nekosuimidori
2026-04-20 22:02:06
13128文字
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なみだなみだ不思議なるかな



 今から十五年前、齢十六で既にハンターとして働いていたウツシに届いたのはギルドからの緊急討伐依頼だった。
 曰く、『上位ハンター二名を捕食した雷狼竜を討伐せよ』。
 人の味を覚えてしまったモンスターを放置すれば、いずれ里や町に降りてくる。そうすれば人間の活動範囲は瞬く間に狭まっていってしまうから、ギルドから直々に緊急で依頼が来るのは不思議ではない。不思議ではないが、複雑な心持ちだった。ウツシは、いや、ウツシだけでは無い。この里の民は、この雷狼竜に並々ならぬ想いを抱いていた。
 なにしろ喰われたのは、カムラの里のハンターだったのだから。
 狩場となる夜の大社跡を訪れたウツシは、カムラノ鉄双刃を携えてデンコウとライゴウと共にジンオウガを探す。崖の上を悠々と歩く姿を見つけた瞬間、果たして上位二名を喰い殺したモンスターを自分がやれるのか、なんて考えは吹き飛び、気付けば青白い稲妻を帯びた巨体に斬りかかっていた。
 そうして鶏鳴の刻の頃にはもはや互いに血だらけで、あと一撃入れればどちらかが倒れるだろうという時に『それ』は訪れた。
 自分と相対する獲物以外が世界から消えたような一瞬だった。
 今ここで狩らねば己がこの地に伏すのだと最後の力を振り絞って駆け出した瞬間、ウツシには世界がやけに鮮明に見えたように感じた。風の音、木々のざわめき、そして聴こえるはずも無い目の前の獣の脈拍が静かに耳を打つ。ふつふつと沸き立ち、しかし何処か光届かぬ水底に揺蕩うような不思議な感覚に支配されて、『殺せ』と訴える本能のままに体が動く。鋭い爪が己の肉を、骨を削るのも気にせず獣の喉笛に刃を埋めた。
 交錯した一瞬の後、大地に伏したのは雷狼竜だった。鮮血が巨躯から流れ、土に滲みきらず池を作り始めるのを見てウツシもその場に倒れ込む。
 そうしてそこで意識は途切れた。