葵月
2026-04-04 22:18:15
9347文字
Public
 

十五夜とラーメン

・平和軸
・王最
・二次創作
・ラーメンが食べたかった
・王馬くんのもういいよが見たかった
・なんでも許せる人向け






結局、僕は王馬くんの組織のメンバーに会っていない。



いつもの嘘だったと言う訳でもない。

いや、もしかしたら嘘なのかもしれない。




嘘かどうかを確かめることも、できなかったのだ。









約束一日目。
初めてひとりで受け持った浮気調査。

専業主婦でいつも決まったスーパーにしか出かけない奥さん。
初めて使う路線から見た景色がとても綺麗で、リフレッシュができた、と旦那さんに話してしまったらしい。

怪しんだ浮気相手から旦那さんに待ったをかけて一ヶ月。

二人のメッセージアプリに再び動きが見え、何としてでも捕らえたいと躍起になっていた。
しばらく会っていなかった二人の久方ぶりの熱い夜はいつの間にか静寂の闇へとかわり、晴れた心を表すような朝日を呼んだ。


……僕が王馬くんに連絡をできたのは、人の動きが激しくなった頃だった。





約束二日目。
不定期な仕事だが、“この曜日は比較的落ち着いている気がする”という日が生まれる。僕にとってそれは火曜日だった。

前回は金曜日の約束だったから、急な調査で身動きが取れなくなってしまった。
それならその根拠もないただの感覚にあやかろうと王馬くんに「火曜日にして欲しい」と頼み込んだ。お代に僕の足腰が一時的に使い物にならなくなったが、安いものだろう。


僕の叔父はペット探しはしない。
それでも年に数回、どうしても断れない相手からの依頼や同業のヘルプで慣れない作業のために外に出る日がある。……それは火曜の夜のことが多かった。



逃げ出された五十三匹の犬猫兎蛇ハリネズミチンチラたちを一匹ずつ、ゆっくりと着実に捕まえていく。最後の二十一匹になった時、何故か残りの動物たちがひとつの公園に集まって遊んでいたので、出入口に見張りをつけた上で動物と人間の鬼ごっこを繰り広げた。


全員が籠に入ったことを確認し、躊躇なく冷たい地面の上に寝転がる。静かな夜空を見上げ、火照った体と上がった息が少しずつ落ち着いて行くのを感じながら、右ポケットに手を伸ばした……が、その手は空を切った。


ペット探しの次はスマホ探し。
オープンと同時に駆け込んだ携帯ショップ。
設定もデータの引き継ぎも、全て終わらせて連絡できたのは十時過ぎのことだった。




約束三日目。
探偵というのは金・土・日と、夜以降の時間が忙しい。

「朝一……は、間に合わないかもしれないから……。昼にしてほしい」とベッドの上で頭を下げる。
無防備になった下半身に突っ込まれた無機質なもののことはしばらく思い出したくない。間違えてもどっち?など聞かないで欲しい。
成し遂げたいことが二つあった場合、どちらか一方しか選ばない。二兎を追う者は一兎をも得ず。
残念ながら、悪の総統はそんな殊勝な男では無い。



浮気をする人や逃げるペットはこちらの予定を鑑みてはくれない。
ではそんな案件ばかりかと言うと、それは違う。
九時から十七時。労働時間が規則正しい場所に潜入することだってある。企業調査だ。


ひとり立ちした僕のもとには“元【超高校級の探偵】”のネームバリューもあってか数々の依頼が舞い込んできた。


横領、情報漏洩。数人からの報告で入社六年目の一人の社員によって行われているであろうことは予測がついたが、決定的な証拠を掴ませてはくれない。
会社に大打撃を与えられる前に早急に対応して欲しいという大手大企業からの依頼だった。



二日で終わる予定が、気になって様子を見に来てしまった常務取締役の後頭部が隠しカメラに残されていたことで延長が決まった。三日目は遮るものは何もなかったが、前日近くを通っていた常務取締役の姿に引っかかったのか、件の社員は姿を見せなかった。
四日目が王馬くんとの約束の日だった。


三日目の夜の時点で、会いに来てくれた王馬くんに「理由は言えないけど、明日行けなくなった」と伝えた。



四日目は───訪れなかった。

「もういいよ」と言われてしまったからだ。