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ウリュウ
2026-05-03 15:44:51
21458文字
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船遊びの夜
【RKRN】五年生、ほんのちょっとだけ水軍
五年生がおのおの実習をがんばる話。全部つながってます。
時代考証は素人です。
ある:あらゆる捏造 ない:CP
(目次)
序 忍術学園 1⃣
一、鉢屋三郎、ウシロタケ城にて 2⃣
二、久々知兵助、街にて 3⃣
三、不破雷蔵、ウシロタケ城下にて 4⃣
四、竹谷八左ヱ門、忍術学園にて 5⃣
五、尾浜勘右衛門、牢屋にて 6⃣
六、五年生の船遊び ~終章 7⃣
1
2
3
4
5
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●三、不破雷蔵、ウシロタケ城下にて
宿屋で一泊した不破雷蔵は、今日は一日ウシロタケ領を歩き回ると決めていた。
まずは早朝から、新しい領地となった山向こうの土地を見て回る。噂通り、家は燃えたり打ち壊されたりしているし、畑は踏み荒らされているしで、これはなかなか大変だぞという感じだ。
その状況を頭に入れ、今度は街の中心部まで戻る。そこでいろいろと変わったことがないか、人の雑談に混じって聞いて回ることにした。
が、人々の会話に混ざると、三回に一回くらいの頻度で、『昨夜城に侵入者があったらしい』という話に当たって、苦笑を浮かべる羽目になった。
――
三郎、飛ばしすぎだよ。
苦笑の奥で思うことは胸にしまい、怖いですねえとかお城にだなんて大胆だとか相づちを言う。
捕まった様子はないし、朝、宿屋の外の地面に、かねて決めてあった『偵察無事終了』の合図が書いてあったので心配はしていないが、後で小言くらいは言っておいた方がいいかもしれない。
しかし、案外そのおかげでわかる情報もあった。
人々との会話の中で、忍び込まれた城の心配をしてみせると、「いや、いい気味だ」というような返事が返ってくるのである。
ウシロタケ城、どうにも平民からの信頼がない。
曰く、税が不当に高い。
曰く、やり方が強引である。
曰く、戦ばかりして領内のことはおろそかだ。
曰く、みなの不満を聴こうとしない。
曰く、新しい領地に無理矢理引っ越しさせられそうになった。
最後の話に至っては、役人をみんなで追い払ってやったという武勇伝つきである。
――
新しい領地に引っ越しさせられそうになった、ね。
雷蔵は顎に手を当てる。示唆的だ。あの場所を経営するに、もともとの領民を無理にそちらに住まわせようとし、失敗したということであるらしい。
どうも高圧的な割に、領民に完全に言うことを聞かせるほどの武力や威光があるわけでもなく、反発されるとうまく対処できないようだ。そのくせ人を無理に引っ越させようとするような無法をする、となると。
雷蔵は内心で概ねの話にまとまりをつけ、断じた。
――
ここの殿様は、領地経営が下手!
地の利や運で、たまさか戦に勝っても、得た土地を経営できなければ、土地を得た意味がない。この状態でうまくいくとは思えなかった。
で、この先あの土地をどうするつもりなのか。昨夜三郎がなにか具体的な情報を盗み出してきたかもしれないが、領内にいる間は連れがいないことにしておく手はずになっていたから、合流と情報の精査ははまだ少し先だ。
茶店の床几に座った雷蔵は、団子と茶を注文して、一息ついた。当然、ただの休憩ではなく、ここでも情報を集めるのである。
向かいの染物屋ののれんを眺めるふりをして、その実ぼんやりと全体の人の流れを眺める。ふと、歩いてきた行商人の動きが少し気になった。なんとなくの違和感だが、視線の動かし方が行商人のそれではない。ふと、昨日からこの町は少し行商人が多いことに思い当たった。
しめたことに、違和感のある行商人は、同じ茶店の床几に座ると、「ご主人、お茶と団子を」と言った。
雷蔵は判断を迷わなかった。即刻手を上げて店主に向かってにこやかな笑みを向ける。
「おばちゃん、ぼくもお団子のおかわりお願いします」
「あらお兄さん、よく食べるね」
店のおばさんが嬉しそうに、新しい客の分と雷蔵のおかわりの分の団子を持ってくる。礼を言って受け取った雷蔵は、嬉しげに団子を一つ頬張ると、慎重に時を見計らった。次の一本を手に持つ。
「あっ!」
手が滑った。
――
と見せかけて、雷蔵は行商人の団子の皿に自分の団子を落とした。
「ありゃ
……
」
いかにも情けなさそうな顔をして見せる。周りから笑いが起こった。
「あんた、ちょっとどじだねえ」
「兄さん、しっかりしなよ」
「いやあ、落としたところがお隣の皿の上でよかった。おいしいお団子を下に落としたら、悔やんでも悔やみきれないところでした」
「大げさだよあんた」
また笑いが起きる。雷蔵はにこにこしながら行商人に話しかけた。
「お兄さん、よかったらそのお団子、食べてくださいよ。まだ口はつけちゃいませんから。おたくの皿に落としちゃって申し訳ない」
「い、いや、私は
……
」
遠慮しようとした行商人の周りでまた笑いが起きる。
「よかったじゃねえか」
「もうけたね」
四方から声をかけられ、引っ込みがつかなくなった行商人は、やむなく「では」といって雷蔵にもらった団子を手に取る。
機を逃さず、雷蔵は行商人に雑談を装って話しかけた。
「お兄さん、何を売ってるんです?」
「む
……
いや、その、反物を少々」
「へえ、そうなんですか! どんな反物を?」
にこにこぐいぐいと人の良さそうな顔で迫ると、行商人は話に詰まっていく。
「いやその、今は商品を切らしていて」
「おや、そうなんですか! ではその荷物は?」
「これはその、自分の旅の」
「なるほどそうでしたか! それで
……
」
「急いでいるので、私はこれで! ご主人、お代はここに」
行商人は無理に団子を口いっぱいに頬張ると、茶もそこそこに席を立った。床几に代金を置くと、ほとんど走って去って行く。怪しい。
雷蔵は不思議そうな顔をして、
「あれ、そんなに急いでたのかなあ」
と声に出した。すでに雷蔵の空気に取り込まれている周囲の客たちが次々に話し出す。
「兄さん、ここらの行商人には気をつけた方がいいかもしれないぞ」
「え? 気をつけるって、何をです?」
「何売ってるのかよくわかんないんだよ」
「そうそう、最近妙にたくさんいるんだよね、行商人が」
「町外れでならず者みたいな連中と話してるの見たって人がいたよ」
店主のおばさんまで出てきて皆で話し出すので、雷蔵は適当に相づちを打ちながら、話が出るに任せた。
「こないだなんか、なんだかげっそりした人を連れて来たことがあってさ、その人が逃げ出して、行商人が走って追いかけていったりして」
「ええ
……
それ、どうなったんですか」
「逃げた人は外れの村に逃げ込んで、かくまってもらったらしい。みんな行方を訊かれても知らんぷりしてさ。その後は知らないよ。村の人がそっと逃がしてやったんじゃないかな」
「そうか。
……
この辺の人は優しいんですね」
雷蔵がにこりと笑うと、褒められた人々も悪い気はしない。
「いやあ、上がごうつくだから、あたしらは助け合っていかないとね」
「そりゃそうだ」
それから、雷蔵は視線をやや下に落とす。
「でも、行商人は
……
誰を連れて歩いていたんだろう」
「ま、何売ってるかって訊かれてあれじゃ、何してるのか怪しいよな」
皆がうなずき合ったところに、店の中から給仕の女の子が出てきた。
「お茶のおかわりはいかが?」
にこりと笑う。それが可憐な妙齢の女子であったため、店先の空気が緩んだ。雷蔵はふとその姿を見て、さっと立ち上がった。
「お嬢さん、お綺麗な方ですね」
そう言って彼女の前に立つと、お茶を受け取る。それから、
「お仕事が終わるのは何どきですか? よければぼくとお茶でも」
と言った。不思議といやな感じがしない、こざっぱりと爽やかで、どこか無欲な言い方だ。とはいえ、時ならぬ軟派に周囲がおおっと声を上げる。
「兄さん、案外やるな」
言われた女の子はちょっと笑った。
「いやですよお兄さん!」
と、気の強そうな声で言うと、女の子は存外強めに雷蔵の胸元をはたく。
「あたしはこの後も仕事です。他を当たってくださいね」
そう言って、つんと横を向いてしまった。にべもなくふられた青年ががっくりと肩を落とし、もらった茶を自棄のように飲み干すと、周囲がまた穏やかな笑いに包まれる。
「ま、しょうがないや。じゃあ僕そろそろ」
そう言って立ち上がり、すっかり平らげた団子の皿の横に代金を置いた。それから、「ごちそうさまでした」と笑顔を残して店をでる。女の子がやや意味ありげな笑みを浮かべて、「ありがとうございました」と応えた。
「いつこんなかわいい子が入ったんだい」とか「今日だけなんだよ、お父さんの都合でこの辺にいるから、ちょっとだけ働かせてほしいんだってさ」とか、そんな声が聞こえてくるのを、なるほどねと背中で聞き流しながら歩き出し、雷蔵は胸元に手を当てる。
茶屋の娘に化けた鉢屋三郎が、はたくふりをして懐に差し入れてきた書簡の存在をしっかり確認する。これに昨夜の戦果が書いてあるのだろう。
雷蔵は町外れの樫の木の下に向かって歩いて行く。木の上に止まった鳩が、独特のリズムで鳴いていた。
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