷子にしてはちと多いの」
そう学園長が続け、和尚がうなずいた。
「お前たち五年い組にその調査を頼みたい。街に出て行方知れずになった人の状況や特徴を調べてまとめ、行方を探るように」
「は」
「すぐに出発いたします」
二人は綺麗な姿勢で頭を下げた
――が、久々知がすぐに上体を上げる。
「ところで、学園長先生、和尚様。ヘムヘムも」
「何じゃ」
「
……先ほどできあがりましたこの今までで最高傑作のお豆腐をぜひお召し上がりください! 任務後にご感想をお聞かせくださいね!」
奇術のごとくどこからか取り出したお豆腐が久々知によって人数分、驚異的な速さで並べられ、学園長と和尚が後ろにひっくり返り、尾浜がなんとも言えない苦笑いを浮かべ、ヘムヘムが独特の笑い声をあげた。
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