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nekosuimidori
2026-04-20 22:02:06
13128文字
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なみだなみだ不思議なるかな
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ウツシが任務から戻ったのは、月が頂から下り始めた頃合だった。
フゲンへ任務の報告をした足でそのまま愛弟子の自宅へ向かうが、人どころかオトモの気配すらしない。もしかしてクエストから帰っていないのかと集会所へ向かうと、書類整理を終え帰ろうとしていたミノトに出会う。話を聞けば愛弟子はまだ日が照っているうちに帰ってきているらしかった。
ならば時折手伝っていることがあるからとたたらばに顔を出してもいつもの炭焚と番子以外はおらず、里周辺を散策しているのかと一周してみても見付けられない。
後はどこだと頭を抱えていれば、船着き場の方から歩いてくる人の姿が見えた。
「おおい、ウツシよ」
こんな夜分遅くに一体誰かと思えば、クエストに出る際に船を出してくれる老いた船頭だ。ここ最近はもっぱら愛弟子のお付の船頭となっているが、こんな時分でなければウツシも彼の船に乗って狩猟に出ていただろう。
「どうしたんです、こんな夜分に」
ひらりと手を振りウツシの名を呼ぶ彼に駆け寄る。先程よりも大分月は傾いて、人の気配などほぼ無いに等しい時間だ。集会所もとうに閉められ、クエストに出る人間などいないというのに。
「お前さんを待ってたんだ」
「私を、ですか」
「そうだ」
彼の言葉に首を傾げる。特段思い当たる節が無いが、なにか依頼でもあるのだろうか。
「忙しいのは百も承知だが、お前さんの弟子にどうか声を掛けてやっちゃあくれねえかい」
「私もそのつもりで彼を探していて
……
彼に何かありましたか?」
「まあ落ち着け、焦る様なもんでは無い
……
とは思いたいが、あの様子はちぃとなぁ
……
。とりあえず行くか、話は船の上でだ」
思わず前のめりになったところを宥められ、向かった先はオトモ広場の一番奥。修練場へ向かうための小舟に乗るように促される。
どうして彼の居場所を知っているのか聞くと、クエストから帰る船の上でしばらく修練場にいると言われ、二刻ほど前に修練場から帰ってきたセキエイと偶然会い「コルムさんに片付けはするからしばらく使わしてくれと言われたニャ」と教えられたという。
(まさか、昼からずっと篭っているんじゃないだろうな)
まさかとも思うが、真面目が過ぎるあの子のことだ。ありえない話ではないと頭が痛くなった。もし懸念が当たっていたとしたら最低でも四刻は修練場にいることになる。
食事と睡眠、つまりはしっかり休息をとることが第一だと教え込んだはずだが、どうにもきちんと理解されていないらしい。
「今日もあの子を運んだんだがね、あらぁいけねぇ。完全に『あちらさん』に呼ばれちまっとる。いや、あいつの場合じゃ『帰ってきてない』って方が正しいか」
「それは
……
」
最愛の弟子にどうお説教しようか悩んでいたが、船頭の言葉にハッとする。彼の言葉は、つい先刻茶屋で聞いたものと同じではないか。
「ヨモギちゃんも同じことを言っていました。『迷子みたい、帰ってきていない、何処か遠いところを見ているようだ』と」
「おお、いやはや流石に人を見る目が鋭い。あの子も立派な商人だな」
船頭は感心したように笑うが、すぐに表情が引き締まる。
「他所の港の船乗りの間じゃあ『海の中に住む女の美しい歌声を聴くと連れていかれる』なんて言われとるらしいがな。まあ各地でそうやって言われるくらいには儂ら船乗りも時々呼ばれることがある」
「呼ばれる、ですか」
「きっとお前さんにも覚えがあると思うぞ。儂らとは表し方が違うだけでな」
櫓を漕ぐ手は止めずに言う彼の視線は穏やかに波打つ水面を見ていた。
「どうにも意識が離れん時がある。そこに行かなきゃならん、それをしなきゃならんと頭ん中で声がする。そりゃ違うと振り払うってところにゃなかなか辿り着けねえ。なんたって、それはそうあるべきだと自分が思い込んじまっとるからだ」
「そう、あるべき
……
」
「まぁ大概は自分でどうにか戻ってこれる。何人かで乗ってりゃ誰かの声掛けで戻ってくる時もある。
……
戻ってこれない奴はそのまま連れてかれちまうってことだが」
ウツシは無意識のうちに自身の頬から額にかけて走る傷跡を指でなぞった。まだ今より幾分も若い時分に狩猟で負った、消えることの無い苦い過去だ。
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