葵月
2026-04-04 22:18:15
9347文字
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十五夜とラーメン

・平和軸
・王最
・二次創作
・ラーメンが食べたかった
・王馬くんのもういいよが見たかった
・なんでも許せる人向け




うるさいと何度言っただろう。

よく回る口も、嘘泣きも。
塞ぐように唇を合わされば、意地の悪い笑みを浮かべやり返してきた。


今は、あの声も、顔も、恋しい。



王馬くんはきっと気がついている。
人間食べなければ死ぬ。どうしても食事を取るという時間が発生する以上、そこに無理やり入り込んでしまえばいいと僕が考えたことに。

だから、こういう店ばかりを選んでいたのだろう。



僕も王馬くんの真似をしてどこに住んでいるかも分からないキミに向けて、気球からこの想いをしたためた手紙をばらまいてみようか。なんて、出来もしない事を考えながら、暗くなった街を歩く。

営業を知らせる蛍光灯。
まだまだこれからだと活気溢れる乾杯の音頭。

どれもこれも今の僕には不釣り合いなものに思え、増えてきた人混みの中を転ばないように歩いた。


だから、気が付かなかった。路地裏から伸びてきた手に。


背中に柔らかい痛みと、ニンニクととんこつの匂いを感じる。
僕の襟を引っ張った、僕より一回り小さな青白い手は今は口の上に置かれている。


「一人前の探偵のくせに何やってんの」

聞こえてきた声に、心臓が跳ねた。
不機嫌が滲む声、ずっと聞きたかった声。


「ラーメン屋出てからずっと尾行されてたんだけど。あの殺気に気が付かないなんて、一人前の称号返上した方がいいんじゃない?
それとも今からでもオレの組織に入って専属探偵にでもなる? まずは一年、下っ端としてグラウンド整備とボール磨きからね。二年前の恨みを込めて、同じようにこき使ってやるからな!」

「この人混みの中だったら、次の角で撒けるかなって。
……ところで、王馬くんの組織って、強豪校の野球部なの?」

「何言ってんの? 見てよこの脚。このハイソックス焼けを見てもそんなこと言えるの?」

「ズボンで見えないし、そもそもキミの体。日焼けひとつなかったよね」

「悪の総統にはそんな小さな球追いかけ回して遊んでいる暇はないからね! 夢は大きく!狙うはお月様だよ!」

「百田くんに怒られるよ」


意味の分からない嘘が懐かしくて、思わず笑みがこぼれる。
いつの間にか口元から離れ、僕の腕の前で交差されている腕をそっと手のひらで包んだ。


「王馬くん、謝っても許されないことをしたのは分かっているんだけど。それでも、キミを傷つけてしまったことだけはどうしても謝りたくて……
キミが、家族のように思っている人達に会わせてくれようとした気持ちを裏切ってしまったこと、そんなキミの大切な人達の時間を三回も奪うことになってしまったこと、約束を守れなかったこと。ごめんなさい。

それと、これまで忙しい中時間を縫って会いに来てくれてありがとう。
……それにも気が付いてなくて、本当に、ごめん」


王馬くんは何も言わない。
でも抱きしめられた体が締め付けられるように痛んだから、これを返事と受け取って続けた。


「蔑ろにしたかった訳じゃないんだ。……言い訳だけど、ひとり立ちしてから仕事のペースが掴めなくなってしまって……
でも、キミが総統という役割を大切にしながら、僕のことも大切にしてくれていたように。僕もキミみたいに、キミのことも、キミが興味を持ってくれた探偵としての僕も大切にしてみせるから。

……だから、これからも傍にいてくれないかな」


まだ口は開かれない。今度は体が伝えてくれる返事も、ない。


「お願いだよ、王馬くん……。何でもするから、もう一度僕にチャンスを──」

「えー、そんなつもりじゃなかったのになー! でも最原ちゃんがどーしてもっていうなら、受け取ってあげよっかなー!」



急いで振り返るといつもの意地の悪そうな笑みは深みを増し、アメジストの瞳は三日月みたいに歪められている。

……あぁ、しまった。
キミ、その言葉を待っていたんだろ。


「そもそも最初から怒ってないって言ってるのに」


王馬くんのその言葉は、これから先のことを考え、頭痛がし始めた僕の頭の中には残ってくれなかった。