葵月
2026-04-04 22:18:15
9347文字
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十五夜とラーメン

・平和軸
・王最
・二次創作
・ラーメンが食べたかった
・王馬くんのもういいよが見たかった
・なんでも許せる人向け




『好きの反対は無関心』とはよく言ったものだ。


毎日たくさんの感情を、声で、瞳で、温度で、伝えてくれた。


それが一瞬で抜け落ちた。


……──否。一瞬だと思ったのは僕だけで、もしかしたら王馬くんは少しずつ、その感情を削ぎ落としていったのかもしれない。

「どこか遠くに行きたい」「迎えに来て欲しい」と相反する気持ちを抱く、家出をした子供みたいに。

僕には気付かれないように。ほんの少しだけ、ヒントを与えるように。叶うことなら気付いて欲しいと頭の片隅に浮かんだあと、首を横に振るように……


知っていたはずなのに。


煽って、混沌とさせて、馬鹿にして、掻き回す。
悪意も敵意も何処吹く風で受け流す。

なんでもないように振舞っているけれど、本当は彼にだって心の内には柔らかい一面があること。


僕は、そんな彼の心を、踏みにじったのだ。



なにも踏みにじろうとして踏みにじったわけではない。
これが王馬くんなら。わざと地雷の上でタップダンスをするくらいのことをして見せるが、僕にはそんな度胸はない。
言い訳でしかないが、本当に傷つけるつもりはなかったのだ。



忘れもしない。あの夜。

「オレらの組織のこと五年も探っているのに組織構成もアジトも突き止められていない、それどころか、犯行ひとつ食い止められないへっぽこ探偵見習いのさーいはーらちゃーん!!」

「もう見習いじゃなくなったから。キミを捕まえるのも時間の問題だよ、王馬くん」

「ふーん。じゃあ、一人前の探偵さんには、これは要らないかぁ」

王馬くんの白い指が掴んでいたものは『最原終一様専用 ご招待券』とシルバーで箔押しされた黒と白のブロックチェックの封筒。右下には何かと目にするDICEのマークが描かれている。


「なにこれ」

「こないだ最原ちゃんがご両親に会わせてくれたからさー。次は旦那側に挨拶に来るべきかなって!」

「僕は嫁じゃ……、え。いやちょっとまって」


それどころじゃない。
無視できないことを言われたが、一旦置いておこう。


僕が叔父の家にお世話になるきっかけとなった一本の洋画。
原作小説を書いたのは実母、主演を演じるのは小説のモデルとなった実父。この映画を皮切りに海外での仕事が増えたおしどり夫婦は、数年越しに日本でのリバイバル上映が決まって、舞台挨拶のためにようやく一時帰国することになった。

もうそろそろで両手が埋まるという年数。僕と両親は離れて過ごしたが、会いたいと思う気持ちは年々萎んでいった。声を聞きたければ電話があるし、顔が見たければビデオ通話で事足りてしまう。

ただいつか両親みたいな夫婦になりたいと思った幼心だけは残っていたようで。この二人に、少々奇天烈な出会いだったとしても、同性であったとしても、時間をかけて最愛と呼びあえるようになったパートナーと直接会って欲しいと思ってしまい、多忙な恋人と多忙な両親の予定を擦り合わせた。


つまり、今度は、王馬くんの……


あれ。


「両親はいないって言ってなかった?」

「家族“は”いないとは言ってないよね」



ちょんちょんと指さす右下のマークに、僕はただただ目を見開くばかりだった。