Privatter+
Font
Serif
Sans Serif
Color
Light
Dark
auto
Font size
Large
Medium
Small
Language
Japanese
English
Sign in with Google
Sign in with ID and password
Account ID
Password
Sign in
Forgot password?
Create account
deutzialaughing
2026-05-09 21:00:00
29926文字
Public
大穢
Clear cache
甌穴の海
大崎さんが人魚の青海さんと暮らす対話体SS集
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
36 |再訪
「大崎君」
「
……
また勝手に上がったんですか」
「声は掛けたよ。返事を待たなかっただけで」
「それを勝手に上がったと言います」
「厳しいなぁ。仮にもここ、俺の家なんだけど」
「今は自分が借りています」
「はいはい、そうだったそうだった」
「今日は何の用ですか」
「君の顔を見に来た」
「用がないなら帰ってください」
「あるよ。君の顔を見て、帰った方がいいかどうか決める用が」
「
……
」
「青海さん、だっけ? そっちにいるんだろ。元気?」
「お答えする義理はありません」
「いや、大家にはあるだろ」
「ありません」
「じゃあ折角だし雑談くらいさせてってよ。興味がある。多分、俺たち仲良くできると思うんだ」
「駄目です」
「扉越しでも駄目?」
「駄目です」
「すごいな。大崎君をここまで頑なにするなんて」
「お帰りください」
「まあ、そう急かすなよ。今日は差し入れじゃなくて、忠告」
「必要ありません」
「必要かどうかは君が決めることじゃない」
「
……
」
「君が何を守りたいのかは、俺にも何となく分かるよ」
「分かったようなことを言わないでください」
「分かるとは言ってない。何となく、だ」
「
……
」
「でもさ、大崎君」
「何ですか」
「守ってるつもりで、閉じ込めてることもある」
「
……
」
「そろそろ話してあげたらどうだ?」
「
……
今は無理です」
「だよな。俺が大崎君でも無理」
「帰ってください」
「はいはい。じゃあ今日は帰るよ」
「
……
」
「でも、次に来た時も同じ話をすることになりそうだ」
37 |守ること
「大崎さん」
「はい」
「昨日いらした方は」
「
……
静馬さんです。
……
すみません、聞こえていましたか」
「少しだけ」
「
……
」
「守る、という言葉が」
「そうですか」
「それから。閉じ込めるという言葉も」
「
……
青海さん」
「はい」
「自分は。あなたの行く先を狭めているでしょうか」
「
……
」
「すみません。答えにくいことを聞いてしまって」
「いいえ」
「
……
」
「選択肢は確かに減っていると思います。ですが。それをすべて大崎さんのせいだとは思いません」
「そうでしょうか」
「はい。今の私には。選べないことが多いので」
「
……
守ることと、閉じ込めることは。似ているんでしょうか」
「似ている時もあると思います」
「違いは」
「分かりません」
「
……
」
「ですが。扉があることを無かったことにしないなら。少しは違うのかもしれません」
「扉
……
ですか?」
「はい。今は開けられなくても。そこにあると覚えていることです」
38 |足元
「大崎さん」
「はい」
「身体の据わりが良くありません。少しだけ」
「
……
どうしました」
「足元が。うまく定まらないんです」
「痛みますか」
「痛むわけではありません。ただ。どこへ置いても少しずれるようで」
「
……
分かりました。少しだけ、体を持ち上げます」
「はい」
「背中と、
……
人間で言う、膝の下にあたる辺りに触れます。苦しければ仰ってください」
「はい」
「
……
この角度ではどうでしょう」
「先ほどよりは」
「
……
少し、足を曲げます」
「
……
いえ。戻してください」
「苦しいですか、」
「苦しいというより。収まりが悪いんです」
「
……
すぐに戻します」
「はい」
「これで、どうですか」
「
……
はい。少し落ち着きました」
「
……
良かったです」
「ですが。不思議ですね」
「何がですか、」
「自分の身体にも関わらず。誰かの手を借りた方が据わりが良くなることがある」
「
……
そういった日も、あるんだと思います」
「そうでしょうか」
「
……
恐らく、ですが」
「では。今日はそういう日なのでしょうね」
39 |支え
「大崎さん」
「はい」
「近くにいていただけますか」
「
……
近くに?」
「はい。昨日のように動かしていただきたいわけではなく。
……
近くにいていただけると。少し落ち着く気がするんです」
「
……
分かりました」
「すみません。
……
お願いします」
「
……
これくらいで」
「
……
」
「まだ、落ち着きませんか」
「
……
もう少しだけ。よろしいですか」
「
……
青海さん」
「はい」
「肩に触れても」
「
……
どうぞ」
「
……
」
「
……
大崎さん。これで十分です。
……
すみません。付き合わせてしまい」
「いえ。
……
少し驚きはしましたが」
「
……
昨日のような、身体の置き場というよりは」
「はい」
「自分がどこにいるのか。分かるような気がします」
「
……
」
「あなたが近くにいると。まるで身体の輪郭が戻ってくるようです」
「
……
それなら、良かったです」
40 |教えること
「今日は晴れているのに、少し湿っぽいですね」
「ええ。夜には崩れるかもしれません」
「分かるんですか」
「恐らくですが。入ってくる風が少し重いんです」
「風が重い?」
「はい。湿り気を含んでいる時の風は。肌に触れた後の抜け方が少し鈍くなります」
「
……
なるほど」
「それに匂いも違います」
「匂い、ですか」
「土と水が近づく時の匂いです。風だけなら思い違いかもしれませんが。匂いまで変わるのであれば可能性は高いかと」
「青海さんは、随分と人に教えるのが上手ですね」
「そうでしょうか」
「理路整然としています」
「それはあなたもでしょう。大崎さん」
「自分には、探偵という職があります。ですが青海さんはそうではないでしょう」
「
……
」
「
……
『そう』なんですか?」
「いえ。朧げではありますが。誰か教え子がいたような気がします」
「
……
人魚の世界にも、学校があるんですね」
「どうでしょう。学校かどうかまでは」
「少なくとも、教えることには慣れているように見えます」
「そう見えますか」
「ええ。青海さんの言葉には、人を急かさない安心感があります」
「
……
」
「相手が分かるまで待つ話し方をするでしょう」
「そうかもしれません」
「昔からそうだったんでしょうか」
「
……
どうでしょう。むしろ。私は待たれなかった側だったのかもしれません」
「待たれなかった」
「はい。出来ることを増やせば見てもらえる。上手く出来れば心に留めてもらえる
——
そういう考え方はあった気がします。少なからず」
「
……
」
「ですから。分からないまま置いていかれることが。少し怖いのかもしれません」
41 |戻る
「青海さんは、また教えたいと思いますか」
「昨日の話の続きですか」
「ええ。もし以前そういう立場にあったのなら、もう一度教えたいと思いますか」
「戻れたなら。そういう意味でしょうか」
「そちらの方が考えやすければ、それでも構いません」
「便利な言葉ですね。戻るというのは」
「便利、と言いますと」
「一言で済ませられてしまいますから。前のようにと」
「
……
前のようには、なりませんか」
「なりません」
「言い切るんですね」
「一度失くしたものは。同じ形では返ってきません」
「記憶も」
「はい」
「立場も」
「恐らくは」
「
……
では、戻るというより」
「やり直す。そう言った方が近いのかもしれません」
「教えることも」
「仮にまたそういう機会があるとしても。前と同じにはならないでしょう」
「それでも、教えること自体はどうでしょうか」
「
……
嫌ではないと思います」
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
Reaction
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.
Custom color
Reset color
広告非表示プランのご案内