あつき
2026-04-11 21:00:00
31863文字
Public
 

我は吸血鬼ハッピーエンド大好き

往生際の悪いロくんがループ&ループするお話。


(おっしゃーー!!もう全部済ませた!!怖いものないぜ!!)
 数日経った新横浜のとある夜。気分も晴れやかに揚々とハエ叩きの威力を奮っていた時、聞き覚えのある高らかな名乗りがロナルドの耳に届いた。
「ハーーーッハッハッハァーーッ!!退治人どもよ覚悟しろ!!我は吸血鬼ハッピーエンド大好き!!」
「吸血鬼ハッピーエンド大好き!?」
(あっ、ハピエン大好き!?あいつ出る時期、こんくらいだったか……
 心配事が消えたおかげですっかり存在を忘れていたが、全ての始まりはこの日の夜、このポンチの登場からだったことを思い出した。
「平和ボケしたような名前だが、どんな特殊性癖を持っているか分からんからな。五歳児はアメちゃん貰って付いていくなよ?」
 今のロナルドには後悔してることなどないので、もう巻き込まれる心配はない筈だ。なにせ原因となった吸血鬼は、ロナルドの横で今日も元気に茶々を入れてきているのだから。
 心配しているかも知れないとしても言い回しは常の通りムカつくので、ハエ叩きをうっかり当ててしまうことにした。塵が文句を叫んでくるのでロナルドも言い返して、これも常な応酬を繰り広げていると、聞き覚えのある台詞があたり一帯に響く。
「そこの同胞よ!!後悔しているな!?」
「はあっ!?」
 声に振り向けば嘯くポンチはびしりと指をこちらに向けてきていた。一瞬自分に向かってかとロナルドは焦ったが、よく見ると僅かに軌道がズレている。そして“同胞”とポンチ吸血鬼は呼んだ。隣をみれば砂になっていた同居人兼恋人は既に復活していて、片眉を跳ね上げているところだった。
(えっ!?ドラ公………!?今度はドラ公が後悔してんの!?)
「ま、待て!!」
 思わずドラルクが口を開く前に、制止の声を上げた。
 ようやく気付いた、ずっと胸につかえていた、しこりの正体。
 やり直せばやり直すほど、共有出来ない記憶が増えていく事が嫌だった。もしドラルクがオルゴールを使ったら、今のこの時間は無かったことになってしまうのだろうか。忘れられたくないと思うのと同じくらい、共に過ごしたひとときを忘れたくなかった。本当は道具になんて頼らず、一緒に話し合って共に歩める未来を探りたかった。
「もうお前との時間を失いたくない。だから、俺のことでお前が後悔してる事があるなら教えてくれよ」
 ドラルクが目を見開いて動かない間にも、ロナルドは更に言い募る。
「俺だって、こんなずるいことしたくなかった!でもお前が悪いんじゃん!!何やっても俺を置いて出ていくから!!」
 子供じみた言い訳を喚いたって、事情を知らないドラルクに伝わる筈が無く意味がない。頭では理解しているのに、鬱屈とした気持ちの行き場がなく、みっともなく吐き出してしまった。
 何だ何だと、退治人たちが騒ぎを聞きつけてワチャワチャどよどよ騒ぎ始めた。それまで呆けたように立ち尽くしていたドラルクが、ようやく口を開いた。
「私IQ五億あるから分かっちゃったかも」
 ひとりごちると、ドラルクは騒ぎの中心に立つ人物へ話を振る。
「同胞よ、オルゴールについて知っているかね」
 自分しか知り得ないと思っていたオルゴールの存在が、ドラルクの口から出たことにロナルドは全身を凍りつかせた。ポンチ吸血鬼も一瞬、面食らったように目を見開いた。しかしすぐに心得たようにニヤリと笑い、懐を探った。
「何回目のやり直しだ?何度でも、存分に使うが良い」
 差し出された手のひらには、件のオルゴールが輝いている。
「これをどこで手に入れたか聞いても?」
 躊躇なくオルゴールを受け取りながら、ドラルクは尋ねる。
「強大な力をもった親切な御方から、秘匿することを条件に賜った。我にはせいぜいこれからの軌道を、何もしなくても起こり得る範囲で変える力しかないからな」
 幸運を祈る、そう告げるポンチにどうもと礼を告げると、ドラルクはロナルドの元へ戻ってきた。
「ロナルド君、一緒に回して欲しい。恐らくだが、同時に過去を遡れるはずだ」
 まだ状況が飲み込めず、鼻白んでロナルドは後退りする。
「はっ!?お前なんで知って……!いやいやいや!ていうかさっきの俺の言葉聞いてた!?俺はもう、これ以上……!」
「これが最後だから。今すぐふたりだけで話がしたい」
 騒いでいる退治人連中もただならぬ事態を察したのか、一角からやんややんや声が上がる。
「なんか知んねーけど、回してやれよロナルド!」
「後の処理はやっとくから仕事の事は気にすんな。今度クリームソーダ奢れよ」
「やだぁ修羅場?ドラちゃん!!ロナルドを泣かせたら承知しないわよ!ちゃんと話し合ってね」
 ドラルクはロナルドが何かをねだると、どうにも弱いと悔しげに言うが、ロナルドだって「お願いだよ」とねだる姿に、滅法弱いことをこの吸血鬼は知っているだろうか。危険思想の少ないポンチの後処理はあまりない事も知っているし、同僚たちに後押しされずとも、頼まれた時点で答えは決まっていたのだ。
……ふたりになったら説明しろよ」
 小さな取っ手はふたつの指で巻くことは難しく、ロナルドはひやりとする手にそっと添えただけのようになってしまったが、次第にドラルク以外の風景がグニャリと歪んでいくのが分かった。