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あつき
2026-04-11 21:00:00
31863文字
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我は吸血鬼ハッピーエンド大好き
往生際の悪いロくんがループ&ループするお話。
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つむじ風が景色を押し流し、急激に収まれば唇を押しつけていた。
あの日と違うのは、肩を押されることはないということだ。
(またかよ!!お前がその気だったってことは、分かってんだよォ!!)
来ないならばこちらから、掴んでやればいい。先手必勝と威勢をつけて、しかし殺さないよう、力加減は念頭におく。
「ドラルクッッ!!」
肩を掴む加減には成功したが、死にやすい吸血鬼の耳は大声だけでそこそこ崩れ落ちる。全壊は避けたので、自分にしては及第点だと話の本題に入る。
「俺が好きなら待てるよな!?」
「えっ?あっ、うん?」
いまいち賛同を得ていないような生返事だったが、構わず続ける。
「一ヶ月でかたをつける!!」
「何で決戦へ赴く強戦士の顔してるの?」
ますます意味が分からないと言わんばかりに首を捻るドラルクに畳み掛ける。
「一ヶ月後、この予備室に来てくれ」
「はあ
……
?まあいいけど」
ただならない気迫に圧倒されたのか、約束を取り付けることに成功した。決意を新たに、胸の内で闘志を燃やした。
(今度こそ躊躇いを悟られない、いや、躊躇いなんか無くしてしまえばいい!!)
元来生真面目なロナルドは、敵を知らないから怖いんだと結論づけた。ドラルクが寝静まってから、夜な夜な、ではなく光の差し込む明るい真っ昼間に、場違いなサイトを立ち上げる。
(
……
えっ、これどっち?)
のっけから躓いた。
どうしても体を繋げたいのであれば、どちらかが受け入れる必要がある。何をとは、皆まで言わないが。ドラルクがどちらを望んでいるのか分からず途方に暮れる。直接聞くのも憚られる。というかそんなこといちいち聞いてたら窓から飛び出す自信がある。事務所の窓修繕費がいくらあっても足りなくて、可愛いジョンにため息をつかせてしまう。それだけは避けなくては。分からないなら、どちらに転んでも対処出来るよう準備する必要があった。
ネットで信憑性が高そうな記事を参考に、Howtoを学んだ。具体的な情報を目の当たりにすると、心折れそうだった。本当に、ドラルクはここまでしたいんだろうか。毎日爽やかな朝日の中で得た知識に、頭痛がしてくらくらしてきた。
泣き言を言っても事態は解決しないので、ロナルドは今出来ることを粛々とこなした。具体的な行動については、赤裸々に思い出すとロナルドの尊厳が削られそうになったので割愛する。全てを秘密裏に執り行った。
そうしてついに、決戦の日がやってきた。予備室でふたりきり、ドラルクとロナルドは向い合せで仁王立ちしていた。
(さあいつでもきやがれ!!)
完璧かどうかは分からないが、ロナルドはこの一ヶ月、全力を尽くしたつもりだ。どんとこいやと自信満々に腕組みをしていると、拍子抜けする程あっさりとした声がかかった。
「それで、ロナルド君」
「
……
あん?」
「待てと言うから待ったんだが、何を始める気だ?」
ぽかんと間抜けに口を開けっぱなしにしながら、思い違いにようやく気付いた。
迫られる前にと牽制したので、当たり前ながらこの世界線でロナルドはドラルクから押し倒されていない。つまりは、現状ドラルクからは誘われていないという事実を、完全に失念していた。
(
…………
えっ?これどうすんの?)
押し倒される気満々だったので、それ以外のシミュレーションはしていない。内心冷や汗をかきながらおたおたと次の一手を迷うロナルドに、ドラルクは疑惑の目を向けてくる。
(俺から押し倒すか?
……
いや、こいつ確実に砂になるな。砂でも続行すればいい話だけど、だけども俺は、ひとりお砂遊びがしたいんじゃない)
そうじゃないけど、こちらから動くしか。
詰めが甘い自分を叱咤激励して、ええいままよと、死にやすい吸血鬼の体が塵に帰らぬよう、力ずくではなく腰をなるだけそっと抱き、足をすくい上げて持ち上げた。
「オワッ!えっ、ロナルド君!?」
俗に言う、お姫様抱っこの体勢へ持って行き、すぐに優しくマットレスの上へ下ろした。焦る吸血鬼へ覆いかぶさるように手をついて迫り、なけなしの勇気で囁いてやる。
「もし、お前が望むなら
……
やるよ、俺で良ければ」
囁きだって易々と届く距離だから、潜めた声で十分だった。このドラルクではないが、ループする前のお前が『欲しい』と言ってくれたから。お前がそう、求めるならばと、どうか伝わってくれと返答を待った。
果たしてロナルドの囁きは必要にして十分な威力があったようで、ドラルクは興奮に頬をさっと染めて目を見開き、上体を起こして肩を押してきた。押されるのは二度目なので、意図を理解して安堵とも嬉しさともつかない感情が湧き上がる。だけどひとり勝手にとはいえ散々奔走した分、ちょっとだけ意地悪したくなる。
「かっっった!!!動かざること山頂のゴリラのごとし!!おい、さっきの殊勝な言葉はなんだったんだ!?ここは君が押し倒される場面だろ!!」
ドラルクはぷるぷるしながら必死に押しているが、ロナルドはびくともしない。
「俺が毎度協力するなんて傲ってるからだよ」
痛くも痒くもない言動をへへんとせせら笑ってやり、まあ溜飲は下がったことだしと、ぐいんと細い腕を引っ張りながら自身はマットレスに倒れ込み、乗り上げさせてやる。ドラルクは顔を一層真っ赤にして、体のあちらこちらが崩れてパラパラと塵がロナルドへ舞い降ってきた。押し倒されたというよりは引っ張り上げた感じだが、結果は同じだから問題ないだろう。
「その通りだよ、バーーカ」
んぐと喉から変な音をドラルクは出して、欲を隠さないギラギラとした目で問いかける。
「
……
協力、してくれるのかい?」
それは、どこまでだと、耳を擽るように囁き返される。強い熱情を秘めた低い声に、背筋がぞくりと震える。でもこれは、決して嫌な感情によるものではなかった。
「お前がどうしたいかによる」
「どうって?」
「俺にその、つ、
…
突っ込みたいのか、突っ込まれたいのか、どっちだよ?」
「
…………
」
まるで予期しない問いを受けたように困惑を浮かべて押し黙る吸血鬼に、もどかしく急いてしまう。こっちは窓を突き破るのを堪えて聞いてるのだから、そのくらいすぐに答えてくれなければロナルドだって困る。
「どっちか分かんなかったから、どっちでも良いように頑張ったくらいには、お前に協力、したいと思ってる」
「はっ?えっ?きみ、まさか!」
ドラルクは嘘でしょ、とひどく動揺して、躊躇いがちに言葉を続けた。
「私を受け入れようと、ひとりで頑張ってくれたの?」
「はあ!?そりゃあやるならひとりだろ!!あんな姿、誰にも見せてたまるか!」
例え恋人の吸血鬼に頼まれたってごめんこうむると、風呂やトイレでの惨事を思い出して恥ずかしさに声を荒らげると、違うそうじゃないと、ドラルクは唸って頭を抱えた。そんな恋人にロナルドはどう声をかけるか迷っていると、予想していなかった優しい声が返ってきた。
「大変だったろう」
気持ちに寄り添うように、ドラルクは真っ直ぐな温情を見せる。
「え、まあ、そうだな。そりゃ、それなりには」
なにせ出口を入口に仕立て上げようとしたのである。大変か大変じゃないかでいえば、それはもう大変だった。しかしそんなにも真剣に労われると、腰がムズムズして居た堪れない心地になる。そわそわと落ち着きのないロナルドに、やはりドラルクは大真面目な顔を崩さなかった。
「それは、きみの真意であるのか」
淡々としていながら、突き刺さるような台詞に息を呑む。躊躇いを払拭した今ならば、ドラルクにも、自分にも納得いく答えを示せるだろうか。
「そうだ。それくらい、お前が欲しい」
喉から自然に、言葉は迷いなく滑り出ていた。自身への問いかけは杞憂であり、答えは決まりきっていたようだ。
――
お前が言ってくれたように、俺だって、お前が欲しかった。
いつもなら不真面目極まりない吸血鬼は、こうして肝心な場面は誠実であろうとする。そんな男だから、手に入るならどちらが受け入れるかなんて些細な違いだと思えた。
顔の横に突かれた細腕でも、薄いマットレスは沈み込む。沈む影に視線をちらりと向けて、ドラルクはロナルドに目線を戻した。
「これ、君が買ったの?」
「そうだけど」
ドラルクに押し倒され(てやった)あの夜、場所の変更を強く誓った。ソファでことに及ぶのは絶対に回避しなければ、日常的に過ごす場所でそんなことになれば、翌日から横を通るたび、ソファが視界に入るたび、毎日羞恥に悶えて過ごす自信があったからだ。“そういったことに使うもの”と思うと生々しさがあって、じっくり選ぶのも恥ずかしく、死にやすい吸血鬼が床の痛みで死なないよう最低限の緩衝材になればいいと、ネットで適当なものをカートに放り込んだ。
そんな経緯など知らないドラルクは、ふぅんと考え込む素振りを見せる。
「次は私に選ばせて」
次、
………
次があるのかと、そのまま冷たい唇に塞がれて、裾から滑り込む手を感じながら薄ぼんやりと考える。
この夜を越える為に無我夢中だったが、冷たいのに熱をもたらす手が、この日が始まりだと教え込むようで、茹だる頭に逆らわず意識を委ねた。もう余計なことは考えず、考えられもせず、耽る夜に沈み込んだ。
*
(あーー
……
しちゃった
……
ドラ公と
……
)
翌昼、もとい同日昼にドラルクより先に目覚めたロナルドは、隣に眠る吸血鬼に幻覚の可能性を見いだして、己の目と脳に疑いをかけていた。
恋人と思わしき生き物は、肩まで布団を引き寄せてそっぽを向いていて、そろりとのぞき込んでも暗がりに溶ける黒のくせ毛と固く閉じた左目が僅かにしか見えない。
完全遮光の室内に光は届かなくて、輪郭を視認するのがやっとこさ。けれども外はお天道様の登りきったまっとうな昼間で、棺桶ではない場所で眠る吸血鬼がどうにもちぐはぐで現実味がない。
別段後悔があるわけでもないが、なんだかずっと夢をみているような、どこか他人事のような気がして、ふわふわとした心地から抜け出せない。
これは存在証明が必要だと、掛け布団からはみ出していたくせ毛に指を梳き入れてかき混ぜる。思ったより柔らかく触り心地の良い髪の毛をくしゃくしゃ撫でても、目覚める気配がまるでない。
反応がないことに何だかますます寂しくなって、でも布団を捲る勇気はなくて、そのまま上からぎゅうと抱きついた。布団越しでも分かる細くごつごつした体の線は、抱きしめたことのないはずの理科室の骨格標本を想起させた。骨に皮を張り付けたような存在は、物理の圧力にようやく気付いたのか、もぞもぞと動き出した。体温すら主張は弱いけど、ここに確かに生きている。愛しさに布団をよりかき抱くと、喜びのあまり力加減を誤ったらしい。刹那に手応えがなくなる。「ギョエッ」短い断末魔がくぐもって響き、布団からは僅かにはみ出した塵しか見えないが、どうやら抱きしめている中も同じ事態のようだ。
直後、やかましい文句が飛んでくる。
「おいッッ!!寝起きに圧死させるやつがあるか!!君ってやつは毎度毎度、起こし方ってもんがあるだろう!もうちょっと考えろ五歳児!!」
憤慨して捲し立ててきたが、ロナルドが口を挟む間もなくドラルクは自ら唐突に、ぴたりと剣幕を止めた。
「
……
いや、訂正しよう。褥を共にした恋人に五歳児呼ばわりは不適切だったな。どうした」
――
ロナルド君。名前を呼びながらゾワッと塵をかき集めて再生したドラルクは、布団から肩まで覗かせて半身を起こす。
衒いない視線を寄越す赤の小さな瞳が、返事を待っていた。
降りた前髪も裸の上半身も見慣れなくて、自分もかろうじてパンツを穿いている状態が急に心許なくなり、じわじわと実感が訪れて恥ずかしくなる。
「あ、
……
の、その」
「んー?」
いつもと変わりないようで、でもやっぱり優しく感じる表情も目線も、ロナルドだけにただ向けられている。ほらどうした若造と、優しく前髪をかきあげてくる指や所作全てに、丁寧な扱いを受けていると実感させられる。
「さては先に起きて寂しかったか」
にんまりと牙を見せて笑いながらこちらを覗き込む顔は意地悪なのに、愛情を含ませた声音に言い当てられて、強がりも言えなくなる。
こっくりと頷けば、「ぶはっ!!本当にどうした。やけに素直じゃないか」笑いながら髪を両手でくしゃくしゃに混ぜ返されて、額にキスが落とされる。
「ヴェ」
「寂しくさせて悪かった。でも私、そろそろ棺桶に戻りたいんだけど。一緒にあっちで寝る?」
「ヴェヴォアァァ」
「君どっから声出してるの」
体を震わして笑うドラルクに、「うるせえこちとら全部初心者なんじゃ昼間に甘い雰囲気作んな耐えられず俺が死ぬ」と早口で告げて砂にする。
「甘えてきたの君だろう!?」
理不尽さはロナルドも分かっていたので耳が痛くていたたまれず、子供のように拗ねて布団を頭から被り非難から逃れる。それもしっかりバレているようで、今度はドラルクが布団越しに抱きしめてきた。
「万年純情ルド君、少しずつ慣れていこうか」
寛容な言葉だが、ロナルドはちっとも慣れる日が来るなんて思えなかった。
「なあ、私も君の顔が見えないと寂しいよ。君が昨日私を招いてくれたことは全部、夢だったのかもしれないと不安になる」
やたらと今日は素直で、普段は高飛車な吸血鬼があけっぴろげに弱気な面をさらしている。それがどうにも耐えられなくて、勢いをつけて布団を押し退けた。
「ヴァーー!!ちょっと立ち上がるなら一言入れて
……
ひえっ!?」
一度死んですぐに再生したドラルクの足を、本日二度目になる要領ですくい上げて抱き抱えた。
「行こうぜ。俺も入っていいんだろ、棺桶」
「ワオ。不覚にもときめいちゃう」
何もかもどうでもよくなって、欲のままにふたりで棺桶に滑り込んだ。
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